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忘却の勇者  作者: 蒼崎シキ
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第9話 勇者は魔力の神髄を理解する

「第2層の中心部に拘束されていたその少女を城で保護しろと……お前はそう言うのだな?」


ピリッとした空気が玉座の間に張りつめる。

女王様は大上段の玉座に座ったまま、顎をしゃくった。

その先には僕の横で静かに眠る少女の姿があった。

女王様の言う通り、僕は第2層の中心部で保護した人族らしき少女を王城へと持ち帰り、彼女をこの城で保護してもらえないか打診したのだ。

何故このような提案をしたのか、自分でも全く理解できていないが、そうすべきだと思ってしまった。

なのだが――。


「この城はお前のものではなく、人族の安寧を守る象徴そのものだ。そんな場所で得体の知れない者を匿えと、お前はそう言っているのだな?」


――状況は非常によろしくなかった。

肌を刺す空気が非常に痛い。

ここからの逆転は厳しいだろう……厳しいだろうが、女王様を説き伏せるしか僕に道はない。

僕は女王様を真っすぐに見据えて口を開いた。


「はい、その通りです」


僕は可能な限り頭を垂れて女王様の説得に乗り出る。


「この少女を王城で保護することに反対の意志を示されていると認識しておりますが、無礼を承知で逆に問わせていただきます。女王様は何故、得体の知れない存在であったはずの私をこの城に置いてくださったのですか?」


女王様は一拍置いた後、静かに僕の問いに答え始める。


「お前には才能があった。お前がこの地へ転移してきた時に生じさせた莫大な魔力の放出……お前は人族の希望になり得る存在だった。それが理由だ。だからこそお前はこの城で匿い、他の転移者とは異なる扱いをしている」

「であれば、この者もまた人族の希望になり得る存在であると推察します」

「何?」

「この者は魔力濃度の非常に強い中心部に囚われていました。それだけの因子を吸収しても魔人へ変化していない結果を見れば、この者も強大な力を持っていると推察します。故に私はこの少女が人族の希望になり得る存在だと考えます」

「……それはお前が決めることではない。私が決めることだ」


貴様は一体何様のつもりだ、と無言の圧力が伝わってくる。

しかし、僕はここで引くわけにはいかなかった。


「女王様が信じた私の見る目を信じてはいただけないでしょうか?」


僕の言葉を聞き届けた女王様はつまらなさそうに片肘をついた。


「……弱いな」

「えっ?」

「お前一人の言では弱いと言っている。そうだな……何かあればお前だけでなく、お前の教官にも責任を取らせよう」

「ふぇ!?」


玉座の側に待機していた教官が奇声を上げる。

急に矛先が向いた教官の表情は鳩が豆鉄砲を食った様子だったが、それも束の間、すぐに僕を睨みつけた。

そんな睨みつけたってしょうがないじゃないか。

ドスの効いた睨みを、しかし僕はそよ吹く風のごとく気づかないふりをした。


「その少女が何かしでかせば、すぐにお前らの首を刎ねてやる」


話はこれで終わりだ、と退席を促す女王様。

僕はその言葉に従い、さっさと玉座の間から離席しようとしたが、教官に目を向けてみれば、この世の終わりだと言わんばかりに絶望した表情で足元から崩れ落ちていた。

ー。

――。

―――。

「魔力とは破壊に特化したエネルギーである」


少女を僕の部屋に運び、ベッドに寝かせた後、僕は教官から魔力についての講義を受けていた。

僕と教官は城下町を出て、ダンジョンのすぐそばにある岩場で向き合っていた。

心なしか教官はやる気がなさそうだが、きっと気のせいだろう。


「色々と口で説明するよりも、実践を見た方が理解しやすいだろう」

「まぁ、百聞は一見にしかずと言いますしね」

「……なんだその言葉は?」

「……なんなんでしょうね」

「お前は時々意味不明な言葉を話す癖がある」


ぶつぶつと文句を垂れながら教官は腰に差した剣を引き抜き、近くにあった大岩を斬りつけた。

一刀両断。

見るも一瞬。

音すら皆無。

大上段に構えた剣は気づけば大岩の最下部に埋もれていた。


「これが魔力を帯びていない太刀筋だ」


教官、今の太刀が魔力を帯びていたとしても僕は納得しますよ。


「そしてこれから見せるのが魔力を帯びた太刀だ」


黒い流動体が教官の持つ剣に纏わりつく。

それはつまり、視認できるほどの濃度が高い魔力を剣に纏わせたということだ。

そして教官は先ほどとは違って雑に剣を真横に振るった。

振るわれた剣の先にある大岩は剣が直撃する前……より詳しく説明するならば、剣に纏わりついた黒い流動体が直撃した瞬間、大岩は粉々に砕かれ、剣筋が大岩を通り過ぎた時には岩という岩は消滅し、石ころの残骸が周囲に転げ落ちていた。

その破壊の跡はチェーンソーに類似していた。


「このように同じ剣閃でも魔力なしと魔力を帯びた攻撃では破壊力に違いが出る。これは剣に限らず、どんな使い方であっても魔力は破壊することに特化している。例えば、農民であれば農具に魔力を帯びさせることで畑を耕す時間を短縮し、職人であれば刃物に魔力を帯びさせることで鉄をいともたやすく切り裂き、機械加工を容易にこなす。魔力は各々の宿業に合わせてその性質を変化させる。ここまでで何か質問はあるか?」

「はい。使い方によって魔力の破壊の質は変わるということなのでしょうか?」


機械加工も農作も繊細な作業だ。

先ほど教官が見せたような破壊を行っては作業が遂行できない。

つまり、使い方によって魔力による破壊の質はコントロールできるのではないだろうか、と考えたのだ。


「鋭い指摘だな。その通りだ。その者らの宿業に合わせて魔力の質は変化する。職人系の宿業であれば、繊細な破壊が可能な魔力になるだろうが、私のように武人系の宿業であれば、物を壊すことに特化した魔力が生まれる」

「……」

「お前は一体どんな魔力の質を持っているんだろうな」


教官が近くにあった大岩で試してみろと視線を向けたので、指示に従い、僕は大岩の下まで歩いていった。

漠然とではあるが、僕は自分の魔力の性質を理解している気がする。

僕は人差し指に魔力を帯びさせるとその人差し指を大岩に突き刺した。

なんの抵抗もなく僕の人差し指が大岩に埋まっていく。

そして、人差し指を引き抜けば、大岩には綺麗な円形の穴ができていた。


「なるほど、お前は職人系の宿業ということかな」


うんうんと頷く教官を尻目に、僕は魔力を帯びた拳を大岩に向かって放った。

すると大岩は破裂し、粉々に砕け散った。


「ふぇ?」

「……」


口を開けて驚愕する教官を捨て置いて、僕は砕け散った大岩の破片を手に取った。


「いやいや、それはまだ無理だ。自分の肉体と違って外部に魔力を通すのはコツがいる。それに宿業によって魔力を通すことができる物質が限られ……」


僕は破片に魔力を流すと、その破片を岩場の先にある森に向かって投擲した。

すると破片は次々に木々を貫通し、数十本の木がなぎ倒された。


「ふえ?」


驚嘆する教官を横目に僕は一人で確信した。

僕は他の人族と違って魔力の使い道が多いらしい。

少なくとも魔力の制御において、僕は宿業なんてものに囚われていない。

だって僕は魔力を知覚したその瞬間から、魔力を自由なものだと理解していた。

魔力はエネルギーの一種であり、自由に制御できる代物であると認識していた。

創作物に出てくる魔法と一緒だ。

魔法は想像力次第で強くも弱くもなる。

なら、僕に限って言えばこの世界の魔力も想像力次第で……。

僕は早くもこの世界における魔力の神髄を理解した。

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