第8話 勇者はいつの間にか魔力を知覚する
チュートリアルはまだ終わっていなかったのか。
溜息を吐きながら僕は王城の正面玄関を出て、城下町を縦断して、街の外へと飛び出した。
向かう先はもちろんダンジョンだ。
ダンジョンに住まう強力な魔獣や魔人を討伐して、一刻も早く魔力を知覚しなければならない。
そうしなければチュートリアルは終わらない。
そんな危機感に襲われる。
故に僕はただひたすら無心に害獣たちを駆除して回った。
ある時は南の洞窟へ、またある時は西の森へ、はたまたある時は北の砂漠へ……。
僕はありとあらゆる場所へ赴き、ばっさばっさと魔獣たちを斬っては捨てていった。
余談ではあるが、ここの人たちと話してみて、このゲームの世界観がようやく分かり始めてきた。
この世界は第一層、第二層、第三層に分かれていて、第一層は浮上都市、第二層は地上、第三層は地下になっている。
僕たち人族は第二層に生活圏があり、第二層である地上には四種族が生活圏を持っている。
地上は表面上、綺麗な円形になっていて、北西に黒妖精族、南西に小人族、北東に巨人族、南東に人族の生活圏が存在する。
そして、それぞれの生活圏は北から南へ縦断している巨大な川と東から西に横断している巨大な山脈によって区切られている。
だから僕が行動できる範囲は人族の生活圏である第二層の南東のみであり、川と山脈を越えてはいけないという風に王城の偉い人たちからは釘を刺されている。
まあ、こちらとしても人族の生活圏を抜け出そうなんて考えてはいないし、考える気さえ起らない。
何故なら、前述の巨大な川や山脈には幻獣や強力な魔獣が生息しているとのことだからだ。
先日の街中のダンジョンで幻獣の強さを知った僕にとって、川や山脈に行くことは自殺行為に他ならないと理解している。
だからこそ、僕が今こうしてちぎっては投げを繰り返しているダンジョンの深度も幻獣が生息しているであろう奥地まではいかずにダンジョンの入り口付近……入り込んだとしても中盤までと決めている。
かといって、こんなことを繰り返していても何も変わらないだろう。
何故ならば、ダンジョンの弱い魔獣を相手にイキっていても魔力を知覚することは叶わないからだ。
教官は『魔力の知覚は当人の魔力容量に左右される』と言っていた。
つまり、魔力容量が大きければ大きいほど、強力な魔獣を討伐しなければ魔力を知覚することはできない。
しかし強力な魔獣となると、やはり真っ先に思い浮かべるのは幻獣だ。
もしも幻獣を相手にするとなると、今の僕の実力では命懸けだ。
そんなリスクはゲームの序盤で負いたくない。
ではどうすればよいのか。
この課題に対しては、王城や街の人に聞き込み調査を行い、情報を収集したのでばっちり対策済みだ。
並大抵のダンジョンでは魔力を知覚することができないと僕は理解した。
なればこそ、次に向かうべきは第二層の中心だ。
王国民の情報によると、第二層の中心には火山のような巨大な山があり、その中心部である火口からは絶えず魔素が流れ出ているらしい。
仮説では、その山が地下の第三層と繋がっており、魔王から溢れ出る魔素の発生源になっているとのことだ。
そんな魔素の濃度が濃い場所へ行けば、きっと僕も魔力が知覚できるようになるに違いない。
期待に胸を膨らませながら、僕は第二層の中心部へと向かった。
僕は火山の麓へ辿り着くと、火山の内部へ通じていそうな洞窟を発見し、何の気負いも、準備もなく中へ入っていった。
道中、魔獣をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し、僕はあっさりと火山の中心部へ辿り着いてしまった。
中心部は巨大な穴がどこまでも広がっており、仮説を立証するかのような荘厳さだった。
そして、なるほど。
確かに第二層の中心部は強大な魔素に満ち溢れていた。
黒っぽい気体が絶えず穴から溢れ出ている。
素人の僕でも視認できるほど禍々しい力の奔流。
これが魔素か。
本来魔素は可視化できないとのことだったが、ここには視認できるほどの強大な魔素が満ちている。
確かにこれは第三層に繋がっているのかもしれない。
巨大な穴を覗き込みながら僕が深慮に耽っていると、視界の隅に何か人族らしきものが映った。
僕が視界の隅に映った何かを探るべく顔を上げると、火山の中心部に人族らしき女性が浮遊していた。
僕は普段リスクヘッジだの安全だのをすぐに考えるのだが、何故かこの時はそんなことも忘れて一心不乱にその人族らしき女性を助けようと、巨大な穴の中心部へ足を踏み出していた。
当然、その足が巨大な穴の中心部へ届くことはなく、気づけば僕の足は行き場を失い、穴の底へと落ちていった。
穴の中に渦巻く夥しい魔素の奔流に飲み込まれた僕は、またしても意識を失ってしまった。
―。
――。
―――。
気づけば、いつの間にか僕は元いた穴の縁側に佇んでいて、僕の腕の中には人族らしき女性の姿があった。
そして気づいたことがもう一つ。
この女性を助けるのに一心不乱だった為、気づくのが遅れたが、僕はいつの間にか魔力を知覚できるようになっていた。
しかし、どうして僕はこの女性を本能的に助けようとしてしまったのだろうか。
疑問が払拭されることはないまま、僕は帰路に着いた。




