8/4「幸運のお守り」
「ふんふんふ~ん♪」
とある工務店にて男が上機嫌そうに鼻歌を歌っている。
彼はこの店の社長であり、社員数は少ないながらも確固たる実績によって取引先から信頼を得ていた。
「社長、随分と嬉しそうですね、何かあったんですか?」
社員がそんな社長を見て尋ねる。
「おや、分かるかい君にも?実は昨日オークションで幸運のお守りを競り落とせたんだよ」
「おー!それは良かったですね!」
この社長は風水や運気といったモノをかなり気にする。
工務店の場所も風水的には最高の場所らしいし、取引先との会議場所もかなり気にして指定する。
「それでそのお守りとは?」
「昨日買ったばかりだからな、配送の手配もあるから午後には届くはずさ」
そして正午ごろ店の扉を開けて男が入ってきた。
「あ、あなたは!!」
「先日は私どもの部下が貴社に失礼を働いたようで、大変申し訳ございませんでした」
スーツ姿の男は入ると同時にそう言って頭を下げる。
「そ、そんな……困りますから」
「どうかしたのかね?」
社長が出てきて男を見た瞬間
「貴様は!! おのれ何度言ったら分かるんだ!? 貴様のような会社とは一切取引なんぞせんからな!! 何度頭を下げたところで無駄だ!」
社長は男を店から追い出してしまう。
「しゃ、社長……いくら何でも言いすぎなのでは?」
「ふんあそこの会社にはあれくらいがちょうどいい教育になるというものだよ」
「しかしどうしてそこまであの会社との取引を?」
「そうか、君はまだ新入社員だから知らないんだったね」
「あの会社は口にするのも恐ろしい『ネジ』とかいうのを取り扱っているんだよ」
「は、はい?」
「知っての通りこの工務店は創業当初より釘を使っている。それがあの恥知らずどもは『ネジ』だとぉ?全くもってふざけた話だとは思わないかね?」
「は、はぁ……おっしゃる通りですね……」
社員はそう答えるしかなかった。
そして午後、今度こそ社長の期待の元である幸運のお守りが届けられた。
「ふふふ、やはり素晴らしい。この輝きは家宝にすべきくらいだ」
「社長、私にも見せていただけますか?」
「構わんよ、ちゃんとケースにしまってあるからね。ほーれ見たまえ」
「え!? これは……」
社員は驚いた。その理由は、
「この釘にとても良く似た形、それを螺旋が渦巻き、そしてこの部分は幸運の証であるプラスの刻印……素晴らしいだろう?」
社員はこの時二度とあの会社の人間を店に入れないようにしないと心に決めた。