表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度失う  作者: 雨上がり
60/61

三十歲目の笑みの朝

「お父さん、準備できた。」

「わかった、ちょっと待って。」

旭希は微笑んでカバンを取り、ついでにテーブルに置いていた鍵を取った。

「はーやーくー!」

「はいはい。」

玄関に座っている永望は、不満そうに催促していた。

そしてそろそろ機嫌悪くなりそうな永望を見た旭希は、すぐ部屋から出て、玄関に来た。

「遅い!」

「ごめんごめん。あぁ、お母さん。」

旭希がそう呼んだ相手は、彼の本当の母ではなく、妻の母だ。

「間に合ってよかった。これ。」

「これは…朝顏?」

「うん。あの子の好きな花だ。覚えているよね?」

「はい。では、行ってきます。」

「いってらっしゃい。」

朝顏の花束を手にして、旭希は永望の小さな手を繋ぎ、一緒に出掛けた。


「お父さん、この花はどうして朝顏っていうの?」

「それはね、この花は朝にだけ咲いて、夜に枯れるからね。」

「変な花!」

「変…かな。見ている人がいないから、枯れたのかもしれない。」

「夜でも、お月さまがいるよ?」

「…そうだね。永望すごい。」

永望は笑って、少し前に走った。

「お父さん早く!」

「…!」

「うぁ!ごめんなさい、ぶつかってしまって…あぁ!剎華さん!」

「おはよう。永望ちゃんの声を聞こえたから、来てみてよかった。」

剎華は微笑んで永望の頭を撫でながら、永望の後ろにいる旭希にうなずいた。

「それは朝顏ですよね?彼女にピッタリです。」

「そう?母から預けたんだ。」

「なるほど。」

「そういえば、夢九は大丈夫?」

「ぴんぴんしていますよ。ほら?」

剎華と旭希が挨拶している間に、永望はすでに剎華が飼っている子猫の夢九と遊び始めた。

夢九はあっちこっちに跳んでいき、そして永望が楽しく追っていた。


三人と一匹はすぐに改めて出発した。待ち合わせの場所がここではないから。

あと一人。

「もう!光兎さん、いつも最後!」

「ふふ、あの人学生の頃もそうだったよ。」

「そうなの!?三つ子の魂百まで。」

「永望、こういうのは本人に言わないと。」

旭希は軽く剎華の頭を叩き、そして後者は子供っぽく笑っていた。

ついに、最後の一人が登場。

「ごめん…!」

「光兎さん遅い!」

「ごめんよ、永望ちゃん。」

「許さない!」

「え…!」

光兎は片手で永望を抱き上げ、彼女とじゃれあっていた。

もう二人は仕方なく笑い、共にそのところに向けて歩き出した。


目的地に近付くほど、三人の大人の気持ちも重くなった。

それでも、いずれゴールにつく。

花束をもらった永望は、小さな橋の上に行って、優しく花束を置いた。

「夢瞬、お誕生日おめでとう。見てる通り、永望はもうこんなに大きくなったよ。まだまだ子供だけど。」

いつか、君もよく知っている、大人の姿になるのだろう。

「心配しないで。俺じゃ物足りないかもだけど、永望がとてもいい子だし、お母さんも手伝ってくれている。寂しい思いをさせないよ。」


「夢瞬、今年も来たぞ。お誕生日おめでとう。」

光兎は微笑んだ。

「君と一緒に祝った誕生日、一度だけだが、一生忘れない。」

あそこに、たくさんの人たちと一緒に過ごした成人式。

「その約束、守り続けるよ。」

来年も、再来年も、それからも毎年、ずっと一緒に誕生日を祝おうね。

君はそう言ってたよね。


剎華は夢九を地面に置いて、再び立ち上がった。

「夢瞬、お誕生日おめでとう。三十歲になったね。私の方が早いけど。」

星座の話をしたこと、光兎の冗談を言ったこと、覚えてる?

「夢九は、私がちゃんと見守るから、心配しなくていいんだよ。」

本当は、少しだけでいいから、私を会いに来てくれないかな。


「お母さん。永望です。

「お誕生日、おめでとうございます。

「お母さんの代わりに、私がお父さんを見守って、光兎さんを叱って、剎華さんと遊びます。

「もちろん、夢九もちゃんと見守ります。

「お母さん、家の楓がとっても綺麗だから、見に来てください。

「もし私が寝ちゃったら、頭を撫でてください。

「私たちを、忘れないでください。」

…?

每年来るのに。

誕生日だけでなく、命日も来るのに。

なのに、どうして?

どうしてここに来る度に、泣きたくなるだろう?

あなたを失った痛みは、もう消えたはずなのに。

涙も、もう枯れたはずなのに。

「本当の願いは、言っちゃいけないよね?」

本当は、あなたとお父さんと一緒に暮らしたい。

本当は、お父さんが仕事に出かけるとき、寂しかった。

本当は、お祖母ちゃんはよく、夜中に一人で泣いていた。

本当は、知っているんだ。遅刻したお父さんは、涙を堪えていると。

本当は、話したい言葉がたくさん。

でも、この言葉だけ、どうしても伝えたかった。

直接に、伝えたかった。


会いたいよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ