三つ目の欠席の朝
「夢瞬!おはよう。」
「おはよう。」
夢瞬は少年に軽く頷く。
彼と知り合ったきっかけは、藤原家と安倍家も出席してるある宴だった。
「初めまして、安倍夢瞬さん。」
何気ない挨拶を、夢瞬は覚えていた。
何故なら、これは初めて、名前で呼ばれたから。
「安倍永望の娘」ではなく。
「光兎。大晦日の時、うちで君が飼ってる鳥を見かけた。」
「うん、知ってる。僕がそう命じたから。」
「どうして?」
「安倍様の現状と実力が知りたくて。」
「他の家族にとって、お母さんはやっぱり大きな脅威だよね?」
「脅威っていうか、もはや自然現象の感じだけど。」
夏には台風、冬には雪。
安倍永望はもう、誰も届けない高みまで行った。
「お母さんのすごさは、十二天将を使えるからなの?」
「それだけですごいことなのに、加えて吸血鬼の力があるからな。」
昼間ではほぼ出歩けないが、夜になると、力が倍になる。
「安倍様が動けない朝を、十二天将が補完してる。だからすごいんだよ。」
二人は一緒に右に曲がって、夢瞬は外側に歩いてる光兎がついてくるのを待って、そして話題を続く。
「十二天将たち、力を持ってるのに、どうしてお母さんに従うの?」
「天将には手を出せないが、手を出さなければならないことがあるからな。」
「もし、お母さんにはそれほどの力がなかったら?」
「逆だ。そういう存在が必要から、すべてを継承した安倍さんが生まれたわけ。」
「なんか、大変そう。安倍晴明様もそんなに忙しいのかな。」
「わからないけど、僕の先祖たち、よく晴明様に頼ってるらしい。晴明様、疲れるんだろうな。」
「何を頼ってたの?」
「色々。今日は出かけていいのか。ゴミを捨てに行くのか。とか。」
「大事なことじゃなかったの?」
「それはあるよ。死にそうな家族をどう助けばいいとか、皇族としていつ何をすればいいとか、みたいな。」
「それ、安倍晴明様全部わかってるの?」
「うん。あの人は多分、三才を極めた人。」
「三才?」
「天、地、人のこと。」
左に曲がったあと、二人の目の前にある建物こそが、彼らの中学だった。
「...今日は光兎とこんな話をした。」
「そうか。」
勾陣は相変わらず、窓の外を眺めてる夢瞬を見ている。
「お母さんみたいな人にとって、三才は大事なことなのか?」
「初めは天、つまり陰陽を知るだけで充分。夢瞬さんが私たちのことを知っていくのも、天道を知るにはなれる。」
「地道は?」
「地道は柔と剛...そうだね、夢瞬さんは、騰蛇と太裳の違いがわかるよね?」
「うん。」
「でも永望は既に柔と剛を理解したから、その二人をうまく扱える。」
「なるほど。でも、個性だけじゃなく、色んなことも柔と剛が必要だね。」
「その通り。」
「最後の人道は?」
「人道は仁と義。それは、君が学校で学んだ仁義の定義と似ている。」
「勾陣、私はこの三才をどこまで知ったのかな?」
夢瞬は振り向いて、勾陣を見つめる。
「...正直言うと、まだまだだね。」
「やっぱり。」
「でも、夢瞬さんも頑張る次第、三才を極める日が来るかもしれない。」
「極めたどころで、意味ないけど。」
夢瞬に、勾陣はそれ以上返事しなかった。
朱雀の料理が出来た音がした。
「食事だ。」
「うん。」
「三才?」
貴人は不思議そうに、夢瞬を見つめる。
「夢瞬さんも三才を極めたら、きっと永望の力になれると思うよ。」
「そうか?本当にそうなのか?貴人!」
「ええ。永望は夜でしか出歩けない。昼は私たちが担当してるが、もし人間が必要とする場面になったとき、永望の目覚めを待つのは遅すぎる。」
「うん。」
「もし夢瞬さんも三才を極めたら、力を持ったというより、君には、永望の代わりに物事を決める権利があったということ」
「なるほど。」
「私から見れば、夢瞬さんは既に人道を把握しつづある。天道は私たちが補完できるし、夢瞬さんも勉強熱心だし。」
「つまり...」
「今の君にとって一番足りないのは、地道かな。」




