二十九命目の了承の朝
「早く行きな。」
スピカは、本殿に指差す。
「彼らが君を待っている。」
「彼…ら?」
夢瞬は光兎の方を見たが、彼もわからなかったみたい。
そして、四神たちは全員目を逸らした
「それが誰なのか、知っているの?」
「…はい。」
「私、そして安倍永望にとっても、大事なその人のこと?」
「はい。」
夢瞬は振り向いて、それ以上問いかけるつもりはなく、本殿に真っ直ぐに向かった。
本殿の前に立った夢瞬は、手を伸ばし、その扉に手をつく。
「踏み出したら、もう戻れないよ?」
夢瞬はスピカを見て、微笑んだ。
優しい人だ。
「ありがとう。」
「…!なんでお礼を言うんだよ!」
再び扉を見つめ、夢瞬は両目を閉じた。
見つけて。永望を。
その懐かしい声は、少し怖かったが、そのおかげで怖くなくなった。
夢瞬は一歩を踏み出し、扉を開けた。外の日差しのせいか、中は少し暗い。
それでも、彼女はすぐに本殿にいる二人の顔を見た。
座っている男と、彼の膝の上に眠っている女の子。
「久しぶり、夢瞬。」
「…旭希。」
彼は微笑んで、うなずいた。
安倍晴明が亡くなってから、すでに千年以上過ぎたが、安倍家に誰かが生まれた際に、十二天将たちはいつも側に見守っていた。
そして、影響しないように、吉将を残し、凶将が遠いところに待機する。
その日も、同じだった。
「騰蛇、朱雀、勾陣、玄武、白虎、天空。」
青龍の呼び掛けに振り向いた六人の凶将は、それぞれ緊張な顔をしていた。
「大丈夫、二人とも無事だ。」
青龍の言葉を聞いて、ひとまず安心した六人だが、青龍に笑顔がないことを気付いた。
「青龍?どうした?」
青龍と同じ、方角が東の勾陣は心配そうに尋ねる。
「貴人によると、その子供、血縁を継承していない。」
霊力も、吸血鬼の力もない。
安倍家の頭である安倍様の娘にしては、相応しくない。
「天后、あの子は?」
「看護師に任せたよ。」
「よかった…」
「名前はもう決めた?」
「うん。彼が考えたの。」
「そういえば、あなたの名前の由来は?」
「夢のように、千年も生きたように感じるが、ただ一瞬しかないから、夢瞬っていうんだ。」
「そうか。」
「その子…力を継承できなかったね?」
「はい。」
「ちょうどいいわ。永望の名前に相応しい。」
「永望?」
「永遠の希望となって、人々の胸に残るように。」
急に現れた彼の声を聞こえた天后は、微笑んだ振り向いた。
「旭希さま。」
「夢瞬は大丈夫そう?」
「はい。二人とも無事だ。」
「よかった。」
「永望か…いい名前だね。平凡な彼女に似合う名前だ。」
「ありがとう。天后に誉められて嬉しいな。」
「そう?」
彼は夢瞬の隣に立ち止まり、彼女の手を強く握る。
「ありがとう。お疲れ。」
「苗字、藤原じゃなくてもいいの?」
「うん。俺にとっても、彼らにとってもな。」
「…わかった。」
藤原旭希と、安倍晴明の後継者である安倍夢瞬の暖かさの中で、安倍永望は無事に大きくなった。
しかし、定めに抗えないとしても、強い無力感を消せなかった。
「どうして?どうして私には何の力もないの?」
「永望には、平凡に生きてほしいからな。」
母の夢瞬の言葉を、永望は理解できなかった。
力が欲しい。母を助ける、母を守れる力が欲しい。
そして、母の力を消したい。
彼女を不老不死にさせ、永遠に縛り続ける鎖のような力なんて。
だから、永望は十二天将に声をかけた。
「母上の力を、全部私に移ったりできませんか?」
そんな夢を持って、永望はそれに関する知識を勉強し始めた。
そして、方法を見つけてしまった。
まるで命が入れ替わったように、夢瞬の不老不死も、年齢も、霊力も、ほとんど永望に移った。
一方、夢瞬は極めて普通な人間となった。
しかし夢瞬の霊力があまりにも強く、永望の体が耐えられなかった。
靈力が夢瞬に戻り、永望もその波動のせいで命を落とす寸前に、彼は動いた。
「ごめん、夢瞬。」
旭希は、永望の頭を撫でてながら、囁いた。
「私も、そうすると思う。」
夢瞬は無理に笑おうとした。
「むしろ、私が謝るべきなんだ。」
どうして永望生前は、いつもここに来るのだろう。
ここが、彼女の父の居場所だから。
なら、どうして旭希はここにいるべきなのか。
「永望の代わりに余った霊力を受け取って、人間でも神でもない存在となって、ここにいるべきだろう。」
「…」
「私が死んだら?」
「問題解決なので、俺もそっちに行くよ。」
「君は本当に…」
「ごめん。」
「私が自分を責めることも、私が悔しくなることも知っているのに、今さら謝るなんて!」
「ああ、知っている。」
「…もういい。本題に戻ろう。」
夢瞬は涙を拭い、旭希を見つめる。
「どうすれば、永望を甦れるの。」




