二十五銀目の輝きの朝
「サタンさん。」
夢瞬は振り向き、サタンの方を見る
「…わかった。話したいことは?」
「まずは、夢九のことです。」
「夢九?その九生の化け猫か?どうした?」
「彼女は私のペットで、友達です。返してもらってもいいんでしょうか?」
「返す、なるほど。それはダメ。」
サタンは速やかに答えた。
「その化け猫は、君と同時に死ぬはずだったが、十の災いの被害者になってしまった。
「だからといって、それも彼女の天命だから、君のために変更することはできない。」
サタンの後ろに立っている夢九は、夢瞬のことをずっと見つめていた。
今の彼女には、余計な思いがない。
死ぬ瞬間に、すべての記憶が消されたはずだったから。
しかし、目の前にいるその女性のことを、彼女は少し哀れ…というより、その思いに共鳴してしまった。
「どうして…?」
夢瞬は驚いて、サタンの後ろにいる、声を出した夢九の方を見る。
「夢九?」
「この夢九という存在は、あなたにとってそんなに大事なのでしょうか。歴史を変えたいと思えるほどでしょうか。」
「夢九は、私にとってとても大事な存在です。」
どうして…か。
夢瞬は少し微笑んだ。今までの彼女は、一度でも深く考えたことはなかった。
迷わずに誰かのことを大事だと言える、考えずにそう断言できるのは、どれだけ素敵な夢だろうか。
少なくとも、過去の夢瞬にとって、それはただの夢だった。
「それが安倍夢瞬小姐か…!」
「永望様に似ているが…」
「あぁ、霊力の差が大きすぎる。」
永望が真っ暗な夜なら、夢瞬が明るい朝方。
永望が希望なら、夢瞬が届かない夢の世界。
永望が永遠なら、夢瞬が…
「一瞬の虚しさ。」
夢瞬は目の前の人々を見て、未練もないように外へ行った。
相変わらずの朝。
安倍夢瞬は、一度でも、夜を眺めることがなかった。
できなかった。
「…?」
遠いところに、騒いでいる人たちがいた。
しかし、通りかかる人々は、彼らと目を合わせないようにしている。
いつも喧嘩している二人。
冷静に見えるのに、炎のような彼のせいで、いつも暴走している人。
「…」
夢瞬は微笑んだ。
人と言う友達や、家族は、きっとあんな風にだろう。
自分と違う。
父の身分も知らず、母と会えることすら難しく。
側に、家族がいない自分と、違う。
「…おはよう。」
一人の女性は微笑んで、夢瞬の隣に来た。
「…?」
「初めまして、夢瞬さん。十二天将の太裳です。」
「十二天將…?太裳…?」
「ええ。そこにいる人たちが、安倍永望の式神、十二天將。」
「なるほど。」
「太裳は私の名前。そう呼んでくれると嬉しい。」
「わかった。」
「夢瞬さんは、その人間たちと話をしないの?」
「いつも母の方がすごいって言われるもん。」
「永望すごいからね。」
「私もそう思うけど。」
夢瞬は無表情に言う。
「しかし、側にいてくれないのなら、どんなにすごいでも。」
「夢瞬さん…」
「どうして私は朝でしか活動できないの?力がないっていうのに、凡人みたいに夜でも活動できるはずでは?」
「その通り。あなたの判断力は、相変わらず素晴らしい。」
「そう?」
「幼すぎて、覚えていないかもしれないが。」
「そうかも。」
「夢瞬さんは、本当になんの力もないんだ。」
太裳は微笑んだ。
「だからか、吸血鬼のルールですら、真逆に作動してしまう。」
「しかし…」
「それが、世界の答えのかもしれない。あなたと永望が一緒にいられないように。」
「それはなんのため…!」
夢瞬を見ている太裳の真剣な顔が、夢瞬を夢中にさせた。
「距離は、失う錯覚をもたらし、本当の失いに繋ぐのさ。」
「今、夢九が私の目の前にいる。」
夢瞬は真剣に言う。
「夢九と安倍永望が消えたあと、私は、君たちに二度と会えなくなったと思った。
「しかし私は間違った。
「君がここにいる、私の目の前にいる。
「見えないふりをして、もう一度君を失うなんてことはできない!
「これ以上失わない。
「距離が遠いだからって、失ったわけじゃない。
「夢九の心だってきっと、隠されただけで、消えたわけじゃない。」
距離は、失う錯覚をもたらし、本当の失いに繋ぐ。
しかし、だからこそ、失わないように、距離を縮める。
別れても大丈夫な絆を築くために、一体どれほどの勇気がいるだろう。
「サタンさん、復活させるなんて言いません。せめて、輪廻に入らせ、生まれ変わらせても?」
「…はぁ。近道を見つける才能か。」
サタンは苦笑いして言う。




