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もう一度失う  作者: 雨上がり
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二十三対目の失うの夜

「サタンさん、神になれば、それらの特徴を失うって、そう言いましたよね。」

少しの黙りのあとに、夢瞬は口を開けた。

「性別、年齢…区別できる、比較できる特徴を失ってしまう、そうですよね?」

「うん。」

「ひいきできない…彼女が神になれない理由がこれでしょうか。」

「そうだな。」

夢瞬は俯いて、胸元の服を右手で握り締める。

「サタンさん、一つ聞きたいことがあります。」

「聞きたいこと?」

「あなたの、旧友のことです。」


「俺の旧友ミカエルは、立派な大天使だった…」

堕落する前のルシファーは、ミカエルによく甘えていた。

大事にされていると知っているから。

「ミカエル!」

「なんだ?」

「ううん。呼んでみたいだけ。」

笑ったルシファーに、ミカエルも仕方なく苦笑いで見過ごした。

「大天使ってすごいんだね、色々できるもん。」

「そうかもしれないが、できないこともある。」

「それ以上できる気がする」

高く手を伸ばしたルシファーは、笑顔で空を眺める。

「俺は、誰よりも高く飛ぶ。」


「彼は一番偉大な大天使。彼を追い越せる存在はいなかった。」

サタンは目を閉じ、懐かしんでいるように語る。

「しかし、彼の汚点となった存在が現れた。」


ルシファーのクーデターを知ったミカエルは、すぐにルシファーのところに駆けつけた。

そして、事実だと分かってしまった。

「ルシファー、お前はどうして…?」

ミカエルを見た瞬間、ルシファーには少しだけでも、諦める気があった。

しかし天国は、罪を触れてしまった天使を受け入れないだろう。

心の奥にある、抑えきれない悔しさも、まだ消えていない。

「世界中、お前だけでも、俺を認めてくれると思った。」

ルシファーの背中を見ているミカエルは、過去のすべてを思い出した。

弟のような彼のこと。

大事にされていると分かって、甘えてくれる彼のこと。

それは自分の心にある、柔軟な一部。

そんな彼を責めるべきか。

ルシファーを見て、ミカエルは頭を振った。

「…主はお前をとがめておられるぞ。」

「あの人を選ぶというのか!」

ルシファーが再び振り向いたとき、見たのは涙が止めどなく流れ落ちた天使だった。

彼は気付いた。

泣いてくれるその人は、自分の心にある柔軟な一部。

「お前を責めることができない。」

お前を責めるべきではない、責めない、責めたくない。

責めてしまえば、その言葉が自分の心を傷付けるのだろう。

「お前を責める言葉がない。」


「その堕落した天使は、大天使ミカエルと戦い、結果天国に帰らず、悪魔の頭となった。」

「それが、あなたと旧友の話ですか?」

「…夢瞬ちゃん、君の言った通り、俺はすべてを失ったのかも。」

サタンは微笑んだ。

「俺にとって、彼がすべてだった。

「悪のために善となる君のように、俺が最悪になったのも、彼の最善のためだ。」

それは彼が好きで、望んでいた世界。

いつか、一緒にたどり着けるのだろう。

「…どうして天国に帰らないんですか?ミカエルさん、今でもあなたを待っているのかもしれません。」

「彼のためだからこそ、帰れないんだ」

分からないわけがない。気付かないわけがない。

自分が相手を待っているように、あの人も自分を待っている。

しかし、分かっている。

「言っただろう。神が神になれるのは、すべてのひいきを捨てたから。」

「はい。」

「だから、最悪と最善の俺らは、神にはなれない。

「善悪が消えたときになったら、また会えるだろう。」


神にとって、善悪への好き嫌いすら許されない。

そんなサタンを見ている夢瞬は、ようやくわかった。

サタンが本当に言いたいこと。

「…わかったみたいだな。」

「はい。しかしあと一つ、よく分からないことがあります。」

「なんだ?」

「どうして私に、ミカエルさんの気配があるのでしょうか?」

「あぁ、彼の祝福の元に生まれたんだからな、君は。」

「ミカエルさんの祝福…ですか?」

「そう。ミカエルの象徴は、始まりと再生」

「…!私にぴったりな方ですね。」

「そうさな。だからこそか、君は順風満帆な運命を歩めなかった。」

「サタンさんも、誰かに祝福を与えるのですか?」

「俺は悪魔だぞ、祝福できない。でも…」

サタンは目を閉じ、過去を思い浮かぶ。

「でも?」

「君が生まれる前に、一つ呪文を唱えてあげた。」

「呪文?」

「そう。ミカエルとの、思い出の呪文を。」


あのさ、ミカエル。

また呼んでみたいだけ?

違うよ。

じゃ?

人間に祝福を与えるとき、お前はいつも何を考えているの?

一番幸せなこと、かな。

なんで?

相手にも、同じのような幸せが訪れるように、かな。

じゃあ、いつもどんなことを?

こうしてお前と話をする日々…かな?

そう。

ルシファーは?

俺にとっての、一番幸せなこと…


「この子の名前、夢瞬にしよう。」

何千何万の夢でも、現実の一瞬に過ぎない。

小さな女の子を見て、サタンは目を閉じた。

そして、まるで懐かしい声が聞こえた。

「君が、雑談に付き合ってくれる友達に出会えますように。」

雑談とかしてないぞ。

サタンはそう思った。

「君が、泣いてくれる友達に出会えますように。」


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