二十二人目の大事の夜
「…光兎。」
「わかってるよ。」
後の光兎と剎華の囁きを無視して、夢瞬はただ目の前にいる夢九を見つめていた。
今全員は夢九に導かれて、サタンがいる西方の地獄に向かっている。
冥府までは同じ道だが、人間である夢瞬、光兎、剎華がより多くの時間を失わないように、夢九が選んだのは闇の近道だった。
「夢瞬さん。」
「うん?」
「夢九の正体知ってるよね?」
「九生の化け猫だよね。さっき見た瞬間にわかった。」
「…あのとき、夢九は永望と一緒に消えた。」
夢瞬は驚きを隠さず、六合を見上げる。
「つまり…?」
「永望の死と関係があるかもしれない。」
「サタンさまに聞くしかないか。」
「サタンについてだが…」
夢九。
猫又を家まで連れてきて、なぜか眠ってしまった翌日。
永望の連絡で休みを取った夢瞬に、貴人が永望の代わりに、プレゼントを渡した。
「…?」
「夢瞬さん、開けてみよう。」
微笑んでいる貴人に見守られながら、夢瞬は手を伸ばし、目の前にいる籠を開けた。
黒い猫。
「…ねこ。」
「そう。あなたが猫好きだと聞いた永望が、夢瞬さんに飼う猫を用意した。」
「名前は?」
「まだ決めてない。ただ、九歳の子らしい。」
「九歲…」
夢瞬はその黒猫を優しく撫でて、猫も夢瞬の手のひらに甘えている。
「…夢九がいい。私の名前との繋がりが欲しい。」
「そうか。」
「夢九は普通の猫なの?」
「どうして?」
「お母さんからもらった猫だと、多分妖精猫。」
貴人はフッと笑った。永望が完全に読まれた。
「この子、人形になれるんだ。」
「…!すごいな。」
「明日夢瞬さんと一緒に学校に行かせようか。」
「…うん。光兎と剎華に紹介する。」
夕方になる度、夢九はいつも猫の形で夢瞬を寄り添って、彼女が眠りつくまで待っていた。
そして、夢瞬が目覚めるまで、彼女の隣に待つ。
「夢九。」
ある日、夜に入る頃、横になった夢瞬は囁いた。
「うん…?」
「君のような猫は、どうして私のとなりに?」
「安倍永望の命令だから。」
「お母さんなら、君が嫌がるような命令をしないと思う。」
夢九は夢瞬を睨んだが、夢瞬は目を閉じたままだった。
なので、夢九はまた目を閉じた。
「一瞬だけだから。」
「…わかんない。」
「君の命は一瞬のようなもの。だからせめて、君が楽しくいられるように。」
「夢九は長生きできるの?」
「残りわずか、君と同じくらいの長さかな。」
「そうか…じゃ私も、君が楽しくいられるように頑張りたい。」
「…」
答えようとした夢九は、その穏やかな呼吸の音を聞いて、心地よい静かさを壊さなかった。
夜が来た。
「夢九。」
「…」
「サタンさんの命令は、私たちを案内するだけ?」
「はい。」
「例え私たちがサタンさんを殺そうとしても?」
「君たちではできません。」
「じゃあもし、君を殺そうとしても?」
「あなたはそうしません。」
「どうして断言できる?」
「…頭の中の声が、そう言っているからです。」
夢九は無表情のまま言う。
「どんな声?」
「夢九、すなわち私の前世が、安倍夢瞬にとって大事な存在だと言っています。」
「勘違いの可能性もあるけど?」
「…もう一つの声を信じます。」
「どんな声?」
「安倍夢瞬が夢九にとって大事な存在だと。」
夢瞬は微笑んで、夢九の隣に歩く。
「…?」
「ごめん。さっきのは、勘違いじゃない。」
夢九の案内で、みんなはサタンの宮殿についた。
「少々お待ちを。」
「待って…!」
夢瞬の呼び掛けが間に合わず、一瞬、全員が別々の空間に伝送された。
夢瞬はすぐ周りを確認したが、他の人が見当たらなかった。
「光兎!剎華!六合!」
「夢瞬。」
夢瞬はすぐ振り向いた。彼女がずっと探していたあの人だった。
「夢瞬、いっぱい探させてごめんね。。」
「どうして…?」
「君のために、サタンが私を見つけてあげた。」
「…」
彼女を見つめながら、夢瞬は一歩すら踏み出せなかった。
「どうしたの?夢瞬。」
「…君は本当に安倍永望なのか?」
「どうして?」
「勘。」
「私は本当に、安倍永望だよ。」
サタンについてだが、夢瞬さん、サタンと会話している際にはどうか警戒を油断しないで欲しい。
彼は人の欲望や望み、本能を利用する方なので。
「だったら、安倍永望という名前の由来が分かるの?」
「…」
「答えないのなら、安倍永望ではない。」
「安倍永望なら知っているという確信があるの?」
「もちろん。何度も聞かされたからな。」
永遠の希望となって、人々の胸に残るように。
「ハハハ、彼がつけた名前か。」
永望の姿がぼやけ初め、代わりに一人の男性の姿が現れた。
「…はい、サタンさん。」




