二十二人目の迎えの朝
「…」
「夢瞬、何してるの?」
遠いところを眺めている夢瞬に、光兎は戸惑う目線を送る。
「光兎、あそこに誰かがいるよね?」
「うん。北斗七星の一員だな。」
「どうしてそこにいるんだろう。」
「わからないけど、天秤も時々こんな風に遠ざかるよ。」
「天秤宮?どうして?」
「病と死亡を担当しているから、僕を影響したくないかな。」
「そういえば、太陰も同じかも。」
夢瞬は再び、遠く離れている星の君を眺める。
もし彼女は本当にこういう理由で遠ざかっているのであれば、夢瞬も自分から彼女に近付きたい。
「安倍さまは何を見ていますか?」
一瞬、後ろに危ない気配を感じた夢瞬は、すぐ振り向きながら距離を取った。
よく見たら、北斗七星の一員だった。
「安倍さまにとって、俺はそんなに怖い存在ですか?」
「いいえ…ごめん、変な感じだったので。」
「いいんですよ。」
「君は…?」
「北斗の一つ目の星天枢、通称貪狼です。」
天枢は紳士のように見えるが、あまりにも深いその瞳はまるで狼のように、警戒心を煽る。
「天枢ね…。」
「名前捨てとは、さすが安倍さま。」
「天将や月将にもこんな風に呼んでいるんだ。君たちにだけ敬称を使ってはよくない。。」
「それもそうですね。安倍さまは開陽を眺めているのですか?」
「開陽?」
「もう一つの名前の方が有名かしら?武曲です。」
「それは、文学を象徴する文曲と対応しているのか?」
「その通りです。ちなみに、文曲はあちら。」
天枢は笑って、二人の後ろに立っている、穏やかな女性を指差す。
「開陽はどうして、私たちから距離を取るの?」
「影響したくないでしょうね。」
「というと?」
「俺たち北斗七星は繋がっています。例えば俺は力の象徴です。」
「うん。」
「ですが、こういう言葉もありますよね?匹夫の勇。」
「うん。」
「なので、二つ目の星である天璇は知恵を象徴することになりました。」
「ほう…!」
「そして、開陽の前にいる星は、幸せを象徴する玉衡です。その故に、開陽が象徵するのは、幸せに溺れたから招いた災いです。」
「…開陽は、私たちに災いが来ることを恐れて、そこに隠れているのか?」
「はい。」
夢瞬は俯いて少し考え込んだ。その間、天枢は一瞬とも夢瞬から目を離さなかった。
彼女がどんな行動を取るのかが知りたかった。
しかし、考えたあとの夢瞬は、ただそこから離れただけ。
少しがっかりしたところ、天枢は夢瞬の行き先に気付いた。
「…双児宮。」
夢瞬は双児宮の隣に行って、彼を見上げた。
身長の差にかかわらず、夢瞬は少しでも動揺しなかった。
「あそこ、開陽がいるところに、連れて行ってくれてもいいかな。」
「…」
夢瞬は自分が、ほとんどの神たちに注目されていることに気付けなかった。
なぜなら、彼女がしていることは他人の式神を使うという、真剣なことをなんだ。
「…僕はあなたの式神ではありません。あなたを拒否する権利があります。」
「その通り。」
「もし拒否されたら、あなたはどうします?」
「歩いていく。」
速やかに答えた夢瞬に、双児宮も少し動揺した。
「…わかりました。」
少し遠い場所。
金色の長い髮が揺らし、武将の格好をつけている彼女は、見た目から迫力を発する武器を身に付けている。
武曲の開陽。
主の剎華に何も言われなかったが、彼女は夢瞬と光兎のことを考え、遠いところにいた山の上に来た。
武曲として生きている彼女は、天枢と並列な力を持ち、災いをもたらすのもまた事実。
主を不幸にさせる式神なんて、良い式神なはずはない。
「…!」
次の瞬間に、開陽の目の前に二人が現れた。
一人の男性と、一人の女性。
「あなたたち…!」
「開陽で合ってるよね?」
彼女は一歩ずつ近付き、そしてしゃがんだ。
「開陽は、私たちのことを心配しているから、こっちまでに来たの?」
「…はい。」
「開陽は、幸せに溺れたから招いた災いを象徴していると、さっきそう聞いたんだけど、間違いはないよね?」
「その通りです。」
「ならば、心配する必要はない。私たちは幸せに溺れたりしないよ。」
「…ですが!」
「開陽のためでも、浮かれないように頑張るよ。」
彼女は笑顔を見せ、開陽の手を握る。
「一緒に帰って、サタンさんが来るのを待とう。」
開陽がようやくうなずき、夢瞬と共に双児宮の前に立ち、伝送してもらうところだった。
三人のそばに、一人の女性が急に現れた。
地面につくほどの黒い髪の上に、もふもふの耳が二つ。
浴衣の下から出した尻尾は、九つほど。
そして、外見の艶やかさと真逆な、虚しい瞳。
「安倍夢瞬さまで、間違いありませんね。」
「夢九…!」
夢九は夢瞬の呼び掛けに答えず、ひたすら語る。
「私はサタンさまの命令に従って来ました。地獄まで案内します。」




