二つ目の感情の朝
目を開けた少女は、いつもと違う高さにいた太陽を見つめる。
「おはよう、夢瞬さん。」
「おはよう。」
夢瞬はゆっくり起き上がって、隣に立っている勾陣を見つめていた。
勾陣は、彼女が目覚めた瞬間で現したのか、それとも、ずっとそこにいたのか。
「今日は?」
「陽暦二〇二九年二月十二日。」
「陰暦の方。君たちは陰暦を見て仕事してるんだろう。」
「陰暦は二〇二八年十二月二十九日。」
「何年?」
「戊申年。」
「...後ろにいる申は、白虎が当番、ということだね。」
「ええ。」
「じゃあ前の戊って、意味ないじゃん?」
「十干の一つとして、当番を決めるものではないが、その年の問題を示すことができる。」
「どういうこと?」
勾陣は語ろうとしたが、先に空気の流れに気付いた。
「まずは食事をしよう。朱雀と騰蛇、そろそろ終わるみたい。」
「...うん。」
夢瞬は、目の前にあるご馳走に、既に慣れていた。
陰暦の大晦日と元日、そして永望と夢瞬それぞれの誕生日に、天将たちはいつもご馳走を用意してくれる。
「太陰。」
「はい。」
「当番って大変なの?」
「...仕事はみんな分けてやってるけど、当番になった場合、自分の仕事が忙しくなるってわけ。」
「例えば?」
「夢瞬さんは、私の役目を知ってるのか?」
夢瞬は頭を振った。
何も継承しなかった彼女は、それに関する知識も無関心でいられた。
「私の役目は隠すこと。なので、来年になると、隠されるものが増える。」
「秘密?」
「とか、ね。でも、隠されたままだと、隠してることに気付かれないじゃない?だから、すでに隠されてきたことは、ばれてしまうの。」
「だったら、当番じゃなかった時、太陰の仕事は何なの?」
「この世界を平常運転させること。」
戸惑ってる夢瞬を見て、太陰はふと笑った。
「今で見つけられるべきなものがあるなら、見つけさせるってこと。」
「...研究の人たちが、何かを見つかったみたいな?」
「そう。逆の場合だったら、それを隠すのも私の仕事。」
「なるほど。」
昼御飯のあと、安倍家は少しずつ賑やかになっていく。
今日は大晦日。安倍家に関わってる人たちはみんな、安倍永望とその娘、夢瞬と会見したくて訪れてくる。
しかし、夢瞬は一度でも接待せず、十二天将ばっかりに任せた。
「夢瞬さん、あの人たちと会話しないんだね。」
「うん、つまらないから。」
夢瞬は玄武の頭に乗ってる亀を手にして、抱き締める。
「この子、名前あるの?」
「ない。」
「玄武は亀の神?」
「正確に言うと、亀と蛇の代表だけど。」
「蛇?」
玄武は振り向いて、夢瞬にポニーテールを見せる。
「...!ヘアゴム!」
「そこが好きらしいので。」
「玄武...玄武の役目は何なの?」
「失うことと、盗むこと。」
「失う...」
「どうしたの?」
「私が生まれたとき、玄武は何かを感じていなかった?」
「...ないけど。」
「ずっと思ってるけど...どこかで力を失ったのではないかなって。」
「夢瞬さんに力がいなくても、永望の娘であることは絶対に変わらないから。」
「わかってる。お母さんもきっと、そう思っているのだろう。」
夢瞬を見て、玄武は何かを感じた。
夢瞬が失ったのは、霊力ではなく、他の何か...
夕方。
夕日を眺めてる夢瞬は、眠れないまま。
「今夜もその儀式?」
夢瞬の服を捧ぐながら、太裳は頷く。
「...お母さん、変わった?」
「外見は去年と変わらない。」
「個性は?」
「多少大人になった。」
「私のこと...覚えてる?」
「もちろん。」
「私が思うように、私を思ってくれてる?」
「きっと思ってくれるよ。」
「変わったのかなと、私みたいに心配してくれる?」
「きっと心配してて、うなされているのだろう。」
太裳は微笑んで、夢瞬と目を合わせた。
「夢瞬さん。例え一年一度しか会えないとしても、永望は君の母で、きっとこれからも変わらないんだよ。」
「うん...。」
「それでも不安なのか?永望が、君が馴染んでる母と違う人になったことを。」
「不安じゃなくて...緊張してる。」
夢瞬はぎゅっと、太裳を抱き締める。
そして太裳はお姉さんのように、優しく夢瞬の髪を撫でている。
「夢瞬さん、私の役目知ってる?」
「いいえ。」
「簡単に言えば、それ。」
太裳は笑って、そばに置いてた服を指差した。
「服なのに、天将が必要なの?」
「服だけじゃなく、服からもらった安心感もだよ。」
「安心感...」
「着替えよう。安心させる魔法だから。」
太裳の目を見て、夢瞬は頷いた。




