十九本目の灰燼の夜
「夢瞬さん、見えてきた。」
六合に呼ばれた夢瞬は、すぐ一番先に走って行った。
遠い旅路の先には、赤色の大きな城だった。
「そこがジャハンナムの天使たちの城なのか…!」
「あのさ、夢瞬。挨拶に、誰かを先に送っておいた方がいいと思う。」
「そうだね、急に訪ねたら失礼だろうし。誰にしようか?」
「獅子かな。」
「獅子宮?」
「うん。火のエレメントで火将、吉将でもある彼女なら、挨拶にぴったりだと思う。」
光兎の言葉を聞いた獅子宮勝光は、自ら一歩前に踏み出した。
炎のような真っ赤な短髪、そして獅子のような耳。
武器ひとつ持っていない女性。
「獅子宮、お願いしてもいいかな。」
「もちろん。」
獅子宮は手を伸ばし、夢瞬の髪を指で巻く。
「…?」
「安倍永望と同じ色の髪ですね。」
「はい。」
「とても似合っています、紅葉の色。」
「獅子宮も、その髪の色すごく似合ってる。」
「…ありがとうございます。」
夢瞬に微笑んだあと、獅子宮は双児宮に手伝ってもらい、先にジャハンナムの天使の城に向かった。
「…」
「獅子のこと、気になるの?」
「うん。悲しい過去がある気がする。」
「獅子宮は、勇者に殺された化け獅子だった。」
「…!」
「その時の彼女はとても強かった。人々は彼女を殺すために、たくさんのやり方を試した。その髪の色も、炎に焼かれた時に染められたらしい。」
「…だとしたら、私がなんてことを言ってしまったのだろう。」
似合う。
「焼かれて死ぬに似合っていると、一人の人間に言ったみたいじゃない。」
夢瞬の言葉を聞いた月将たち、そして六合と白虎も、同時に微笑んだ。
「夢瞬さま夢瞬さま、本当に変わった方なんですね。」
「…?」
夢瞬は顔を上げ、目の前に立っていた女の子を見つめる。
元気に見えるのに、その瞳にはなぜか空っぽのような気配がした。
「天空に、似ている。」
「天空?空のことですか?」
「ううん、十二天将の天空のこと。」
「へぇ…何もできないお嬢様と思いましたが。」
女の子は興味深く微笑んだ。
「初めまして、白羊宮です。天空と同じ、秋分を管理している者です。」
白羊宮を見る度、夢瞬は天空のことを思い出す。
いつも騰蛇と行動しているのに、何にも執着していないように見える少年のこと。
「天空、いつも騰蛇と行動しているのは、二人とも戦い上手だからだよね?」
「うん。」
「でも、なんだか君は騰蛇みたいに…」
「暴力ではない?」
「うん。」
「必要ないからだ。武力は自分の願いを叶うために持つものだが、僕の願いは主のためにあるんだから。」
「騰蛇は違うの?」
「同じだけど、意味的には違うかな。」
「…?」
「僕は、主の命令を受け戦っている。しかし騰蛇は、主を大事しているから戦う。」
台所で走り回っている騰蛇を見て、天空は微笑んだ。
「ああいう生き方が一番疲れて、一番まっすぐなんだよね。」
天空は何も言わなかったが、天空の目線は相変わらず虚しいが。
夢瞬にはわかる。
騰蛇のすべてが、天空を救った。
「白羊、夢瞬さまに迷惑をかけない。」
「かけてないよ!でしょ?夢瞬さま。」
「夢瞬さま、申し訳ありません。」
足掻いても抵抗できない白羊宮と、彼女の首を掴んでいる女性。
正義の女神みたいな人だが、その態度…
「騰蛇…」
「ふふ。」
「白虎!聞いているの?」
「はい。先のは嘲笑いではなく、感心しているから。」
「感心している?」
「彼女が処女宮の太乙、そして対応している天将が騰蛇なんだ。」
白虎は微笑んで説明した。
暫く歩いたら、天使たちが住んでる城がもう目の前に。
六合が一歩踏み出し、扉を開いた。
その先には、円形に並んでる十九本の椅子と、その上に座っている天使たちだった。
一歩先に来た獅子宮が隣に立っている。
「あなたが安倍夢瞬、私たちに安倍永望を探して欲しいと言い出した人間か?」
一人の天使が言う。
「はい。」
「安倍永望は私たちと関係がないため、こちらの地獄には来ない。無駄足だったな。」
「しかし平等王さんが…?」
「事情は聞かせてもらった、が、彼女がここに来ていないのが事実で、平等王もそれを知っているはず。」
もう一人の天使が言う。
「そうですか…わかりました。ありがとうございます。」
「どうするつもり?」
「もう一度、平等王さんに聞いてみます。」
「…彼は天の理に縛られた神。あなたを助けることができないだろう。」
「…!」
「西の方に訪ねるといい。神ではなくとも、代価を払えれば、悪魔だって助けてあげると思う。」
一人の天使が微かに笑った。
「天使の皆さんはどうして…?」
「天使でも神でも、だからこそできないことがある。あそこの、逃げた二人の天将のように。」
「…アドバイスをいただき、ありがとうございます。ただし、天将たちは逃げませんでした。」
夢瞬は、天使たちに見つめて言う。
「逃げたのは、私。」




