十八層目の退去の夜
「白虎...!?」
夢瞬のイメージでの白虎は、いつもぼーとしていて、のんびりしてて、緊張を与えない存在だった。
彼女の誕生日パーティーに、いつも精一杯手配をしている、猫のように見える存在でもあった。
「夢瞬さん。白虎に声をかけるのか?」
「...」
夢瞬はすぐに頷けなかった。
光兎から見れば、少し想定外の反応だった。あの日以来ずっと、十二天将を思っているはずなのに。
「六合。安倍永望が消えたあと、十二天将も消えたのは、君たちの意思による行動だよね?」
「はい。」
「全員の?」
「主を失った僕たちの間に、絆はないんだ。」
「...わかった、私は行かない。私を手放したのが白虎の決断なら、私もその決断を尊重したい。」
「そうか。」
夢瞬の背中を見つめていた光兎は、天秤宮の方に目線を送る。
六合の案内で、夢瞬と光兎たちはすぐに阿鼻地獄を管理している、平等王の殿堂前に到着した。
「十二天将の六合に十三月将、そして安倍夢瞬と藤原光兎。来てはいけない人ばっかりではないか。」
「平等王さん。安倍永望を探してもらえませんか?」
「なぜ探す?彼女の死亡は確かに天命ではなかったが、天の理による結果ではあった。」
「天の理だからといって、一人を命を奪えるのでしょうか?」
「一般人ならともかく、安倍永望は…あなたも知っている通り、一般人じゃないからな。」
「...目連さんが冤罪の魂を見つけたら、あなたに改めて審判をしてもらうとお聞きしましたが。」
「ふむ。」
「それはきっと、あなたの平等な判決が、冤罪の魂を救えると信じていると、私はそう考えています。」
「遊説するつもりか?」
「いいえ。これほど重要な仕事を担当しているあなたならきっと、理をよく理解している方だと思います。あなたなら必ず、安倍永望を助けてくれます。」
夢瞬の表情を見た平等王は、ふと笑った。
「安倍晴明に似ていないな。彼よりずっと真面目だ。」
「そうですか?」
「僕は目連から、安倍永望のことについて聞かれなかった。彼女がこの地獄にいないかもしれない。」
「天国にいるのでしょうか...?」
「いいえ。永望は地獄にいました。」
それは、夢瞬にとって、とても懐かしい声だった。
殿堂の前に立っているのは、二人の神将だった。
十二月将の天秤宮天罡と、十二天将の白虎。
「白虎...」
「永望が地獄に来たこと、この目で見ました。」
「地獄にいるってこと?でも...?」
夢瞬は再び平等王の方を見つめる。
平等王には、自分を騙す必要はない。
だとしたら、どっちを信じればいいのか。
「なるほど。別の地獄に入ったかもしれない。」
「別の地獄ですか?」
「地獄って言っても、ひとつだけじゃない。違った国や場所の信仰によって変化するんだ。」
「はい。」
「あなたが来たこの地獄は、日本の地獄。仏教と道教が混ぜた地獄だった。」
「安倍永望が別の地獄に入ってしまった、ということでしょうか。」
「かもしれないな。そうだな、ジャハンナムの天使に聞いてみよう。」
「ジャハンナムの...天使?」
「イスラム教の地獄がジャハンナムだ。そこを管理している天使に聞いてみよう。」
平等王が手を振り、小さな魂が現れ、夢瞬の隣に浮いていた。
「その子が案内してあげる。」
「...!ありがとうございます、平等王さん。」
「それでよいのでしょうか。」
夢瞬たちが殿堂から出たあとに、殿堂の奥から一人の少年が現れた。
冤罪の魂を助ける目連だった。
「よいも何も、天の理に従わなければならない。」
「しかしあの方...」
「安倍永望は天の理を破った。これが彼女の運命であって、彼女が受けなければならない結果だ。」
「...わかりました。では、こちらに預かったその体はどうしましょう。」
「彼女の天命が尽きるまで、あそこにいてもらう。」
「ジャハンナムの天使たち、彼女に教えたりしませんか?」
「彼らも天の理に従うんだろう。問題は...西。」
「西、ですか?」
「人類の欲望を象徴しているサタンなら、安倍夢瞬にすべてを教えるんだろう。」
「でしたら...?」
「彼女が安倍永望を救いたいのなら、本当に救うべきなのはこの体じゃない。」
「あそこに眠っている魂の方、ですか。」
「その通り。」
「...先ほど彼女が言った言葉、刺さりますね。」
「安倍家の人いつもそう。刺さる言葉ばっかり言う。」
今死んではいけない人なのに、天の理を破っただけで、そう審判しなければならない。
夢瞬が言ったことこどが、平等王が一番避けようとして、避けることができない答えだった。




