十二個目の星影の朝
「光兎、ちょっと。」
剎華は自分の席に座っている夢瞬をチラッと見たあと、光兎を教室の外まで引っ張り出した。
「何かあったの?」
「あるよ!夢瞬と喧嘩したの?」
「ううん。」
「じゃあなんで朝のとき夢瞬は、光兎を待つ必要はない、先に学校に行こう、とか言ったの?」
「それは、彼女に聞いてよ。僕に聞いても。」
「あの子に聞けばいいなら、私もそうするよ。」
光兎は剎華を見て、無力な顔をする。
「おととい...十の災いの午後、安倍様と十二天将が消えたらしい。」
「それで?」
「昨日午後にその話を聞いて、夜中に安倍家に行ってみた。安全であるかを確認するだけ。」
「うん。」
「それが、今の夢瞬は眠らなくても大丈夫みたいなので、バレちゃった。」
「説明した?」
「しなかった。びっくりしたから、逃げて藤原家に帰った。」
十の災いの特殊性を知っているつもりだが、光兎は、夢瞬が夜中に行動できるようになったことを予想できなかった。
嘘がバレた上、説明もできなかった。今の夢瞬の心境が見えない二人だった。
「...しかし、本当に大変だったな。」
「うん。」
「十二天将の場合、安倍様がいなくなったから、出ていったのだとして、安倍様が消えた理由は...」
「あの日、十二天将の貴人さんは言ったよね?十の災いで死ぬのは安倍様だと。」
「ということは、安倍様本当に殺された?夢瞬はどうしよう?」
剎華のイメージの中で、夢瞬は小さい頃から永望に霊気で守られてきた。
そんな永望が不在な今、あやかしは安倍家に出入り自由となり、夢瞬にも手を出せる。
「わからない。暦法が安定しているってことは、十二天将まで消えていない証拠だが、おかしい...」
「夢瞬の話によると、十二天将たちは彼女にある程度の忠誠心を持っているらしい。安倍様が消えたからとはいえ、彼女を放っておけるのか?」
「とにかく、夢瞬の考えを知らなければ。」
「だね。」
放課後、夢瞬はカバンを素早く片付けた。
「夢瞬、今日は二人で一緒に帰ろう。」
「...?」
「光兎は先生に用事があるから、先に帰ってって。」
「...わかった。」
夢瞬はカバンを取って、微笑んだ。
「行こう。」
隣の夢瞬に、剎華は何かを言いたかったが、どこから聞けばいいのかがわからなかった。
それもまた、夢瞬に見られている。
「光兎から、何か聞いた?」
「昨日君と誤解があったと。」
「誤解?」
「違うの?」
「...私からは、ただのびっくりした出会いに過ぎない。」
「そう。夢瞬って、今日ずっと何かを読んでるよね、何の本?」
「星座の。剎華の誕生日は?」
「七月二十三日生まれ、ギリギリしし座。」
「しし座ね...。」
「夢瞬は?」
「九月二十九日生まれ、てんびん座。」
「九月...なんか、君の名前とお揃いだね。」
「...?あぁ、なるほど。九月も寝覚月と呼ばれてるんだね、そういえば。」
「そう。あぁ、でも、それだと目覚めちゃうけどね。」
「でも夢瞬、なんで急に星座に興味があったの?」
「興味というか...気になっただけ。」
「そういえば、光兎はどの星座かな。」
「一番間抜けな星座かも。」
「ちょっと、その星座に失礼!」
二人は見合わせて、ふと笑った。
「夢瞬、あのね。」
「...?」
「川に行ったときから...おとといから、私は、君が変わったのを感じた。」
「...うん。家の事情で。」
「君にとっての私はどれほどの存在なのか、私にはわからないが、私にとって、君はとても大事な人。」
「...」
「私にとって、君がどんな名前でも、誰であっても、君はいつでも、私にとってとても、とても大事な存在なのだ。」
「ありがとう。」
「だから...だからね...時には、親友にさえ教えないこともあるって、わかってる。」
「...」
「それでも、弱気になりたい時はいつでも私を頼ってくださいと、このわがままな願いを、聞いてくれないかな。」
夢瞬がこの世界を受け止めるまで、剎華は自分の正体を教えるつもりはない。
あの日、天将たちに言ったように。
「...わかった。」
「安倍夢瞬さん!」
夢瞬が安倍家に帰った途端、リビングに座っている小さな化け物が見えた。
「ちょっと気軽になりすぎてない?」
「えへへ、ダメ?」
「ダメじゃないよ。話し相手もあったし。」
「そういえば、結局昨晩はどうなった?」
「...私の友達だった。私を心配して、様子を見に来ただけだと思う」
「仲良さそうだね。」
「うん。あの...!」
「どうした?」
「伝言を、してもらっていい?藤原家に。」
「久しぶりだね。」
「え?」
「いや、なんでもない。」
化け物は笑って、ピョンピョンと安倍家から出ていった。




