十一個目の悲劇の夜
心を決めた夢瞬は、小さな化け物と一緒に、また日の出を待っていた。
「そういえば君たち、今まで安倍家入らなかったよね?」
「入る必要ないし、バリアあるし。」
「バリア?」
夢瞬は十二天将の役割を思い出し、おそらく太陰だろうと考えた。
「君たちも、天将たちみたいに不老不死なの?」
「そうでもない。」
「例えば?」
「徘徊している理由がバラバラでね。世間に未練があるの場合なら、願いを叶えたら、六道輪廻に入れるんだ。」
「へ...。」
「しかし、大自然から生まれてきた精霊たちなら、君たちみたいな人に消されなければ、永遠に生きれるんだ。」
「寂しいとは思わない?」
「寂しいと思えるのは、寄り添う誰かがいたからじゃないの?」
その澄んだ瞳から目を背けたかったが、背けてはいけないと、夢瞬は強く自分に言った。
「生まれつき一人っぼちなので、寂しくならないさ。」
「だったら、天将たちも寂しくならないかな?」
「いや、そりゃ寂しくなるだろう。」
「なんで?」
「君と一緒に過ごした時間があるだろう?」
「なら、どうして私を置き去りにしたの?」
小さな化け物は、夢瞬を見上げた。
彼にとって、世間のすべてはただ一瞬。考えるにも、行動にも足らない。
人間は、終わりがあるからこそ、努力するんだ。
「...ねぇ、安倍夢瞬さん。」
「なに?」
「さっき考えたんだけど、もしいつか君が死んだら、俺は初めて寂しく、悲しく感じると思う。」
「...ありがとう。」
化け物は笑って、そして頭を振った。
「それでね、俺より長い間君といた十二天将なら、きっと、もっと君と一緒にいたいと思うんじゃないかなと思って。」
「...!それはつまり、彼らは自ら私を捨てたじゃないかも?」
「少なくとも、辛い道をわざわざ選ぶのは、考えられないな。」
夢瞬は目を閉じて、思い出す。
小さい頃のことは、あまり覚えていなかった。
中学に通った以降の記憶なら、まだ鮮明に覚えている。
しかし、小学生の頃の自分は十二天将に冷たかったこと、それだけは微かに覚えていた。
まるで、彼らを無視しているように。
そんな対応する理由はおそらく、未知への恐怖ではなく...
「目的を持って私と接触したのだろう。」
そう考えていた夢瞬は、母親以外の人には、一度でも心を許せなかった。
しかし、入学式当日。
「はじめまして、僕は藤原光兎。」
「どうも。安倍夢瞬です。」
「安倍ということは、安倍晴明家の人ですか?」
「血縁は繋がっていますが、本家ではありません。」
「なるほど。藤原と安倍、両家の関係性って知っていますか?」
「従...属?」
「そんな感じ。まぁ、今はそういうわけじゃないから、安心して。」
「そう。手下になりなさいと言われるんじゃないかなと、ハラハラしました。」
「無表情で言うなよ、面白い人だな。」
光兎はふと笑った。
「ねぇ、さっき自己紹介で君が言った、君の両親はもう...」
「そう。」
安倍家の親戚に、言わされたこと。
自分の両親の身分を言ってはいけない。自分は、早くに両親を亡くした孤児で、親戚に世話をしてもらってる、と。
お母さんは反対しなかった。だから夢瞬はそうした。それだけだ。
「それは、君のお母さんが安倍様だからなのか?」
「...!」
夫の姓を名乗る、あるいは安倍家出身であった場合、安倍さんと呼ばれてもおかしくない。
しかし、光兎が言ったのは、様。
安倍様と呼ばれていい人は、当主と、特別な存在のみ。
光兎は、夢瞬が永望の娘であることを知りながら、踏み込まず、知識のみの話をしていた。
夢瞬は安心した。
光兎にとって、彼女はただの「安倍夢瞬」だった。
だからか、夢瞬もより陰陽師のことを知りたいと思った。
もっと詳しくなったら、光兎の役に立てるかもしれない。
そしていつか、彼女の小さな願いも、叶えるかもしれない。
「あれ?安倍夢瞬さん、誰かが安倍家に入っちゃったよ。」
「誰?」
「わからん。手下は何名いるらしいが、人間はたった一人。」
「...!」
十二天将の勾陣はかつて夢瞬に言った。名前を持つものは、霊気を持てること。
霊気を持てるようになってから、使える、人の形に変形できる式神になれるまで、できるものは早々いない。
十二天将は、安倍晴明の式神として有名になったが、彼らと対応している十二月将は、どこかに封印されていた。
黄道十二星座が刻まれていたホロスコープを持つ者が現れるまで、彼らには星座の位置を変えるしか何もできない。
それ以外にも、北斗七星や、プレアデス星団、八つの惑星など、使われている式神が存在しているらしい。
「誰かが安倍家を乗っ取ろうとしたの...!」
その可能性を感じた夢瞬は、必死に走っていた。
しかし、安倍家についた彼女は、空に浮いてる、馴染んでいる顔を見た。
「...光兎?もう一人は...?」
「初めまして。黄道十二星座十一宮、宝瓶宮です。」
光兎の隣にいた女性は、夢瞬に微笑んだ。




