十一個目の災害の朝
広い丘に座っている夢瞬は、遠い夕陽が沈むのを見つめていた。
そして、空が暗くなった。
「安倍家の...!」
「そう。安倍家の。」
夢瞬はふと笑い、振り向いて、後ろにいた怖がっている小さな化け物たちを見る。
「一緒に日の出を待つ?」
長い夜の果て、夢瞬は化け物たちと丘の向こう側に行って、太陽が昇るのを見ていた。
そして、空が明るくなった。
「ふう...そろそろ授業の準備をしないと。」
「人間って、夜眠らないと体持たないだろう?」
「人間...?」
夢瞬は戸惑って、そしてふと笑った。
「私、人間じゃないから。」
夢瞬の姿を見た途端、光兎も剎華もほっとした。
「おはよう!光兎。剎華。」
「おはよう!」「おはよう。」
夢九がいない。
二人は気付かないふりをした。
「昨日はゆっくり眠れたよ。」
「そう。」
「起きたときはもう夕方だった。」
彼らは何も知らないみたい。
夢瞬は微笑んで、気付かないふりをした。
授業が終わったあと、三人は一緒に帰り道を歩いた。
学校に一番近い土御門家の剎華は先に家に帰り、光兎と夢瞬が二人きりになった。
「光兎。」
「うん?」
「どれくらい知ってる?」
「...!」
夢瞬の異様を感じたが、光兎は、夢瞬がどこまで知ったのかを知らない。
しかし、少なくとも、この行動から、夢瞬はまだ剎華の正体を知らないと、彼は推測した。
「君はどこまで覚えている?」
「一緒に遊びに行って、川についたら色んな変なことが起きて、十の災いの話を聞いたあとに倒れた、とか。でも...」
「でも?」
「安倍永望も、十二天将も消えた。」
「...!」
「私が目覚めてから、今日出かけるまで、一人も見当たらなかった。きっと、最後の災いで、みんな自分の居場所に帰ったのだろう。」
「探しに行かないの?」
夢瞬は少し躊躇ってから、見上げた。
その瞳には、恐怖と不安。
「無力な私には、何もできないでしょ?」
「夢瞬...」
「ごめん。先に帰る。」
「どこに?」
多分、光兎自身でさえ、どうしてそのように質問したか、わからなかった。
ただ、夢瞬の先に、何もないと感じただけ。
「...安倍家。そこしかない。」
夢瞬は気持ちを抑え、囁いた。
夕暮れになって、夢瞬は膝を抱え、冷たいベッドにただ座っていた。
何かを食べるつもりもないし、力もない。ただ、座っていた。
「帰ってこないね...」
永望を失った十二天将に、ここに残してもらえるほど、彼らとの絆はそう強くない。
安倍夢瞬は、自惚れしていない。
ただ、気持ちが整うまで、彼女がもう一度踏みしめるまで、彼らなら寄り添ってくれると、信じているだけ。
信じていた。
「安倍のお嬢さん...」
夢瞬は見上げた。日の出を一緒に見た、小さな化け物の内の一匹だった。
「どうした?」
「今日安倍家の夕ごはんどうしたって、みんな話してるんだけど。」
「...火将がいないから、今日は夕ごはんないんだ。」
「火将...?」
「十二天将の内の、二人の火将。今までの夕ごはんは、彼らが用意したのさ。」
「彼らがいないと、君も夕ごはん食べないの?」
「...食べたくない。」
「どこに行った?」
「わからない。昨日目覚めたら、みんないなくなっちゃった。」
「探しに行かないの?」
光兎と同じ質問。
夢瞬は思い出し、苦笑いをした。
「無力な私には、何もできないでしょ?」
「無力?人間って、力がないと何も探せないの?」
「...そうでしょ?」
「今までの君、俺たち見えないでしょ?何の反応もしなかった。」
「そう。お化けが見えるようになったのは昨日から。」
「つまり、君が言う『力』ってやつ、もうあったよね?どうして探しに行かない?」
化け物が言ってること、夢瞬にはわかっている、誰よりもわかっている。
しかし、それと同時に、誰よりも怖がっている。
「あのね、私、安倍夢瞬じゃないかも。」
「そう。」
「人間じゃないかも。」
「朝同じこと言った。」
「当たり前のように生きているこの人生も、ただの夢なのかもしれない。」
「そう。」
「全部夢だったら、探す必要もないでしょ?」
「探したいから、探すんだろう。」
「...!」
夢瞬は不思議な顔で化け物を見た。しかし相手は、なぜか照れてるように見えた。
「俺も、探したがっている君を見たから、そう聞くのさ。」
「...!私の友達も同じ質問したら、それはつもり、彼にも私がそう見えるから?」
「かな。君にとって大事なのか?十二天将ってやつら。」
「...うん。大事だよ。」
見上げた夢瞬は、微笑まなかった。




