十個目の反転の夜
「夢瞬が眠りに落ちたし、これ以上誤魔化す必要はないでしょう。」
夢九は夢瞬を抱き締め、元の化け猫姿に戻った。
「光兎。十種類の災害と言ったが、なぜ九つ目で止まりました?」
「...!気付いたか!」
「当然です。最後の災害は、彼女に知って欲しくない災害なのでしょうか?」
「...最後の災害は、長子を皆殺しをすること。」
「...!」
夢瞬をより抱き締め、夢九は驚いた表情を必死に抑える。
「どうすればいい?」
「私たちに任せろ。」
夢九、光兎、剎華三人は、駅の外に同時に見た。
貴人、六合と天后だった。
「夢瞬さんなら任せろ。永望はすでに目覚めた。」
貴人は再び言い出す。
「これって、十の災いですか?」
「そう。」
「このままだと、夢瞬は死ぬでしょ?」
「...いいえ、夢瞬さんは長女ではない故、死にません。」
夢九は貴人の目を見つめ、嘘ではないと判断した。
しかし、光兎も剎華も、永望には別の子供がいることを聞いたことはない。
「十の災いで死ぬのは、永望の方。」
一方、永望は夢から目覚めたが、すぐ倒れてしまった。
意識を保っているとはいえ、呼吸が荒く、生命現象もかなり弱い。
町からすぐ安倍家に帰った白虎は、ずっと永望を見守っていたが、回復の兆しは見えなかった。
「天空...」
「永望!」
白虎と一緒に見守っている天空はすぐ前に出て、永望の手を握り締めた。
「ごめん、隠し切れなかった...」
「そんなことありません。ここ数年間、とても楽しい親子の時間を過ごせました。ありがとうございます。」
永望が無理に出した笑顔に、二人はより切なく感じた。
「ひとつだけ、頼みたいことがあります。例え私がもうすぐ消えるだとしても、頼みたい。」
「言ってくれ。」
「私が夢瞬に言った、たったひとつのこの嘘を、どうか、彼女に教えないでください。」
「...わかった。」
貴人を見つめる夢九は、自分より夢瞬を大事している天将なら、彼女を必死に守ってあげることを知っている。
夢瞬を渡すのが賢明でしょう。
しかし...
「この子、居なくならないでしょうね...?」
罵声をいくつ背負い、本心を隠したまま生きるしかない、九生の化け猫にも、終わりは訪れる。
怖くなって、拒もうとするのも、無理はない。
しかし、彼女に抱き締められたときに感じたその暖かさは、混乱な思いを、心を、慰めた。
「永望を救うためとはいえ、永望にも、夢瞬さんの安全を守ると誓った。」
「...わかりました。」
倒れたあと、夢瞬は眠りに落ちたのではなく、時空の狭間に徘徊していた。
外の声も聞こえず、景色も見えぬ、周りがどうなったのかも知らない。
しかし、周りには、ひとつ温もりが寄り添っていることは、わかる。
「お母さん...?」
彼女は手を伸ばし、その温もりを触れたいと。
「いいえ。」
見知りな男の声だった。しかし、どこか懐かしい。
「誰?」
「君には知る必要はないよ、夢瞬。」
「...じゃあ、私は誰?」
「君は安倍夢瞬。夢のように、千年も生きたように感じるが、ただ一瞬しかない、安倍夢瞬。」
それは、お母さんから何度も聞いたことがある、彼女の名前の由来。
お母さんからもらった、唯一無二の名前。
「君と永望は、相反している。」
優しい彼は語る。
「彼女は永遠の希望。千年間にずっと消えたりしなかった希望。」
「...」
「わかった?本当に、わかった?」
最初戸惑った夢瞬は、数分後に、悟った表情をした。
彼が言いたいことを、理解した。わかった。
「君は誰?」
「君には知る必要はないよ、夢瞬。」
まるでゲームのNPCのように、彼は言う。
しかし、夢瞬は知っている。彼はプログラムとかじゃない、人間であること。
「見つけて。永望を。」
「...!」
急に目覚めた夢瞬は、自分の部屋にいたことに気付いた。
今日の授業は午前中だけなので、彼女は昼寝をして、そして午後に目覚めたらしい。
「...静かだな。」
夢瞬は、周りを見回したが、いつもの金色の姿が見当たらない。
常に冷たく夢瞬を見つめる彼女がいない。
「...今日は静かだね。」
彼女は窓際に行ってみた。
庭には、いつもの騒ぎ声がいなかった。
「...お腹空いた。」
今日、台所から美味しいご飯の匂いはしなかった。
夢瞬は階段を下り、空っぽの台所を見て、少し戸惑ったあと、リビングに向かう。
しかし、どこにも人影がいなかった。飼っていた猫もいなかった。
「...?」
夢瞬は手を伸ばし、テーブルに置いてあった本を手に取った。
聖書の物語。
「十個目の災害は...」
夢瞬は不思議に思い、改めて周りを見る。
この世界はまるで、十個目の反転。




