十個目の接近の朝
「剎華、おはよう。光兎はまだ?」
「うん、まだ。」
剎華は微笑んで、夢瞬の髪を整う。そして、彼女の後ろに立っている少女の方を見る。
「夢九、なんか疲れていた?」
「昨晩家のネズミが出てきて、追っているうちに、寝るのが遅くなっちゃって。」
夢九と呼ばれた少女は苦笑いをした。
「ごめん...!」
遠いから伝わってきた光兎の声を聞こえた三人は、見合わせて笑った。
いつもの通学路だった。
「今日の授業は午前中だけだね。」
「そうだね。午後どこかに行かない?」
「そうね...光兎は?」
「いいじゃん。せっかく夢九が転校してきたし、四人でどっかに出掛けよう。」
「それはたしかに。」
「じゃあ決まり!夢九、何か行きたい所はある?」
「私は...」
夢九は眉をひそめ、夢瞬の方を見る。
「夏だし、川に行かない?」
「賛成!」
「いいと思う。」
自分の意見が受け入れてもらって、夢瞬もふと微笑んだ。
しかし、四人がバスを乗って、川についた途端、雨が降り始めてしまった。
「うそ...雨が降るなんて、天気予報言ってないよ...」
「剎華、それだけじゃないかも...」
夢瞬、手のひらに集めた雨水を剎華に見せた。
ただの雨水ではなく、まるで血のような真っ赤な雨だった。
「気持ち悪い...」
「でも、血の匂いはない。赤いだけ。」
「いやいや、夢瞬。赤い雨で充分怪しいよ。」
「そう?」
「そういえば、なんかうるさくない?」
剎華に言われて、四人とも、周りの声に耳を澄ます。
ケロケロ。ケロケロ。
「カエル。」
「そうだね、でも多くない?」
「光兎、カエルっていつもこんなに多いの?」
「川の近くとはいえ、さすがに多すぎる。」
「そう...」
夢瞬が、駅の外の景色に戸惑って眺めるとき、夢九は静に光兎の隣に行った。
「おかしい。」
「たしかに、怪しい。」
「さっき騰蛇が来たの。街中になぜか、ブヨが大量に現れたらしい。」
「虻
ブヨ?」
「そう。」
「天将たちもわからないの?」
「わからないみたい。白虎も、ブヨが起こした病気以外に、変などころはないって。」
「こっちには及ばないってことは、町から充分離れたから?」
「それは多分、太陰がバリアを張ったからだと思う。」
「光兎、夢九、何を話しているの?」
「いや、この光景から、ひとつ物語を思い出しただけ。」
「物語?」
「聖書に記載された物語。聞く?」
「聞きたい。」
光兎は夢瞬の隣に行って座る。
「当時のエジプトのファラオ、王様ね、訳あって、神に怒らせたの。それせいで、神は十種類の災害を引き起こした。」
「災害...」
「一つ目は、ナイル川の水を血に変えること。」
光兎は目の前の、雨に染められ、真っ赤になった川に指差す。
「二つ目は、大量な蛙を放つこと。」
「ふむ。」
「三つ目は、大量なブヨを放つこと。」
「それ、まだないの。」
「もう現れたよ。さっきメールをもらったけど、今頃町中に大量なブヨが現れたと。」
「...!続きは?」
「四つ目は大量な虻を放つこと。」
「ここにいると、危ないかな?」
「大丈夫だよ、夢瞬。ブヨも来ていないし、虻も来れないと思う。」
剎華は微笑んで、夢瞬に安心させる。
「そうだね。」
「それからは、疫病、腫れ、雹害、蝗害、暗闇。」
「暗闇?どういうこと?」
「三日間まるごと夜か明けず、ずっと夜のまま。」
「...!」
「さほど大した災害ではないけど、連続発生すると...」
「大変になりそう。」
「でもまぁ、被ったのはただの偶然じゃない?神に怒らせること、何もしていないし。」
「...私のせいかも。」
「どうしそう思う?」
光兎は驚いた。初めて夢瞬から、自己嫌悪な言葉が聞こえた。
薄々気付いていたが、夢瞬から言い出すの、今回が初めてなんだ。
「私の...私の母親はとても立派な人だった。」
「亡くなった母親のこと?」
夢瞬は頷いた。
「でも私は、彼女のような人にはなれなかった。
「みんなの期待を背負って生まれてきたのに、みんなに裏切った、失望させた。
「神様だって、こんな私を罰したいのでしょう。」
光兎と剎華も、夢瞬を慰めたいが、言える言葉が見当たらなかった。
夢瞬が、泣き出しそうになった途端。
彼女は倒れた。
夢九はすぐ前に出て、夢瞬を身をもって支えてあげた。
「夢瞬!?」
びっくりした光兎と剎華に、夢九は空を指差した。
午後だったはずな空は、すでに暗闇に包まれた。
夜が来た。




