九つ目の奄々の夜
「こんばんは...勾陣、何かありますか?」
永望は扉の向こうにいる勾陣を見つめ、すぐに真剣になった。
目覚めた時に感じた、眠っている夢瞬の様子がおかしい。
「九生の化け猫は夢瞬さんを利用して、家に入ってしまった。騰蛇はすぐ戦ったが...」
「戦場が不利すぎます。」
「その通り。」
安倍家の周りには、いつも太陰がバリアを張っていて、夜になると、さらに一枚が張られる。
なぜなら、安倍家には、本拠地の絶対優勢の加護がついてうるからだ。
吸血鬼のルールに従い、安倍家では、招かれざる客は絶対的な劣勢に落ちる。この間襲ってきた邪神四凶にも、同じ効果があった。
しかし、夢瞬が連れてきた九生の化け猫は、招かれたと認められてしまった。
「凶将たちはあいつと交戦中、吉将たちは夢瞬さんを守っている。」
「あの子無事ですか?」
「騰蛇のおかげで、体に大きな傷はなかった。しかし、午後から眠りに落ちてしまったせいで、明日には動く気力をかなり失うのだろう。」
「でしたら、明日は休ませてあげましょう。その前に、あれを退治しなければなりません。」
一方、五人の凶将─騰蛇、朱雀、玄武、白虎、天空と対戦しているとはいえ、八十一年以上生きていた九生の化け猫には、それほどの劣勢ではなかった。
何より、あの人はまだ出ていない。
「騰蛇、これでいいのか?」
天空は眉をひそめる。
「安心しろ。天后も頷いたぞ。」
「だが...」
「狙われた永望に戦ってもらうのは、馬鹿馬鹿しく聞こえるかもしれないが、彼女がいないと、俺らもまともに戦えない。」
十二天将、一人一人の実力はかなり高いが、肝心なリーダーがいないと、息が合わないせいで逆にうまく戦えなくなる。
だからこそ、晴明と永望が重要となる。
「お待たせしました。」
永望の声が聞こえた途端、攻撃していた天将たちはすぐ手を引き、永望のどころに集まる。
六人の凶将、全員揃った。
「九生の化け猫、あなたの目標は私でしょう。なぜ夢瞬を狙う?」
「他に理由なんてないでしょ?あの子が安倍家唯一の弱点ですもの。」
「弱点...」
「戦えぬ、妖気にさえ気付けぬ、ただの凡人に過ぎぬ。」
「その通りですね。」
「...嬉しい顔してて、何のつもりです?」
「あの子が凡人でいることを、誇らしく思っていますから。」
永望は微笑む。
「あなたの言う通り、安倍家の子分でさえ、夢瞬より高い霊感能力を持っているのかもしれません。しかし、だからこそ救えないものだってあります。例えば、あなた。」
「私?私を救えたいのです?安倍永望、あなたは主人公でも、英雄でもありません。。」
「なぜ拒む?救われたくないのですか?」
何かに気付いたように、九生の化け猫はそれ以上返事しなかった。
「あなたは、もうすぐ死ぬことに気付いて、焦ってしまい、私の不老不死を奪いに来ましたよね?
「しかし、申し訳ないが、私にはこの人たちと一緒にこれからの時を過ごす義務があります。永遠の命を、あなたに譲ることはできません。」
永望は天将たちを見つめ、微笑んだ。
「救うとか、戯れ言を言うんですね。」
「戯れ言ではありません。あなたを救うのは、夢瞬です。」
「あの娘...?」
「普通の猫の寿命は、二十年に越えづらい。にもかかわらず、あなたは八十一年以上生きて、九生の化け猫になりました。それは、なぜだと思います?」
「...私はもう猫ではないと、言うつもりですか。」
「今のあなたは猫を被っている、ただの妖怪に過ぎません。」
「それがどうした?」
「夢瞬は昔から猫に興味がありましてね。あなたがあの子のペットになったら、同じタイミングに死を迎えるのでしょう。」
「あんな小娘と一緒に死を迎える必要はありませんが?」
「そうですけど...そうしないと、今すぐ死にますけど、構いませんか。」
永望は微笑んで、化け猫の隣に指差す。彼女の頬に当たっている、鋭い針が一本。
そこから微かに伝わる、毒の匂い。
「...!あんたは!」
「貓又の妖気かなと思ったら、なるほど、九生の化け猫か。」
「あの時もう察したのか...!なぜ、見逃してくれた?」
「あの子が、あんたを守ろうとしたから。」
「...」
化け猫は振り向き、永望を再び見つめる。
十二天将の主である、彼女の力をようやく実感した。
「...その提案に乗ります。」
「ありがとうございます!藤原家の次の当主さん、申し訳ないが手下に手を引いてもらえます?その子はもう、うち安倍家の式神になりましたので。」
「安倍様...ありがとうございます。」
光兎は微笑み、彼の隣にいる男はすぐ、毒針がついてる尻尾を引いた。
「それでは、失礼いたします。」
光兎の背中を眺め、玄武は前に出た。
「永望...」
「わかっています。彼を尾行しなさい。」
微かに怪しい笑顔をした永望は振り向き、安倍家の庭に入った。




