九つ目の瀕死の朝
一年過ぎた。
安倍夢瞬、無事に中学二年生になった。
時は庚戌の年、当番は天空。
「夢瞬、ほら!」
「...きれいな桜。」
「でしょ?」
剎華は笑い、夢瞬と共に空に舞っていた桜を眺める。
「剎華!夢瞬!おはよう!」
「光兎、おはよう。」「おはよう!」
二人は振り向き、光兎と合流し、三人で一緒に教室へ向かう。
「そういえば夢瞬、ペット飼ってる?」
「いいえ。剎華は?」
「小熊を何匹。」
「熊!?」
「ちっちゃい熊だよ。もはやミニ熊。」
「なんかかわいい。」
「光兎は?」
剎華は光兎の方を見て、夢瞬も共に視線を移した。
「うちにペットいないよ。」
「私と同じだね。」
「ペット飼えるなら、何がいい?」
「うん...犬かな。夢瞬は?」
「猫。」
夢瞬が言い出した途端、剎華と光兎はすぐに納得した表情をした。
「そういえば、猫に関する伝説ってあるでしょ?」
光兎はふと思い付いて、語る。
「聞いたことないな。どんな伝説?」
「長い間飼われていた猫は、尻尾が二又に分かれ、山の奥に行って住むことになるんだって。」
「...おぅ!猫又だね?」
「その通り。」
「じゃあ私からも夢瞬にひとつ教えてあげる!」
剎華もウキウキになった。
「夢瞬、猫には九つの命があるって知ってる?」
「九つの命?」
「古代の人はね、猫が高い場所から落ちても死なないことを見かけて、猫には九つの命があると言ってるの。九年ごとに尻尾が一本追加で、八十一年後に九つの命を持つことができるらしい。」
「伝説なのに、妙にちゃんとしたルールがあるんだね。」
「そういう猫は九生の化け猫と呼ばれ、色んな形に変形して、獲物を騙して食べるらしい。」
「...そうなると、剎華も光兎も、ひょっとすると本当は化け猫だったり?」
「その可能性もあるけど、化け猫に一番似てる人といえば...」
それは夢瞬自身だろう。
光兎と剎華は見合わせて微笑み、本音を言わないようにした。
帰り道。
剎華と別れ、光兎と夢瞬は共に歩く。
すると、夢瞬は道端にある段ボールを見つめる。
中には、瀕死な猫が一匹いた。
「猫。」
「どれどれ...病気じゃなさそう。お腹空いただけだと思うよ。」
「よかった。」
「家に連れて帰るの?」
「うん。まずは朱雀たちにお願いして、ご飯を食べさせるの。あとのことはまた考える。」
「...ちょっと待って。夢瞬、それ。」
光兔の視線の先に、夢瞬も見つめ、そして気付いた。長くないが、二本の尻尾。
「猫又...?」
「猫又になったことが気付かれ、捨てられちゃったのかな。」
「...」
夢瞬はゆっくりと、その猫又を抱き締める。
「光兎、先に帰るね。」
「うん。気を付けて。」
どうして、この子を守りたくなったの。
どうして、猫に特別な感情を抱くの。
それはきっと、猫と私が真逆な存在だから。
この子たちは長く生きれる、夜中に行動し、誰よりも長く生きる。
大好きな、彼女のように。
「ただいま...!」
「夢瞬さん?」
台所から出迎えしに来た騰蛇は、慌ててる夢瞬を見て戸惑った。
「騰蛇!この猫又を拾ったんだけど、緊急処置できないかな?」
「猫又...?」
夢瞬に言われて、騰蛇は夢瞬に抱き締められてる猫又の方を見る。
「...!夢瞬さん、それを捨てろ!あれは猫又じゃない!あれは...!」
痛みを感じた瞬間、夢瞬の目の前は真っ暗になった。
夜でもないのに、意識を失った。
「...夢瞬さんから離れろ!」
騰蛇は凶将としての苛烈な神気を放ち、夢瞬の隣に立っている女を睨む。
その女の笑顔はどこか妖しく、そして彼女の背中に、九本の尻尾が揺れていた。
「九生の化け猫、猫又のふりしやがって、安倍家に何か用?」
「九生の化け猫とはいえ、九生しかおりません。そんなんじゃ、足りませんわ。」
彼女の目線を見た騰蛇は、彼女の...九生の化け猫の本当の目的に気付いた。
安倍家の奥に眠っている、あの人。
「永望も、夢瞬さんも俺が守る!」
「守ってどうするんです?苦しむのは、いつだってあなたたち、天将ではありませんか?」
「それでも...!」
騰蛇は否定しない。今でも、千年前の晴明の笑顔を何度も思い出す、自分のこと。
それでも、永望の、そして夢瞬の優しさのためなら。
「彼女たちが生きている限り、俺は彼女たちを守り抜いてみせる!」
何度も、何度も、笑顔を消す凶将になる。




