序章
「騰蛇、朱雀、勾陣、玄武、白虎、天空。」
青龍の呼び掛けに振り向いた六人の凶将は、それぞれ緊張な顔をしていた。
「大丈夫、二人とも無事だ。」
青龍の言葉を聞いて、ひとまず安心した六人だが、青龍に笑顔がないことを気付いた。
「青龍?どうした?」
青龍と同じ、方角が東の勾陣は心配そうに尋ねる。
「貴人によると、その子供、血縁を継承していない。」
千年ほど前、平安時代。
陰陽道が流行り、陰陽師を育つ陰陽寮での話題は、八割あの男だった。
安倍晴明。
彼の占いは絶対外れない。
伝説によれば、彼は白い狐の息子であり、十二天将を使うことができるという。
民にとって、届けない存在。
皇室にとって、安心させる存在。
十二天将にとって、何を考えてるのかがわからない、ただのじいじ。
追い付きたいじいじ。
「天后...あの子は?」
ベッドの隣に座ってる、青くて長い髪を持つ女性は、横になってるもう一人の女性を愛しく見つめていた。
「無事だ。吉将の六人を揃ってるのに、無事じゃなかったらどうする。」
横になってる女性はふと笑ったが、息がまだ浅い。
「永望、ちゃんと休め。」
「...はい。夢瞬のこと、頼みます。」
夢みたいに、何千年、何万年過ごしたと思ったら、僅か一瞬。
晴明がなくなったあと、十二天将はバラバラになって、それぞれの領域で働き、接触することを避けていた。
なぜなら、話題はその人しかいないからだ。
しかし、ある家族だけのために、彼らはたまに集まることになる。
そして、安倍晴明がなくなってから千年経って、彼らは再び、ある伝説の存在が生まれた瞬間を見届けた。
安倍永望。
「三番、安倍夢瞬。」
「はい!」
名前が呼ばれた女の子は緊張しながら手を上げた。
その紅葉色の短い髪が少し揺れている。
「自己紹介、お願いします。」
「...わかりました。」
彼女は前に立って、中学の新入生たちを見ていた。
この人たちこそが、これから三年間、彼女と一緒に勉強するクラスメート。
「安倍夢瞬です。小さい頃で両親がなくなったので、今は叔父さんと叔母さんの家に住んでいます。」
晴明の血縁を継ぐ人たちの中、彼女だけが彼と同じくらいの力を持ってる。
まるで、安倍晴明千年間ずっと待っていた、本物の継承者。
しかし、彼女が継承したのは、陰陽師の力だけではない。
安倍永望までの血縁に、七百年ほど前、吸血鬼の血液が混ざった。
「太裳、夢瞬さん大丈夫か?」
太陰を見て、太裳は静かに頷いた。
「...しかし、陰陽師の力だけじゃなく、吸血鬼の力まで、何も継承しなかったなんて。」
「全部持つ者もいれば、全部持たない者もいるのだろう。」
「しかしそれじゃ...」
「ああ。彼女たちの距離は天地や月日よりも、遥か遠いんだな。」
安倍晴明の継承者の子供は、何の能力もない、ただの凡人。
誰も、十二天将ですら、定めに従うしかない。
彼女だけが、強い無力感を得た。
安倍夢瞬。




