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「レナ、本当に私についてきてくれるのかな?」
眼鏡をかけたサイール・ソメットが、じっとレナの顔を見る。
「私は王国を追放された身ですから。寧ろ、私を連れて行ってくださるのならば、御の字ですわ」
レナがサイールに告げる。
サイールは、魔法局の人間だった。筆頭魔導士。天才と呼ばれる魔法局のエースだった。
サイールは、レナが作った映像を記録できる魔法を初めて魔法局に持ち込んだ時に、魔法の検証をした人間だった。レナ15才、サイール25才。サイールは、レナの魔法の才能にほれ込んだ。そして、映像を記録できる魔法をもっと精巧なものにするために、ともに練り上げた。
戦友だった。
……レナにとっては。
だが、サイールは、王太子の婚約者であるレナに恋心を抱いていた。それは、叶わぬ夢なのだと思っていた。
ところが、事態が急転した。久しぶりに魔法局に顔を出したレナの顔色が悪いため、サイールが問いただしてみると、卒業パーティーで婚約破棄が行われ、国外追放され、マリアンヌが婚約者になるはずだと話すのだ。
サイールは、マリアンヌのことを知っていた。家が近かったからだ。信じられなかった。だが、それが現実になると知って、サイールは王国の将来が不安になった。
サイールは天才だ。その力を、他の国からも求められている。だから、サイールは現状で一番条件のいい遠く離れた国に移ることを決めた。
国外追放されるレナを伴って。
その話を提案すると、レナは驚いた後、自分を連れて行ってもいいのか、と首を傾げていた。
だから、サイールは自分の恋心を告げた。レナは驚いてはいたが、サイールのことを尊敬していたため、嫌な気分にはならなかったし、むしろあっけなく態度を変えてしまった王太子よりサイールの方が好ましかった。魔法の能力も生かせると言われたのも、純粋に嬉しかった。
それでも、レナはその時は頷かなかった。
最後の最後までゲームの流れに抵抗しようと決めていたからだ。
なぜなら、レナは腐っても王太子の婚約者。最後まで清廉潔白でいたかった。
だが、レナの頑張りは、無駄に終わった。
実の父親からも娘ではないと言われ、レナがフラフラと卒業パーティーの会場から外に出た時、サイールが外に待っていてくれた。サイールの姿を見た時、レナはホッとしたし、嬉しかった。
尊敬している気持ちと、好ましいと思っていた気持ちが、恋心に変わるのには、時間はかからなかった。
そして二人は、王国を後にした。