友達がいない私と異世界の彼の交換日記
私は友達がいない。
それはクラスで流行っている交換日記をする相手が、私だけいない事からも確実だった。
他のクラスの子としている人もいるけど、よくそんな事ができるなぁと関心する。
「私と交換日記しない?」
なんて知らない人に話しかけられたら、きっと私は……何も言えずに立ち去ってしまうから。
もしもできたとしても、何を話していいのかわからない。
……でも、憧れはある。
どんな事を話しているんだろう?
好きな人が誰だとか、付き合っている人の事を書いているのだろうか。
気になって仕方がない私は、きっと誰ともしない交換日記の為に、文房具屋でノートを買った。
1人だけの家に帰って、ふと冷静になって自傷気味になる。
「誰ともしない予定なのに、なんで買っちゃったんだろう。
……でも、書いてみるだけなら、いいよね」
自己紹介と得意魔法だけを書いた簡潔な交換日記。
我ながら、つまらない内容だ。
でも、最初はこんなものだよね……きっと。
ノートを閉じ、宿題をして眠った。
早朝、まだ付け足した方が良いかなとノートを見返したが、私には思いつかなかった。
自分で自分に返信できる気もしない。
何かでノートが必要になったら、破って使おう。
そう思って学校カバンの中に入れて登校した。
気づけばもうすぐ大型連休だ。
宿題に関係ない教科書やノートは、学校に置いていこう。
その中に、少し恥ずかしい自己紹介をした交換日記のノートが紛れている。
誰も見たりしないはず。
でも、もしも誰か見て返信してくれたら……
遠足で少し規定の値段をオーバーしたおやつを持ち込むような、ほんの少しのドキドキを感じながら帰宅した。
翌日、その翌日になっても交換日記に変化はない。
……当たり前か。
ほんの少し期待していた自分がいて、ひどくガッカリした。
私みたいな地味で目立たない人の机を、誰が見るというのだ。
なんてことはない日常しか、私には巡ってこない。
何事もなく大型連休を過ごした。
ふと気が向いて、いつもより早く学校に到着してしまった。
提出予定の宿題の確認をしたり、今日の授業用の教科書を整理する。
……なにかが変だ。
そうだ、交換日記がない!
急に顔が紅潮し、心臓がドキドキと高速で脈打つ。
誰かに持って行かれてしまったのだろうか?
どうしようかと考えつつも、段々とクラスメイトが登校してくる。
でも、誰も私には話しかけてこない。
他の女の子達は、それぞれに交換日記相手や友達と楽しくおしゃべりしている。
もしかしたら、机にしまったつもりが家に置いてきたのかもしれない。
いや、きっとそうだ。
そう思いつつも、落ち着かない1日を過ごした。
家に帰ってきて部屋をひっくり返しても、どこにも見当たらない。
カバンの中も何度も見た。
どうしようどうしよう……!
もしかしたら、明日になったらイジメの材料にされてしまうかもしれない。
怖くて怖くて、0時を過ぎても全然眠くない。
顔を真っ青にしつつ登校すると、机の中に交換日記があった。
よかった、昨日見落としてただけなんだ。
そう思ってノートを開くと、男の子の字で返信がある。
驚いて急いで閉じたが、隣の子が話しかけてきた。
「どうしたの、ずいぶん顔が紅いけど?」
「いや、なんでもない、なんでもないの」
「ふーん……もしかして、交換日記始めちゃったとか?
誰と始めたのよ、ねぇ教えて教えて」
「今日提出の宿題を、忘れてきたのを思い出したけだから……」
「なーんだ、つまんなーい」
よかった、どうにか信じてくれたみたい。
カバンの底に隠して、どうにか1日バレずに過ごした。
帰り道は、とても落ち着かない。
何が書いてあるんだろう、誰が書いたんだろう。
色んな事が頭をぐるぐる回る。
どうにか部屋に入って鍵をキッチリ閉める。
恐る恐るノートを開くと、たどたどしい字で綴られていた。
交換日記ありがとう、という冒頭から始まっているが、相手の名前は学年でも聞いたことがない。
サッカーという知らない部活をしていで、まるで異世界の話が詰め込まれたような内容だった。
誰かと間違えたのではないかと思えたが、私の名前が2度も出てくる。
不思議な事もあったものだが、とても嬉しい。
もしもイタズラだとしても許せてしまえるくらい、私の心は満たされていた。
それから、私と不思議な彼の1週間に1度の交換日記が始まった。
何気ない会話ばかりだけど、彼の話はとても楽しい。
知らない話ばかりだし、彼も私のつたない魔法の話を楽しんでくれているようだった。
しかし『もうすぐ夏休みで寂しくなるね』という私からの日記を最後に、返信が来なくなった。
何か気を悪くする事を言っただろうか……?
段々と彼の事が気になって、好きになっているのがバレてしまったのかもしれない。
それでも、さよならもなく、ぷっつりと関係が切れてしまうなんで嫌だ。
悪い所があったなら教えて、と何度書こうとして辞めたかわからない。
返信のないまま夏休みになった。
私は補習をわざと受けるようにテストの点数を下げ、何度も夏休み中に学校に行く。
……それでも返信は来ていない。
『お願い……返事をして』
夏休みも残り少しという最後の補習の日、私は耐えきれなくなって書き込んでしまった。
もしも、始業式の日に返信が来ていなかったら諦めよう。
そう心に決めたけど、返信が来る未来が全然見えない。
悲しみばかりで過ごした夏休みは、ひどく長く感じたけれど、それでも始業式の日は来た。
誰よりも早く登校したけど、ノートを開く勇気がない。
もしかしたら返信が来ているかもしれない。
でも、来ていなかったら最低の2学期になる。
悩んでいる間に、ホームルームが始まった。
「今日は、転校生を紹介します。
遠くの国から来たそうですが、みなさん仲良くするように。
では、自己紹介をしてください」
思い描いていた交換日記の彼そっくりの男の子が、壇上に上がる。
チラリと目が合い、私はとっさにノートを開いた。
『君の事が好きだ。必ず、会いにいく』
聞いた事がある自己紹介が終わると、彼は横を通り過ぎる時に小声で話かけてきた。
「これからも、交換日記よろしくな」