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夢者  作者: 高島 良
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王国兵4

 戦は、お互い昼でも夜でも攻撃するので、どちらも疲れ気味。目に魔力を送ると夜でも見えたり、熱感知に切り替えたり、なんて便利な機能は無いので、夜はかなり後方でしっかりと睡眠、昼も後方待機が続き出番はなかった。


 今更弓隊を隠しておく必要もないが、ほぼ平面の戦場では前が見えないし、3mものやぐらなんて組もうものなら、ゴリ押しで潰しにくる為以前の手は使えない。

 しかし、実力は王様も把握済み、右に大きくずらして軍を配置、それによって右奥が丘にかかる。そこから、すこし射程オーバーだが、俺と大隊長で総大将同時射撃し、一気に決めてしまおうという、だいぶ楽観的な作戦だったがあっさりと採用となった。

 作戦当日、予定場所に向けて移動していると悲鳴が前方と後方から、いやそこら中から聞こえる、敵襲との声も、前にいた歩兵達が一斉に引き返してくる隊列はくずれ、弓隊もあっという間にばらばらになる、とりあえず引き返す、撤退の命令はでていないがまだ配置が終わっていない、逃げても問題ないだろう、何が起きているのか情報が何もない。

 すこし下がると、今度は後方の部隊も向かってきて肩がぶつかる。敵が迫ってきているのはわかるのだが、どちらから来ているのか分からない、混乱した味方の兵士たちに押されて何も見えないし、立っているのがやっとで、弓を構えることもできない。

 なんとか人込みを押しのけ、敵は見えないが矢を手にとる、悲鳴や怒号にまじり、馬の足音と鳴き声が聞こえる。

 迫って来る馬の足音に振り替えると、すでに槍先が目の前まできており、腹に激痛が走る。槍は上に振られて、空を舞って地面を転がる、その後数回に分けて騎馬隊が突撃してきて、何度も馬に蹴られ、雑草のように踏まれ手足は微動だにしない。

 確実に殺せ! 弓を持った奴は、絶対に逃がすな! 背中に掛け声がひびく、一帯は制圧され、槍を持った兵隊が止めをさして回っている、体は動かないのに意識は切れない。

 ついに俺のところまでやってきた兵士が、俺を仰向けにひっくりかえし、槍をかまえる。


「大将こいつじゃないですか?」

「おー、矢も担いでるし、間違いないだろう、まだ生きてるじゃねーか、たっぷり褒美がもらえるぜ。縛って盾にのせろ、持って帰るぞ。」


 その後、動けないというのに丁寧に縛り上げられて、馬に引かれる、たまに揺れて腹の傷に響く。

 敵本陣につくと、広場の中央に柱が立ててあり、そこに立たされる、総大将とおぼしき老人が近づいてきて、剣を抜いて、斜めに切り下ろす。何度斬られても慣れるものじゃない、痛みは骨までしみる。


「この程度では、死なんか。……死ぬまで、ムチで打て。」


 この世界のムチは鎖の先に少し重りのついた全て鉄製、武器としても使える便利な物で、当然拷問にも使われる。3m程度だが、弓の次に射程が長い為、まれにムチだけで戦う手練れもいる。

 兄弟や友人の仇と、代わる代わる魔力を込めてムチをふるう敵兵達、すでに吊るされた時に出血が止まらなくなっており、魔力の守りは尽きかけていたのだろう、鎖が肉に食い込む。

 二日も過ぎたあたりで、痛みも感じなくなる、それでも恨みのこもった行列は終わりが見えない。不死ではないと言っていたドクターの言葉は嘘だったのだろうか、もう呪いとしか思えない。


 気がつかれました、目を開けると女性の声が聞こえ、足音が遠ざかる。また数日前と同じように、テントで横になっている、心配そうに俺を見るエマはいない、終わらせてくれても良かったのに。ここは、何処だろう、いつまでたっても死なないから、味方に引き入れようとしているのだろうか、それともある程度回復してから、再度拷問だろうか。期待通りの悲鳴が上げれるだろうか、自信がない。


「よく、戻られました。」


 涙を流してそこに立っていたのは、見慣れた白い制服を着た秘書さんだった。

 秘書さんが言うには、出撃してから今日で十日、連れ去られたのは把握していた為、複数の救出班が作戦を開始。俺を連れもどしたのは、買収話にのった亡命目当ての敵側の傭兵達だったそうだ。

 俺以外の弓隊は、大隊長以下全員の死亡を確認、連日の猛攻で敵側の増援数を正確に把握できていなかったそうだ。しかし悲しんでいる余裕は無い、現在戦力差は倍近くに広がっており、本国への退路である橋をおさえられ、大軍は身動きがとれずにいる、国王自ら前線に立って士気を維持しているが、それも限界に来ているそうだ。


「向こうの総大将も、冷静さを失い、前線に顔を出します。まだ回復していないことは分かっています。それは向こうも同様、数日すれば警戒して出てこなくなるでしょう。」


 そう言って、秘書さんは俺の弓を差し出す、もう触ることはないと思った弓を手にとり頷く。


「大隊長の代わりは私がつとめます、ヒロさんの遠距離用の矢は残り19本、射撃ポイントは目標まで約600m、歩兵隊に紛れて進軍、一時間で出発します。」

「わかりました。」


 弓を引くと、まだ左手が少し痛む、ドクター並みの人間がいるのだろう、普通ではこんな早く回復はしないだろう

 別に敵の大将が憎いわけじゃない、それは向こうも同じだろう、今考えれば俺を切り付けた時、すべて諦めたような目だった、わが子を11人も殺した相手を恨む目ではなかったように思える。俺も、エマほか弓隊を殺されたはずなのに、怒りよりもなぜ俺も殺してくれなかったという疑問のほうが大きい。弓をまた握るのは、大隊長の命令がまだ生きていると思うから、ただ漠然とやりとげてから死のう、そんな弱々しい気力で戦場に戻る。


 途中小さな乱戦に巻き込まれたが、なんとか突破、秘書さんの剣がかなり強かった。目標となる丘に到着するも、予定していた地点には目標の敵王ほか幹部の姿はなく、すでに移動したもよう。

 しばらく待機していたが、ただの歩兵がこんな所にるのは、普通に怪しい。広い戦場から見ればたいしたことないかもしれないが、見つかればお得意の軽騎兵波状攻撃が始まる、さっさと見つけないといけないが、狙撃用に目は休ませる、秘書さんが双眼鏡で探しているが、時間だけがすぎていく。


「いました、距離800。」


 そう言って、指先をのばし方向を指示する。


「確認できました。歩兵の隊長さん、一発撃ったらわんさか軽騎兵が……。」

「そんなこと分かってるよ、この戦はもう負けだ。それにな、あんたが居なきゃ、数週間前に全滅して地面に転がってた。もし生き残れば、この功績で衛兵か私兵に雇ってもらえる。死んでも、最後にこんな大仕事できたんだ、雑魚にはもったいない晴れ舞台ってやつさ、そうだなみんな!」

「おぉ!!」

「ほら、もう十分目立っちまった、俺らなんか気にせず、やっちまえ。」


 秘書さんを見ると、軽くうなずく。

 大隊長との訓練で、800mなら魔力を送ればくっきりと見える、一瞬俺が見えているのかと思うほど、こちらを見ている。しかし左肩の痛みが不安だ、狙いをつけてもすこしブレる。俺を切り付けたその男を射線に乗せる、大丈夫、冷静だ殺意はなくとも殺せる。

 矢が戦場を横切り、敵の総大将は馬から落ちる。


「馬か右足です、続けてください。」


 双眼鏡から、大げさな望遠鏡に変えた秘書さんの指示で、次の矢を放つ。総大将の周りにあつまって来た兵士が倒れる、続けて放つが兵士が倒れるだけで、総大将は見えない。失敗だ、盾を持った兵も集まってきて、矢をはじかれる。


「どうします、仕切り直しますか?」

「いえ、終わりです。」


 秘書さんの声から、悲壮感はない。


「あんちゃん、白旗だ、俺達の勝ちだ。」


 隊長さんの声で、敵の本陣を見ると、大きな白旗が上げられている。近場はピントが合わないが、味方の兵士の声だろう、歓喜した声が聞こえる。


 一時間ほど休んで帰るというと、隊長は夜には合流しろと言って、帰っていった。


「ヒロさん、ありがとうございました。」


 秘書さんの声は、いつもの優しい声にもどっている。


「こちらこそ、ありがとうございました。」

「なにか、まだ実感がありません、この勝利も、隊のみんなの事も。」

「……確かに、手ごたえは何もないですね。もう少しかかるのかもしれません。」

「私は、今日の報告がありますので、先に戻ります。ヒロさん、訓練所にみなさんの弓を送っておきます、いつか引き取りにきてくださいね。」

「はい。」

 

 そう言うと、秘書さんの足音が遠ざかる。戦争を仕事にするとはどんな事なのか、分からなかったし今も分からない、なぜかとてもむなしく感じる。


 その後秘書さんと会うことはなく、俺は最終日に守ってくれた歩兵隊の所属となり、帰り道はみなの故郷の話を肴に酒をのみまくった。途中配属の希望を聞かれ、みなそれぞれ故郷の地名を上げていく、俺は一瞬さくらの村をと考えたが、自分が疫病神にしか思えず彼女と村の安否を知るのが怖くなり、どこでもいいと答えた。こんな事を聞かれることは滅多にないと、以降の帰り道はさらにみんなの機嫌がよくなり、酒の消費量も増えた。


 王都まで一日となった町の外で野営して数日待つ。最初こそ送られてきた酒に喜んだが、周りの隊が解散して故郷に帰っていくのを見てみな不安になる。

 あきらめ半分と移動も無い為、だらだらと酒を飲んで数日過ごしていると、隊長さんが遂にきたぞーと酔っ払い達をあつめる。

 綺麗な礼装の軍服を着た若い兵隊が、なにやら紙の束を抱えている、隊長さんはそれを一枚とると、隊員の名を呼び、配属先を伝える。それは、本人が希望していた、故郷の町の名で飛び上がって喜ぶ。そんな発表のたびに、みなが酒を空け、俺は途中で寝てしまった。


「おーいヒロ、ちょっとタメが長いぞ。」


 体を揺らされて、やっと目覚める。


「大丈夫、ちゃんと聞いてた、寝てないぞー。」

「よし、フィール侯に乾杯だ!」

「おぉ!」


 まったく聞いていなかったが、俺はフィールとかいう場所でなんか仕事するらしい。みんなが祝ってくれてるし、いいところなんだろう。

 翌朝、みなと別れてとりあえず王都を目指す、ざっくりと聞いた感じでは、フィールは王都の向こう側、さらに一日歩く程度との事だった。さすがに王都周辺まで戻って来ると、街道は人が多い、衛兵の巡回も多く、俺の様なヘタレ剣士でも安心して歩ける。そもそも、こんな大きな街道を堂々と歩く事は今まで無かったか、俺の前科を知っていたのは大隊長だけだったはずだが、フィールの領主様というか俺の上司になる人は知っているんだろうか。俺の手配書は消えたそうだが、俺の身分を証明してくれるのは、荷物に入っている小さな命令書だけだ。顔を覚えていて、警告なしで切りかかってくるやつがいてもおかしくはない。しかも、頼りの命令書はほとんど読めない、カルに教えてもらった読み書きだが基本だけ。絵本に書くような大きな文字で綺麗に書いてある場合に限る。字が小さかったり達筆だったりすると、さっぱり読めない。衛兵でも隊長クラスでないと読めないらしいので、仕事は問題ないとは思うのだが、この命令書だけでたどり着けるのかどうかが不安だ。なにせ訓練所についてから出陣まで一回も町に行っていない、今までは軍といっしょに帰ってきたから、よかったのだが、王都は通り抜けられるのだろうか?

 

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