王国兵3
目が覚めると、どうやらテントの中だが、右目は開かず、他にも体全体が痛い。起き上がろうとすると、エマがまだ寝ててと胸を押す。
「逃げ切れたのか?」
「ちょっと風に押されて転んだけど、大丈夫。……ごめん、私がちゃんと撤収してれば、こんな事には。」
「近距離はとことん苦手、戦いは終わった?」
「あの日はね、次の日からは力づくで昼も夜も攻めてくるから、弓隊は大丈夫だけど、かなり被害がでてるみたい。」
「それで、なんでここにいる、虐殺を見たんだろ。」
「敵でも流石にあれは……大丈夫……ではないけど、心配で。」
「俺を踏み台にして、出世したのにか。」
「それは……出世はしたいよ、あの家に帰りたくはない。だからって、隊長を引きずりおろして、取って代わろうなんて、考えてなかった。」
「……そうなのか? みんなで、使い道無くなって切り捨てたんじゃ?」
「そんなわけないじゃないですか! 隊長がいなかったら、みんな家に戻されてた。私みたいに、黒の悪魔って呼ばれて、閉じ込められて……死ぬまでずっと……。そうならないように助けてくれて、弓の使い方や読み書きまで教えてくれた人を、裏切ったりするわけないじゃないですか。」
「読みか書きは手配しただけだけど……、エマを隊長にって大隊長に話したんじゃないのか?」
「あれは、もう少し訓練に来て欲しいと白服の方に相談しただけで。山向こうの研究棟にいったまま、滅多に帰ってこないから、もうすこし会えるかと思って……。」
「……研究棟、確かにこもりっきりだったからな。」
「私達はもちろん、キャルさんですら接近禁止って言われて、怖かったんですよ。毎日のように夕刻になると、点呼が入ってそのあと雷のような轟音がして、それが何日も続いて。帰ってきても、話してくれないし、疲れてるからって部屋にも入れてくれない。」
「ごめん、なんかすごい素直というか、何も考えない子なのかと思ってた。……いや、ごめん、俺との事ね。」
「そんなわけ……、突然隊長にって言われて、みんな新兵が入って、そっちの隊長するんだって、最初は思ってて。同じ隊長同士なら、もっと普通に話せて、会う機会だって増えると思ったのに。滅多に帰ってこないし、会ってもそっけないし、部屋で待ってても会いに来てくれないし。……私は、貴方の部屋を引き継いだのよ! 何度も手を引いていったあの部屋で、ずっと待ってたのに。」
「軍人がそんな簡単に泣くなよ……。」
「ずっと我慢してたんですよ、もう終わりって思っても、もしかしたら来てくれるかもって、部屋でも泣けなかったんです。」
「そうだったのか、俺はてっきりあの噂で部屋に来なくなったのかと……。」
「噂って、納品に来た子を縛り上げたってやつですか?」
「……そんな話になってたのか。」
「隊長ならそれぐらいするかなって、鉢合わせたらまずいから、あの子が来た日は行かない方がいいかなって。」
「……しないから。」
「言ってくれれば良かったのに。」
「聞いてこいよ、それぐらい。」
「他にも、白服の人とか、一番隊の貴族の人とか……なに目そらしてるんですか!」
「それは、最初の頃の、きみとああなる前だし……。」
「自分は、全部報告しろって言うくせに!」
「それは、仕事っていうか軍の話だろ。」
「……私は、全部話したのに。」
「ごめん、俺は話せない事が多いから、それを言い訳に大事な事も話してなかった。」
「……過去の事なら、みんな知ってます。」
「そ、そうなの?」
「嘘つけばいいのに、話せないなんて言うから、大隊長と隊長がこなくなってからは、弓大隊全員で謎解きしてたんですよ、おかげで団結できました。」
「それは、まぁ、なにより。」
「三番隊はともかく、みんな黒魔力持ちの現役の弓使いです、同業の噂話は忘れません。それぞれの情報をつなぎ合わせれば、赤目討伐、レッドテイル、方々での魔物討伐、一人で野犬の群れ壊滅させるなんて、隊長にしか出来ませんし、黒弓……。」
「他にもあっただろう、怖くないのか。」
「みんなも、レッドテイル壊滅はさすがに引いてたけど。寝てる時に指輪ずらして入れ墨見ちゃったんですよね、キャルさんが、もし本当に裏切ったなら、残してるわけないって。」
「ずいぶんと、危うい推理だな、信じたい事を信じてるだけなんじゃないのか?」
「そんな事ないですよ、百人以上の女の人の名前が出てきましたし。」
涙目だったエマの目が殺気だっている、そんな嫉妬深い子とは思わなかった。
「それは、真実ではないぞ、賞金首だと、モテるとかそんなわけないだろ。」
「それ! 一番最初の手配は貴族への不貞ってみんな言ってましたよ、なにしたんですか?」
「ちょっと、つまみ食いして、お腹すいてて、みたいな?」
「それって貴族様の娘ですよね、誘われたら誰でもいいんですか?」
うん、基本的にはそうだが、そんなこと言えない。
「それは、弓しか使えないから、守ってもらわないといけなくて、断れない事もあって、しかたなく。」
「しかたなく? それで、キャル隊長とは? なにも無いんですよね?」
なくはない、何度か危うい事態になったが、運良く? いや悪いのか、人が来たりして、エマがどこまで有りとするのか分からないが、詳細を報告するとまずい気がする。
「エマ、これからどうしたい?」
「前みたいに、隊長と副長にもどって、一緒に訓練してくれれば、それでいいです。」
「そっか。逆でもいいけど。」
「そうですよね、上官に決定権がありますしね。」
「……エマ、なんで服を脱がす?」
「みんな出てって! 噂で、隊長はすると治るって。」
「そんなわけないだろ、ほんとまだ色々痛いから、勘弁して!」
噂なんて、信用出来るもんじゃない、どこかでは分かっているのだが、自分に都合のいいものは信じてしまう。そして、おおきな怪我がなかったとはいえ翌日にはほぼ全快した、俺の体はどうなっているのだろう。




