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夢者  作者: 高島 良
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王国兵2

 弓兵の運用を考えると、30人で万越えの敵を削っても意味はない、遠距離からの一撃で有力な武将を倒して戦力を削る他ないように思える。そうなると、大隊長と俺しか候補がおらず、ベテランでも平均100m、第三小隊にいたっては、50mといったところ。そんな距離では相手が歩兵でも、距離をつめられて盾ではじかれるか避けられる、敵が馬ならさらに当てるのが難しい、数枚の鉄板を重ねて弓兵対策した重騎兵ならまず勝ち目はない。弓最強などと考えていた頃がなつかしい。

 そんな事をずっと研究するのかと、日々と考えていたが出陣の命令が下る。

 白制服組いわく、最近の戦争では弓兵の出番はないらしい。いわゆる紳士協定的な物で、戦場では弓を使わないのがお約束、余程の戦力差が付いた場合や、捕虜交換も無さそうなほど険悪な関係となった場合に限られる。今回の戦はというと、南東側に国境を接する隣国との戦だが、陣営が違う為、捕虜交換や身代金交渉に関しては微妙なのだそうだ。

 この大陸は、横に長い楕円形となっており、中央に横長の巨大な中海がある。

 陣営は大きく分けて三つ、南側の教会と東側の帝国、そして今いる北東の商業連合地区。商業連合と言っても仲がいいわけではなく、大小さまざまな国がひしめき合って大小さまざまな戦争が起こる。同盟やら裏切りが国単位で繰り返される戦国時代となっている、それでも商業連合内を二つに分けているのが帝国寄りかそうでないか、それぞれ帝国派と連合派なんて呼ぶ。それぞれの陣営内でも戦争するし、派閥鞍替えもざらにある。魔物が群れで出るような世界なのに、人間の愚かさが際立つ、おかげで仕事には困らない。

 今回は、両派閥の代表戦、とまではいかないらしく、お互い陣営からの応援は無しほぼ同数の戦いになる。そもそも、連合派内だからと言って、皇帝の文句を堂々と言えるなんてことはない、西方開拓に送られすでに何世代もたっているが、貴族の中には帝国への忠誠に熱い情熱をそそぐ人もいたりして、連合内の王様達も温度差はそれぞれ。つまり、誰が敵か味方か見極めがむずかしく戦続きにも関わらず、長年勢力差は大きく変化していない。


 久々の野営も数日が過ぎ、食事も終わると見張りを残してベテランの弓使い達は早々にテントに引き上げる。元気なのは、第三小隊の若者達だけ、一日歩いたというのに、魔力を込めて矢を撃っているメンバーもいる、俺の元部下たちは十分に育ったようだ。

 今は、第一小隊の所属となっているが、大隊長付きといったところで、第三小隊はエマが率いている。一通りの弓の使い方を教えた後、日々大隊長や白制服組と矢の研究や弓兵の戦場での運用など、机上での仕事にあけくれて隊の訓練は第二小隊と合同としていた。キャルからは、もう少し隊のメンバーと話をしろと言われていたが過去を一切話さない上官と話がはずむはずもなく、全てエマに丸投げするようになっていった。そんな時、訓練所に納品している商人の娘を強引に……なんて噂が流れていたらしく、エマが部屋に来なくなり、他のメンバーからエマを隊長にと大隊長に進言があり俺は隊長を降りた。

 エマは会えば何も無かったように、元上官に敬語で挨拶するしキャルの助けもあって、ちゃんと隊をまとめている。そうでなくては困るのだが、すこし名残惜しい。


 戦場について十日、かなり後ろに配置されたおかげで、戦闘は無いが戦場の様子はさっぱりわからない。噂だけなら、こちらは騎兵が少なく押され気味らしいとか、向こうは王子様勢ぞろいとか、他にも重要なのかさっぱり分からない真偽不明な話に、みな一喜一憂している、それ以外することがないのだ。

 夜になり、久々に大隊長が戻ってくる。


「ヒロ、やれ。」


 相変わらず、シンプルな指示だが、さっぱりわからない。唯一付いて来ていた白制服組、弓隊のメンバーは勝手に秘書と呼んでいる美人さんが、詳細を説明する。

 今日までは、かなり紳士的な戦闘で、前線がぶつかって戦闘して疲れてきたら入れ替え、戦闘の繰り返しでさほど死者もでていなかった。戦闘は10時から16時までの6時間、超がつくホワイト運営で終了のドラで終わり、のはずだったがドラの少し後に向こうの騎馬隊が突入、油断して負傷者の手当を指示していた領主が戦死。敵側からの説明では、王子様の一人が手柄欲しさに暴走、明日以降の戦闘にはださない、テヘペロみたいな伝言が届いたらしいが、殉死した領主様は王様の親友とも呼べる人で、王様ぶちぎれ、使者を意識が飛ぶまで殴り、明日以降はどんな非情な手段も問わないと宣言。集まった将達に策をだせと指示して、うちの大隊長の案が採用されたのだそうだ。


 早朝、俺は大隊長と最前線に立つ。正確には、それぞれの軍が睨みあう、ほぼ中間地点、少し味方のが近いかも程度の距離に、3mのやぐらを組んで、その上に立っている。今日からは、何時に始まるのか不明の為、両軍共に並んではいるが、まだ緊張感はない。弓と小型の望遠鏡を持った男が二人たっていたとしても、なにかの余興で扇でも撃ち落とすのかと、敵も味方も警戒していない。名の知れた大隊長ですら3本しか撃てないのだ、300本撃てるなんて報告を受けても信じないだろうし、山奥で訓練したおかげで、敵さんどころか味方ですら弓隊の真相はしらない。向こうの世界なら、ライフル持った奴がいて、弾は3発、味方は一万、運悪く当たるかもしれないが、怖がって逃げ出したりは出来ないし、当たって死ぬなんて考えもしないだろう。


「右隅から、馬は白、兜赤。」


 正直なところ、ヒントが少ない気もするが、大隊長の望遠鏡の向きで、大まかな方向がわかる。子沢山な帝国派の王の子供達、王子様といっても結構歳いってたりするのだが、幼少から鍛え上げられ優秀な隊長や将軍となっており、今回の戦では11人が参加。大隊長の策は、今日の開始時に全て討つという、シンプルなもの。顔の知っている大隊長が探して、俺が仕留める、探すといっても、かなり中央に集中して配置されてるので、スピード勝負だ。

 的となる王子様達までは、遠くて400mほど、訓練の成果もあって、8秒間隔で王子様は消えていく、敵側は混乱し、味方は見る余裕もないが何が起こっているのか、分かっていないだろう、なんの恨みもないが、モテるであろう王子様の殺害は正直楽しい。すでに11は超えており、的は騎乗している将に移る、矢がどの方向から飛んできているかは分かるだろうが、将を討たれてしまうと兵たちは動かない。


「右、騎馬隊。」


 予定通り、騎馬隊が出てくる、思っていたより遅かった、弓に騎馬をぶつけるのはお約束、その対策も当然ある。


「竜撃を。」

「まだだ。」


 竜撃とは、赤目の肩を吹き飛ばした全魔力を使う一撃のこと、子供っぽい名前に反対したのだが、なぜか大隊長はお気に入り。もしかしたら、名前などどうでも良くて、その威力を倍増させる矢の制作が楽しかったのかもしれない……正直俺も楽しめた。何度も実験を繰り返し、出来上がった矢は、向こうの人間が見たら鉄パイプにしか見えないだろう、長さは他の矢と変わらないが、中には様々な金属が詰まっており、とんでもなく重い。射程は300m程で、作り出す黒い霧はの直径は最大で10mほど、毎回かなりの誤差がでる、実験で使った山は新しい川やトンネルがたくさん出来た。リミッターを付けたおかげで気を失う事も少なくなったが、力んで魔力を込めすぎると、2日は意識が切れる。


「大隊長、あれが騎馬本隊でないとしても、俺だけでは全部は無理です。」


 向かってくる騎馬隊はどうやら軽騎兵のようで、俺の弓であっさりと落馬しているが、縦に長い為、どれだけいるのかはよく分からない。到達されるまでに削りきれる数ではない。


「こちらにも、騎馬。」


 大隊長がそう言うと、味方騎馬隊が突撃して、敵側隊列が崩れる。味方の救援はありがたいが、ばらけてしまった為、狙いにくい。


「弓隊。」

「一番隊は右、二番隊は左、三番隊は抜けた奴をしとめろ、小隊長の指示で射撃開始!」


 キャルの指示がとび、やぐらに近づいてきた騎馬が倒れていく。これぐらいの事は、打ち合わせなしでも出来るほど俺がいない間も訓練していたのだろう、キャルが余裕で手を振っている様子からもそれがよくわかる。土壇場の援軍に、すこし胸が熱くなる。


「左、本命。」


 目を向けると、確かに今右から来ている軽騎兵と違い、馬も人も一回り大きい。全身鎧を身にまとい、馬も人も目しか空いていない、止まっていれば数発に一回ぐらいは当たるかもしれないが、動く的にそんな芸当はできない。通常の矢でも多めに魔力を注いでやれば、少しふらつく程度のダメージは通り、次の一撃があたれば、鎧を貫く事も可能だ。それも相手が対策していない場合のみ、矢が当たったら最前列を入れ替えられてしまえば、鈍足な重騎兵でも人よりは早いので、あっさり到達されてしまう。

 大隊長が無言で竜撃を渡し、やぐらを降りていく。キャルが撤収と声をかけると、弓隊が一斉に撤収と叫び自軍に戻っていく。威力の増した竜激だが、複数回の実験により、目に見える黒い霧は、その外に居ても影響がでる事が判明している。新しい矢が出来たので、いつものように大隊長と試し打ちをしたのだが、白制服数人を重症に追い込み、大隊長の意識が戻るのに半日かかるほど危険な兵器と判明、以後30m以内に人がいるときは使用禁止となった。破壊力については、運悪く近場で捕まった盗賊に、巨大な金属製の盾とフルプレート装備で竜激を受けてもらい、数十メートル吹き飛ばされたその遺体には、黒の毒と、無数の方向から殴打されたような跡がついており、鎧も盾も原形をとどめていなかった。

 竜撃を持ってみたが、実験で撃つときのように万全でないせいか、いつもより重く感じる。もう少し引き付けるまで、つがえるのはよそう。

 誰かの矢が、迫って来る重騎兵隊に当たり、あっさりと跳ね返る。やぐらの下をみると、エマが次の矢を準備しているが、弓を支える腕が震えている。


「エマ小隊長、撤退指示です。すぐに離れてください。」

「貴方を置いて、撤収なんてしません!」


 うれしいけど、そんな事言う人ではなかったでしょう。見上げる目線は、今まで見たことのないほど、力がこもっている。


「エマ……。」

「階級が逆転したぐらいで、女が抱けなくなるようなヘタレの指示なんかきけるか!」

「おまえ、こんな時になに言ってんだよ、そんな話がしたいなら、いくらでもつきあってやるから、いまは逃げろ! お前がいたら、これが使えないんだよ!」

「それが、矢なんですか。」

「そうだ! あの重騎兵をこれ一本で蹴散らせる。巻き込まれたく無かったら、さっさと引き上げろ!」

「嘘だったら、承知しませんからね!」


 不満そうに、走り出すエマの後ろ姿を見送る。これから起こる事を見て、一緒に酒飲みながら話ができるとも思えない。

 エマが十分に離れたと確認できた時には、重騎兵達は目前に迫っていた、実験で分かったことだが、これを使うときに前方に金属があると跳ね返って来るらしく俺も巻き込まれる。この人数では相打ちと言うには差がありすぎるだろう。

 全てくれてやる、矢に魔力を送るのもだいぶ慣れてきたが、やはり仲間の為なんて英雄じみた願望があると調整がうまくいかない、鎧の間から目が見えるほど近い。矢を離すと、大波にのまれたように上下がわからないほどもみくちゃにされたあと、ふわっと滞空時間を感じる、数秒後地面を数回転がって止まる、全身が痛くてまぶたも少ししか上がらない。やはり、これぐらいでは死なないか、だれか走ってくる、なにか話かけているようだが聞こえない、肩を揺らしているところから、どうやら味方のようだ。

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