傭兵村10
カルとルグラートを副官に配置して、傭兵村は一つの大きな組織となり、それに伴って古参のメンバーが村を離れるなど人の入れ替えもあった。俺のやり方は、厳しかったり緩すぎたりするらしい、みんなが納得できる組織など夢物語とあきらめた。それでも盗賊への攻勢にでれるほど、戦力は充実した。
今迄壊すだけだった盗賊の簡易砦を奪い、こちらのメンバーを配置して、お客様が通る裏街道を警備し、街灯を設置、野営地にはギリギリ城と呼べるほどの堀や壁を作り、大量の顧客をさばいていく。
これが続けば、幾らでも金が入ってくるのだが、戦争が終われば大人数の傭兵を確保しておくことは出来ない、なにより俺が力を持っているとここに攻め込む口実を作ってしまう。
そんな諸々の理由から山城を攻略するには、今しかない。それは盗賊達も気が付いているようで、こちらの砦を潰しにくるなど、日々双方の被害は拡大する。
盗賊は村に侵入して、火を付けてまわり数軒失いながらも、犯人は仕留めた。仕返しとばかりに、山ごと焼いてしまう。環境保護団体様に間違いなく怒られるだろうが、しかたない。林が消えれば、弓で削っていけいばいいと思ったのだが、甘かった。やつら城からでるときは、煙幕を焚いて、騎馬を先頭に突っ込んでくる、距離を詰められて、倒せても一人程度、高低差のある突撃でこちらの方が被害が大きい。
そんな小競り合いが毎日のように続いていたある日、焦ったのか部下の抑えがきかなくなったのか、国境の両側で盗賊の被害が頻発、カルが双方から軍を引っ張ってくる事に成功する。とは言っても、どちらかが山城を抑えてしまうと、国境線が変ってしまう為、傭兵村の防衛と街道への駐屯のみ、守りを気にしなければ、全て攻撃に振り分けられる。戦争中で値の張る傭兵をさらに集め山城を攻略にとりかかる。
本来であれば、逃げ道を作ってお互いの被害を減らす所だが、食料や娘を奪われた近隣の村々から続々と人が集まり、包囲網にはスキが無い。
「ヒロ、頼むぞ。」
ルグラートにうながされて、馬を進める。集まった傭兵は千二百、槍を持った村人は二千を超えてさらに増加中。こんな大人数の前で演説、なんとか回避したかったのだが、両副官の脅しに負け、真っ黒な鎧を付けて、慣れない馬に乗っている。
「俺が、こんな所で皆に話をするのは、筋違いだと笑うだろう。だが、今日戦うのは、俺の為にじゃない、死んでいった仲間の為、さらわれ、あの場所で殺された娘達の為だ! もう、二度とあんな小城に悩まされる日々は来ない! 今日! 必ず終わらせろ! 全軍、突撃!!!!」
カルが書いた台詞を、必死で暗記して……無理だったので、だいぶ削ってもらい、こんな演説になったのだが、凄い勢いでみんな山を登っていく。いや、これはちょっと、癖になりそうな気持よさだ。校長先生や、会社のエロい人達が演説したがるのも、すこし分かる気がする、ほとんど寝るけど。
「ヒロ、その薄ら笑いやめて。」
鎧を着たカルが、冷たい目で俺を見ている。
「あれで良かったのか?」
「ギリギリ、本当の戦争じゃダメ。」
「戦場なんて行かないから。それで、土壇場の変更はなし?」
「すこしだけ、ルグラートが騎馬20で煙幕まいて、歩兵が門まで着いたら内通者が中から開門、火をつけ、あとは力押し。」
「ほんとに、五百程度なのか? 自分で言っといてなんだが、小城ではないよな。」
「それは大丈夫、誤差50ってとこ。向こうは増援が来ないってのが、心理的にもかせになるし、こっちは、続々増える、内通者が向こうにばれても、時間の問題でしょ。」
「余裕だな。」
「城攻めなんて、始まった時点で守る側の負け。それなりに準備して、確信もって攻めにいくんだから、救援に挟み撃ちにされない限り、決まりでしょ。」
俺の仕事は、逃げて来た盗賊の捕縛と、救護班の護衛。乱戦となる城内では、弓しか使えない俺は、邪魔なだけだ。丸太やら岩などの落下がひと段落して、救護班も前進する。運び込まれる負傷者を、宿のスタッフが対応していく、レッドテイルにいた頃を思い出す。
担ぎ込まれたその女の子は、頭から派手に血を流していて、俺も手伝う。少しだけヒナに似たこの子は、団が壊滅した後、俺が助けた数少ない子の一人、教会に預けたのだが、俺の噂を聞いて傭兵村までやってきた。戦力と呼ぶにはかなり頼りないが、人一倍訓練をするし、なにより笑顔で周りの男達の戦闘力を数倍にアップさせるスキルを持っている、明るいドジっ子はあなどりがたい。毎度のように怪我をしてもどってくるが、今日のは珍しく重症だ。
「ヒロ様、すいません、お手を煩わせて。」
「いや、大丈夫だから、まだ寝とけ。」
気が付いて、起き上がろうする彼女の肩を抑える。
「俺が接近戦の事を言えたもんじゃないけど、防御重視で頼むよ、木刀じゃないんだから。」
「すいません、いつもみんなに言われるんですけど、今日は気が焦って。」
「確かに、最後だからな。」
「今日結果をだせないと、その、契約を打ち切られると、みんな噂してましたが、ほんとなんでしょうか?」
「そろそろでかい戦争も終わるみたいだし、仕事も減るだろから。高い傭兵を何人も抑えておけないからな。」
「私は、ご飯食べれればいいので、なんとか、宿のスタッフでも雇っていただけませんか?」
「宿の方は、今でも多すぎるからな。」
「……やっぱり、活躍しないと、ここには居られないですよね。あの、部屋にも呼んでいただくスタッフでもいいのですが?」
「それは、誰から聞いた?」
「カルさんから、いっしょに頑張ろうって。」
「あいつは。一人ぐらいはなんとかなるから、今日は心配せずに寝とけ。」
用意した荷馬車で、彼女含め重傷者を町へ送る。カルに大丈夫だと言われても、この待ち時間は今でも辛く長く感じる、こちらも死人なしとはいかないのだから。
早朝から始まった戦いは、昼過ぎにはほぼ決着、盗賊側の捕虜は一人もいなかった。予想はしていたが、怒れる農民には誰の声も届かない。
地下牢に降りると、血と鉄のよどんだ独特の匂い、過去の記憶ももれなく付いてくる。女達の死体は、まだ鎖につながれたまま、助けを待っているように思えた。カルに言ったように、逃げないと選択したのはお前達だなんて、ここでは言えない。俺は盗賊を見つければ殺して来た、やったことのつけは、必ずかえってくる、やつらは交渉には応じなかった。ここを残しておけば、さらに犠牲が増える、そう言い訳して彼女達を見捨てた。これが、俺がやりたかった事なんだろうか、レッドテイルの、仲間の敵討ちがしたかっただけなのか、彼女達ならどんな決断をしたのだろう、もう自分の欲望と混ざってよくわからない。とりあえず、この世界に神はいないようだ、彼女達を殺し、俺を生かす世の中は、神を語る人間と悪魔しかいないのだろう。
カルは、しゃがんで床に転がった手枷を手にとる。
「……いつか一緒に逃げようって、先に逃げた人が、助けを呼んでくるって、約束して……。」
「俺が決めた事、俺の責任だ、お前がもっていかなくていい。……カル、ここでいいなら抱いてやろうか?」
「他に、慰める言葉思いつかないわけ?」
「ゲスだからな、戻るぞ。」
「はいはい、ご主人様。」
「やめろ!」
「アハハ。」
「ここで笑うか?」
「ゲスの相棒ですから、慣れないとね。」
地下牢への入口にカギをかけ、俺達は騒ぐ仲間の輪に入っていった。




