傭兵村8
いまだに、魔力採取の激痛には慣れない、くわえた木の枝がなければ、大声で泣き叫んでしまいそうになる。翌日に控えた、3回目の解除に向けて、ドクターに魔力採取してもらう。当初は毎月の予定だったのだが、色々な思惑で軍隊が国境封鎖したりして、商人の出入りが止まり、水晶はじめ物資が揃わなかったりして最初の解除から半年が経過してしまっていた。
「しかし、お前さんの魔力は底なしじゃの、それになかなかしぶとい精神力じゃ、あれだな、痛みを快感に変化させるスキル的なやつをもっとるのかもしれんな。」
「ただの変態じゃないですか、正直けっこう辛いです、前回は歩けるようになるまで、二日かかりましたからね。そうだドクター、夢者って不死なんですか?」
「そんなわけなかろう、もしそうなら夢者だらけになっとるわい。なんじゃ、不死の研究でも始めるのか。」
「いやドクターほど研究好きではないですから。以前、心臓を貫かれたんですが、生き延びたことがあって。」
「ほほ、ここか、すこしだけそれておるな、数回切られた後にきっちり貫けば、お前さんでも死ぬ、心配するな。」
「いや、心配はしてないです。……ドクター、俺って夢者でも、変なほうなんですか?」
「痛みを快楽に変えれるなら、立派な変態と呼べなくもないじゃろ。」
「そこはいいです。以前に夢者はかなりしぶといと、俺はさらに頑丈なのかと。」
「確かに、夢者は死ににくい、普通の人間なら致命傷でも、生き延びた事例は多数ある、その原因は、夢者が蓄積できる魔力の量じゃな。本人の魔力が尽きてバランスが崩れないかぎり、死にはせんからの。元々、魔力を鍛えた人間並みの蓄積量があるから、簡単には死なんのじゃ。」
「魔力を鍛えるって、どうやるんですか?」
「簡単に言えば、使えばいいのじゃよ。剣に魔力を込めたり、拳にのせたりと、体をめぐる魔力を少しづつ増やしていけば、蓄積量も増える、筋肉とさほど変わらんな。お前さんだってそうじゃろ、元々夢者で底上げされとるのに、かなり鍛えておるじゃろ。」
「いやそんなには、弓は撃ってますが。」
「そうか黒の魔力で弓を使うか、そうじゃな。弓使いは、魔力を限界近くまで使うからな、無理して亡くなるやつも少なくないと聞く。蓄積量に関しては、その増加量はかなりのもんじゃろ、すべて文献で読んだだけで、実際に数値をとったわけじゃないがの、お前さんの値をみれば、証明されたようなもんじゃの。次にそなえて余計に採っておくか?」
「いいえ、これ以上やると、カルにばれますから。」
「隠しておるのか?」
「自分の為に人が痛みに耐えるのは、気持ちのいいもんじゃないでしょう。」
「快楽じゃないのか?」
「……だから、ちがいますって。」
「蓄積量の話にもどるが、ほぼ空まで行って回復を繰り返せば、かなり増える。」
「それは、解除の時みたいに?」
「他でやるやつはおるまい、風呂に香油を垂らすように、瀕死からの回復に魔法薬は使えんからな。」
「確かに、金がかかりすぎか。」
「あの子のように、もともと鍛えておれば、最後の解除がなった頃には、かなりの蓄積量になるじゃろ、それでも弓使いのお前さんのように、なにか利点があるわじゃないがの、あえて上げるなら、急所をつかれても、耐えられるのが2回から、3回になる程度じゃな。それも、おおよそじゃからな、過信は禁物じゃ。」
外にでると、徹夜明けのように目の奥が傷む、正確にはどこが痛いのかわからないほど全身が痛い。酒を服にかけて酔っ払い完成。前回よりかはましだが、なにか別の言い訳を考えないと、するどいカルにはばれそうな気がする、有能なのはたすかるのだが騙すのは大変だ。
カルが本気になったおかげで、傭兵村でのチームランクが上がっていく。実際の順位が発表されるわけではないのだが、カルが新人から手練れまで声をかけ、スカウトしまくったおかげで、現在2位。普通なら話かけない偏屈親父までカルが篭絡していく。子供の頃から海千山千の貴族達を使ってきた彼には、さほど難しい事ではないのかもしれない。おかげで、金の心配はなくなったのだが、傭兵達は完全に2つに分かれてしまった、目立った衝突はないのだが一度で内戦になるのは目に見えている。酒場の親父の提案で、貴族の荷馬車護衛に半分づつ護衛を出すことになった、つまり旅の間に代表同士で親睦を深めろって事だ。
しかし、代表のケラトーニがかなりの曲者で、とにかく女関係が派手だ。もちろん俺も人の事を言えたもんじゃないが、こいつは護衛対象の客にも手を出すらしい。そして、剣の腕前は傭兵村では文句なしの一番手、面と向かって彼に逆らえる奴はいない。
払いのいいお客に、両チーム共に精鋭と人数を出した為、盗賊達は姿も見せず贅沢に見張りの馬を走らせるので魔物の心配もない、楽な仕事と最初は油断していた。
貴族様は、本来であれば直接傭兵には話などしない、私兵に伝言を頼むのだがカルの事が気にいったのか、中学生ぐらいだろうか貴族の娘が移動中に俺らの馬車にやってくる。
カルと話をしている内容が、さっぱりわからん。料理や、物語などの話をしているのは分かるし、二人がたまに話を振ってくれるのだが、空返事が精一杯だ。カルに読み書きを習っているのだが、この世界の文字はとにかく読みにくい、たとえるなら英語の筆記体の文字を、5から10文字ほど同じマスに重ねて書いてあるイメージ、魔力を込めて書くとこのほうが書きやすいらしい、読みやすいように書けよ、といつも思う。練習用の子供向け絵本ですらまだ読めない俺には、この世界の歴史の話は難易度が高すぎる。
野営場所に馬車が止まり、お嬢様が貴族様の馬車に向かって戻っていくと、ケラトーニがその腕を掴む。さすがに、客に手を出す云々の前にまだ子供だろう。剣を持って立ち上がろうとすると、カルが腕をつかむ。
「ヒロ様、ここでのトラブルはまずい、奴も分かっててこっちを挑発してる。」
「……カル、それは分かるけどさ、腐ってもレッドテイルだからな、ちょっと無理。みんな集めて。」
「ケラの兄さん、流石に貴族様の娘はまずいんじゃないですかね。」
「ヒロ、親父さんに言われたのは、お互い仲良くだ、客は入ってない。」
「もう少し平和的にいきませんかね。あんまり強引だと、盗賊達と変わらないじゃないですか。」
「盗賊扱いして、俺も狩るか? 強引って事は無いだろう、傭兵の馬車で愛想振りまいてんだ、男が欲しいっていうなら、相手してやろうってだけだ。」
「すべての女が自分に惚れるって思えるそのスタンスは、本気で尊敬しますけど。その子、俺も気にいったので、譲ってもらえませんかね?」
「偉くなったな、俺に意見するとは、ここでチーム戦でもやるか、それとも決闘か?」
「倒せるんですかね、俺は意外としぶといですよ?」
大人げない、こんな世界でも、もうすこし話の持って行き方があったと思う。ケラトーニも剣の腕が立つとはいえ、俺との決闘は避けたいはずだ。酒場で暴れた客が剣を抜き、止めに入った俺が切られた事があった、痛みで思わず魔力を込めて顔を殴り、即死させた。この話は、傭兵村のほとんどの人間が知っている、剣は苦手だが、拳が当たれば即死、距離をとられれば矢が飛んでくる。敵に回せば、めんどくさい相手なのだが、実際は手練れに素手の拳が届くはずもなく、決闘での勝算はほぼ無い。
すでに両チームとも勢ぞろい、客はもちろんの事、盗賊達にも見られるわけにはいかない状況で、早くなんとかしなければいけないのだが。女に無茶する奴に厳しいのは、チームのみんなが知っている。それは、酒場の用心棒なんて肩書を超えていて、客でも容赦なく、ボロ宿には男から逃げてきた女の子も働いている。やっぱりその子はいいや、などとは今更引き下がるわけはもいかない。
しばらく、睨みあいが続いたが、向こう側の副官ルグラートがなにかケラに耳打ちすると。貴族の娘を俺に突き出す。
「ほらよ、可愛がってもらえ。もし、物足りないなら、明日の夜は俺の所へこい、俺はうなじの見える髪形が好みだ。」
ほんと、ちょっとだけだが、あの自信ある態度は尊敬する。俺も言ってみたいとか、ちょと思ってしまう。
「行かないんですか?」
突然の質問の意味に混乱する、野営テントで酒飲んだ後で、カルは俺にどこに行けと。
「なに?」
「いや、さっき助けた子のところ。」
「なんでそうなる、お前と話したかっただけだろ。」
「どこ見てたんですか、ずっとヒロ様を見てたじゃないですか。」
「そうなの? そうだったとしても、まだ子供だろ。」
「一度結婚して、今は一人みたいでしたけど。」
「それって、どこ見てわかるわけ?」
「まぁ、色々ですね、一つで分かるわけじゃないです。」
「そうなんだ、読み書き以上に俺には難しいよ。」
「それで、行かないんですか?」
「行かないよ、そんな簡単に貴族の娘なんか手をだせるか。」
「ララ様は?」
「あれは、仕方なく。」
「弓で脅して無理やりが、仕方なく?」
「そんな事してないだろう。身分差の話はどうなったんだよ。」
「愛人とかは、身分差関係ないですから女側が初めてでなければ、そこまで気にしなくてもいいのでは?」
「軽いな、てかお前ララに話しすぎだろ、めちゃくちゃ怒ってたぞ。」
「新人の双剣使いの子ですか、ララ様には全て話すと約束してヒロ様との関係を取り持ってもらいましたから。」
「知ってはいたけど、全部話さなくてもいいだろ。」
「ヒロ様、そろそろ行かないと。」
「なぜそんなに行かせたがる?」
「チームの名誉がかかってますので。」
「なにそれ?」
「あの場をおさめる為に、ルグラートさんが『女を満足させられるのが本物の男、先手は譲ってやりましょう。』と。」
「……ほんと耳いいな。ケラ、かなりアホだな……。しかし、なんなんだよその勝負は、俺は自信ないぞ。」
「知ってます、ヒロ様の部屋を出た女が、舌打ちしてましたし。」
「……いっそ、殺してくれ……。代わりにりに行ってきてくれよ。」
「それは無理ですね、それに……もう来ます。」
「はい?」
お邪魔しますと、噂していたお嬢様が、高そうな酒瓶を抱えて現れる。さらっと、逃げようとするカルを確保。
待っていても、来ないので来てみましたと、明るく答える。昼よりか、だいぶ大人っぽい、カルがいなかったら、いやいや、これ以上厄介事を増やすのはやめよう。
事情を説明し、傭兵村の争いに巻き込んだ事を詫びると、付け入る隙があったとのだと、許してくれた。そして、毎夜俺のテントに通えば解決ですねと、笑顔で押し切られる。毎夜やってくる彼女に、傭兵の仕事や狩りの話、レッドテイルでの話などしてすごした。町について護衛も終わり、別れ際に『俺のファンは他にもいる』と耳元でささやいた。一瞬でもモテるのかも? とか思った自分がはずかしい。
「ヒロ様、なにもしないとか、チームの名誉は地に落ちましたね。」
「カル、耳がいいからって盗み聞きか、全部聞いてんじゃねーよ。」
「お客様へのサービスも、傭兵の仕事ですよ。」
「だったら、お前がいけよ。」
「チーム名、黒弓ですよ、誰のチームか分かってます?」
「俺が付けたんじゃねーし、サービスならみんなでやればいいだろ?」
「確かに、ヒロ様がしてたら、こちらの敗北が濃厚でしたからね。」
「ほんともう、消えてしまいたい……。それで、あっちのチームはどう?」
「どうでしょう。特に動きはありませんね、いつもみたいにヒロ様をどうやって殺そうか相談してました。」
「まぁ、最近は俺でも聞こえるからいいけど。夜道は一人で歩けないな。」
「だったら、もう少し真面目に剣の練習してください。いつまでたってもケラさんの首はねれませんよ。」
「ぐろいな、そんなスポコンマンガじゃあるまいし、修行して勝てるとかないだろう。それに、なんか暗殺しちまおうってほど悪者じゃないんだよな。」
「確かに、殺しの数ならヒロ様のが数倍ありますしね。」
「……そ、そうだね。」
「逃げたり、降伏する盗賊にも容赦ないですし。」
「なぜ、俺の裁判みたいになる。」
「いえ、褒めてるだけですよ。」
「どこがだよ。とりあえず、こっちのメンバーが手を出さないように押さえといて。」
「わかりました。では、ファンの対応は、きっちりお願いします。」
単純にファンレターだけなら嬉しいんだが。取り込んで危ない仕事させられるの見えてるし、ファンは怖いからいらない。




