傭兵村7
屋敷について、しばらくするララが嬉しそうにやってくる、カルが出て行こうとするので呼び止め、ララに3人だけでと言うと、メイド達がでていく。
「ヒロ、会いに来てくれたのは、ありがたいんだけど、いきなり3人でって言うのは……。」
「ララ、違うから。」
俺の口調の変化におどろいて、ララとカルの表情が硬くなる。
「いや、別に悪いニュースじゃないから。実は狩りの途中に、俺がカルの腹を撃ち抜いて……。」
「なにしてんのよ!」
テーブルの向こうにいたはずのララが、飛び掛かってきて俺の首をしめる。カルが、この通り無事ですからと必死に説得してやっと手を離す。
「悪かったと思ってるよ、それについては、カルに何度も謝ったから。」
「ご主事様が謝るような事はなにも、盾となってお守りしなければならないのに、狼達に囲まれた中、私などを抱えて教会まで運んでくださり、本当に感謝しております。」
「カル、実はな教会に着いた時には、ほとんど呼吸が止まっていた……。」
テーブルに座っていたララの拳が、ありえないほどわき腹に食い込み、ソファーから崩れ落ちる。
「ララ、話が進まないから、全部聞いてからにしてくれるかな?」
「努力する。」
「神父のすすめもあって、村はずれの洋館に連れて行った。」
「ヒロ! カルちゃんを、怪しげところに!」
「最後まで、聞いて!」
「わかった。」
「それが、理解した顔か。とりえず、名医で報酬が高額としか知らなかったが、ドクターと呼ばれる彼に頼むしかなった。ケガの方はあっさりと安定させて、彼が言うには7カンを一か月周期で、解除できるというので……頼んだ。」
「ヒロ何言って、そんな事できるわけ。」
「俺だって、手放しで信じたわけじゃない。神父に聞いたら、7カンは解除すると、横に走る7本の黄色い線が一本減り、解除後は残りの線が太くなり、一年かけて細くなると。カルの首輪は、線が一本減って、残りの線も太くなっていない。」
「本当だ、私も解除に立ち会ったのは一回だけだけど、解除後は太くなるというか、すこし光ってた。」
「正確にわかるのは、来月の二つ目の解除が成功してからだが、カルの解除は間に合うと思う。」
ララはカルに抱き着いて、ボロボロと泣き出し、カルは、人形の様に抱き着かれるままにゆらゆらと揺れて、すこし口を開けたまま、固まっている。
「ご主人様、私なんかの為に、解除には……大金が必要なはず。」
「そっちにいくか……。なんか王位回復みたいの無いのか?」
「カルちゃん、私の娘にしてあげる。」
「男の娘か? お前結婚もしてないだろう。」
「ヒロが出世して、結婚してくれればいいじゃない!」
「賞金首が、領主の娘と釣り合うまで出世するとか、無いだろう。」
「確かに、身分差を超えた恋とか物語だけだからね。カルちゃんは、どうしたい?」
「私は、今のまま、ご主人様のお手伝いが出来れば。」
「だって、ご主人様はどうする?」
「寿命がのびるなら、ご主人様は辞めてほしいかな。」
「では、ヒロ殿とお呼びしても?」
「殿ってほど、偉くないから。」
「では、ヒロ様で。」
「ヒロ、私のカルちゃんといちゃついてるとこ悪いんだけど、しばらくあの村から出ないでほしいんだよね。」
「なんで? 国境超えれるようにしてくれたんじゃ、無かったっけ?」
「そうなんだけど、国内の方でも傭兵村まで軍で突っ込もうしてるやつがいて、どうやら国境の向こうにもそれに協力して、国境書き換えようとしてるって情報まであってね。今かなりピリピリしてるんだよね、お父さんが走り回ってるから、落ち着くとは思うんだけど、しばらくは大人しくしててほしいかなぁ。」
「なんか、軽いな。」
「こんな事って、結構あるんだよ。だけど脅しだと思って、油断してたら国が亡んだりって……カルちゃん、ごめん。」
「いえ、大丈夫です、私の国は、滅ぼす側でしたから。」
「……そ、そうだね。とりあえず、村から出ないで。」
「お金いるんだけどな。」
「今まで、仕事まわしたよね。」
「えっと、新しい弓とか、宿の修理とか、色々とお金かかるんだよ。」
カルに見えないように、首を指さす。
「そっか、狩りに行くぐらいならいいけど、越境の護衛とか、近隣への魔物討伐とかはやめてね。落ち着いたら、仕事まわすから。」
「助かるよ。」
町にいくとなると、化粧品やら、意味不明な小物など、店の女達に頼まれる。なに買って帰ってもセンス悪いと言われるのだが、むだに悩んでしまう。そんなヘタレなご主人さまをよそに、カルは鏡に自分を映してご満悦だ。
「カル、ほんとに男の娘をめざすのか?」
「あの、ヒロ様、実は私ではその意味を把握しかねるというか、理解出来ていないように思えるのですが。」
「あぁ、そうか、俺の夢の中の世界では美少年が少女の格好をしたり、その逆だったりという文化があるのだがそれの事だ。ララに娘にしてやると言われて、女の子の格好をしたくなったのかと、そういう事だ。」
「そんな事は、すいません、ちょっとキレイだなと。」
そう言って、髪飾りを棚にもどす。こっちの世界では、女性のアクセサリーは髪飾りが主流なようだ、どこに行ってもその地方でとれる宝石や、小ぶりの水晶などをあしらった物が売っている。店に入るとカルは手にとり、自分の髪にとめだすので、質問しただけなのだが、えらい慌てよう。美少年だと、自分につけて女が付けている所を想い描いたりするのだろうか、俺もそんな顔に生まれたかった!
店をでて、次の店まで歩いていると。
「ヒロ様、私は女の子の格好していたほうが、いいでしょうか?」
「どうだろうな、違和感はあるだろうな。」
とっさに誤魔化す、目覚めたらどうする、今ちょっとドキッとしてしまったじゃないか、すでに目覚めかけているのかもしれない。
「カル、好きな女とか、いないのか?」
相手が金持ちなら、俺は紹介料もらえて幸せだし、スタッフなら手抜きのアプローチが減って、すこし楽だ。なにより、彼の罪悪感を少しでも、やわらげてくれる相手がいてくれたら、それでいいのだが。
「もし酒場の女なら、一晩ぐらい払ってやっても……。」
「ヒロ様、そういった事は。」
そうだな、悪ふざけがすぎた、カルは今まで見た事のないぐらい、暗い表情と声に変わる。寿命が延びた祝いに、女を買ってやるなどとは、俺のゲスっぷりもかなり板についてきた。
「悪い、調子にのりすぎた。」
「いえ、お気遣いいただいたのに、申し訳ございません。」
「そう、思うならなら、もう少しぐらいその固い言葉使いどうにかならないかな、店のスタッフと話してるときは、普通に話してるよな。」
「それは、お仕えする相手ですから。」
「それも、あと半年ちょっとだろ、普通は奴隷って解放されたら、どうする?」
「7カン解放はまれですが、影響力があれば遠縁と結婚させて親族に取り込む、とかでしょうか。」
「そうか、普通の奴隷は?」
「それは……この世界では、無いです……。」
「それじゃ奴隷の反乱とかおきるるんじゃないのか?」
「奴隷を持つのは、権力や武力を持つ者ですから、力では人数が勝っていても対抗できません。首輪がありますから、鉱山からにげだしても、二日で権力者に逆らう勇気ある聖職者に会える確率はほぼありません。」
「死ぬまで奴隷か。」
「身寄りのない者には、それでも日々の食事にありつけるだけでも幸せだと。」
「それは、奴隷を使ってる側の、都合のいい解釈に聞こえるな。」
「その通りです、ヒロ様。私も、奴隷を使っていた側の人間でしたから、奴隷を人とは……考えていませんでした。」
それがこの世界の常識だとしても、あまりにも残酷だ。奴隷達もそうだが、そんな待遇で働かせたと気付いてしまったこの子にも、重い罪の意識が肩に乗ったままなのだろう。
町をでてしばらくしてから、
「奴隷になってから、何があった。」
カルは、驚いた顔をして俺を見上げる。俺にしてみれば、よく聞けたと思う、いつもなら避けて通るところだが、知っておかないと、カルはずっと俺の奴隷のままだ。
「ヒロ様、貴族や豪商と呼ばれる人の中には、少年を愛でる方もすくなからずいて、本来であれば処刑されるはずだった私は、戦後の復興費をまかなう為に、奴隷として売られました。しかし、飽きられると売られての繰り返しで、ある日奴隷商の荷馬車が襲われ、奉仕の相手が盗賊に変わったのです。ですから、ヒロ様が望むらな、その、夜の奉仕を望まれるのであれば……。」
「んなわけないだろ! 女に困ってないから、そんな事言うとスタッフ達の夜の対応押し付けるぞ。」
「それをお望みなら。」
「いや、冗談だって。あのさ、山城に俺一人で特攻かけた時もそうだし、狩りや討伐の時だって、カルが気づいてなきゃ、俺数回死んでるだろ。俺達の関係は、相棒や友達に近い雇い主とスタッフだ。今も、首輪がとれたあとも変わらない。辞めたくなったら、辞めていいし、やりたい事があるなら、出来る限り手伝う。あのボロ宿を出て行く事になったら、元相棒や元雇い主に変わって、友達はそのまま。それが、俺の認識で、俺のなかの常識。」
「わかりました。」
「ん!」
「わかった。」
「それでいい。カル、そういえば、なんか背伸びた?」
「7カンを付けると、成長が止まると聞きます……聞くので、解除した分、伸びたのかと。」
「そっか、半年で7歳成長、それで最近よく食べるのか。いいな、なんかどんな風に成長するのか、楽しみだよ。それでだれが好きなんだ?」
「いませんから!」
そういって、照れながら笑うカルは、やっぱり美少年で絵になる。とりあえずあと半年は、サオリの居ない世界でも、俺は生きていけるかもしれない。




