傭兵村6
カルに、サオリの姉に向けて手紙を書いてもらう。亡くなった主の遺言で、世話になったサオリの家族へ遺産を送ると。ララも使っている、信用できる配達員にまとまった金と手紙を託した。
毎日狩りに出て、宿屋のおやじにこれ以上は肉の価格が崩壊すると言われ。深夜に一人、宿をでて山城を目指した。警戒していた盗賊に見つかり、山の中を散々追い回される。カルはじめ黒弓メンバー総出の救出でなんとか助かったが、新人一人が命を落とした。
その後は、週に一回の狩りと、荷馬車の護衛を無難にこなし、努めて元の生活を送った。
その日は、小型の狼の群れを追跡していて、見通しの悪い場所へ向かっていた、深追いして苦手な接近戦となった。カルは作ってやった剣で奮戦してくれたが、俺をかばって飛び出し、矢がわき腹を貫いた。全て投げ出し、カルを抱えて走り、川に飛び込みなんとか狼達をまいたが。村の教会に担ぎ込んだ時には、呼吸も止まりそうなほどだった、神父は自分ではどうしようも出来ない、ドクターに頼むしかないと言ってきた。村はずれにある、怪しげな洋館にドクターと呼ばれる高額だが重傷者でも救う医者がいると、噂では聞いていた。カルを抱えて、洋館のドアを叩く、深夜にもかかわらず出て来たドクターは、以外にも小奇麗な40代と思われる紳士だった。
奥の部屋に入ると、棺桶のような箱にカルを寝かせるように指示される。部屋の中には、見た事もない怪しげな装置と、大量の水晶が並んでいる。色のまだついた水晶は、俺でもその価値がわかるほど高額な物だ、これで魔法薬を作っているのなら、カルを助けられるのかもしれない。
カルと俺の血を採って、色々と検査をしていく、箱に少し水を張り、その水に少しずつ魔法薬だろうか、複数の色のついたオイルを落としていく。
「とりあえず、安定したぞ。」
「助かりました。」
「それで、どうする? 今この子はほとんど魔力が抜けた状態じゃが、首輪の解除もするか?」
「それは……もう残り3年と、今更助けられません。」
「ワシなら、間に合うぞ。」
「本当ですか?」
「あぁ、一か月で次の解除を行える。腕がいいからなな、魔力を抜くときに命を落としたりせんよ。」
「ありがたい、是非お願いします。」
「それと、後から言うのは卑怯かとは思うのじゃが。ワシのやり方は、教会よりも大量の魔法薬を使うのでな、当然多種大量の水晶が必要じゃ、黒の水晶に関してはお前さんに協力してもらうとしても、他を用意するには大量の金がいるんじゃが、大丈夫か?」
提示された額は、かなり高額で今の全財産でもすこし足りない、それでも7カ月もあれば稼げそうだ。
「では、黒の水晶を作らせてもらおうか、お前さん夢者だろう、説明が必要か?」
「お願いしてもいいですか?」
「まぁ、かなり痛むからな。水晶は知ってるか?」
「はい、鉱山で採掘して高額で取引されるとか、魔力を持っているとか。」
「そうじゃ、魔力の方向については?」
「火と水、土と風、光の闇の六つがあり、それぞれ反発、ぐらいですかね。」
「まぁ、そんなとこじゃ。細かく言えば、魔物の闇と、あんたの黒、影とも言うが、これは別ものじゃ。」
「それは、知りませんでした。勉強になります。」
「大事なスポンサーだからな、きっちり頭にたたきこんでくれ。こっからは、さらに厄介になる、一般には知られていない話だ。まず、魔力は、本来生き物には、毒にしかならん。大昔に、この地に魔力が満ちていく過程で、ほぼ生物は消えた。それでも、中には魔力を取り込み、耐性を持つ者が現れる。現在、この地に生きる物達は、全滅を耐え抜いた者の子孫というわけじゃ。だから今のあの子のように、魔力が抜けた状態では、本来生き物は生きていけん。そこで、高価な魔法薬が必要になってくるんじゃが、人によって微妙に違う魔力にあわせて調合が必要で、それにはオイルに少し血を垂らして、水晶を入れておけば魔力がオイルに抜けていくのじゃが、水晶も方向性がばらばらで、綺麗に六つの方向のオイルと作るには、掛け合わせなどが必要で大量の水晶を消費する。ここまではいいか?」
「はい、なんとか。」
「水晶じゃが、魔力が完全に抜けたあとは、無色透明となる、王都などにある光の水晶の影響範囲内であれば、水晶は魔力が蓄積していくのじゃが、とんでもなく時間がかかる。魔物の目くらましに使う街灯ぐらいであれば、そんなに魔力をつかわんから足りるのだが、魔法薬となるとそうもいかん。禁忌とされているのじゃが、肌に傷を付けて、しばらく空の水晶を押し当ててやれば、水晶に魔力が移るのじゃ。」
「それじゃ、戦闘中に押し当てれば、魔力を奪える?」
「人や魔力の量によって、差があるが、15秒以上は押し当てないといかんから、拘束器具がないときびしいな。」
「それは、大人の捕虜が魔力に変えられるとかって話ですか。」
「そうじゃな、夢者以外では、魔力が多い人間はめずらしいから、大抵は一回目で魔力が底をついて、そのまま死ぬだろう。生き残っても、数日毎に同じ事の繰り返しだ、殺してくれと懇願するほどの激痛が続くからな、精神的にも崩壊する者がでるそうだ。」
「そこまでの激痛……。」
難しい話についていくのがやっとで、すこし気がそれている間に、両手足が皮のベルトで固定されている。ドクターは、黙々と作業を続けて、俺の手を固定し、手の甲に定規で十字を引く。なにやら、ハンドルを操作して、両手の甲に下りて来る箱の位置を微調整している。
「あの……この箱に、空の水晶を入れるわけですか?」
「そうじゃ、一回目だから、左右一本づつでいく、お前さんの魔力量なら、かなりいけそうだが、精神崩壊がどれくらいで起こるのかは、わからんからな。」
「あの、黒の魔力は、今日どうしても必要なのでしょうか?」
「必要じゃ、あの子は、お前さんほどではないが、黒にふれておる。手持ちの水晶では解除にも足りんのじゃ。黒にふれておるからこそ、7カン付きの少ない魔力でも即死を免れたんじゃろ。」
「えっと、痛み止めとか、麻酔とかは?」
「これには効かんよ、全身の魔力に影響するからな。」
「ほら、これを噛んでおけ。」
そう言うと、大きめの枝を俺の口に押し込む。
「お前さんの痛み分、必ず効果はある、心配するな。魔法薬は落とした指ですら繋ぐ効果があるんじゃ、ワシは腕はがいい心配するな。多分6本で足りると思うが、必要なら数本追加でいくから、がんばれ。」
抗議するにもうまくしゃべれない、安定したと言われたカルも、微動だにしない。後はドクターの言う痛みが、大げさである事を祈るだけだ。
4回目、合計8本の魔力採取が終わった頃には、ドクターが気を使って大げさに言う人では無いと、よくわかった。水晶が刺さり、15秒ほどすると、全身の皮膚が燃えるような熱さが襲い、その数秒後に全身くまなく激痛が走り、それが20秒ほど続く、正確には痛みで数も数えられない。
翌朝目が覚めると、ドクターは、カルの傍らでよくわからない装置にオイル入れて、なにやら確認している、プールの塩素濃度をチェックする装置のようだ。手足の拘束もはずれている。
「起きたか、この子は大丈夫じゃ、あとは毎朝包帯を変えて、一週間は安静にしておくことじゃ。」
「ありがとうございます。……魔法薬って、飲むのかと思ってました。」
「魔力は毒だといったじゃろ、かなり薄めても飲むもんじゃないぞ。この地の生物は、魔力で生かされとるんじゃ、生き物が死ぬ時は、魔力のバランスが崩れて戻せなくなった時だけじゃ。傷で命を落とすわけじゃない、血を失い、魔力を失って、バランスが崩れるのじゃよ。お前さんは、大丈夫なのか? 毎月、耐えられるのか?」
「他に方法があるなら、そうしたい所ですが。無いなら、耐えれないほどではないですね、この子を失う事に比べれば。」
「そうか、支払いは三日以内に頼むぞ、次会使う水晶の仕入れにも必要じゃからな。」
「わかりました。」
宿に戻ってからも、カルに解除が出来た事を、どう伝えればいいか分からずいた。3年と言われた寿命が延びたら、全て解除したら、カルはどうするのだろう。俺はカルと二人、正装をカバンに詰めて、ララに会う為に、領主の館へ向かった。




