傭兵村5
カルと村に戻り二ヵ月、以前の生活を取り戻しつつあった。カルがいるおかげで、狩りの効率は上がり、週に2日も仕事すると、倉庫があぶれてしまう、1日のみにしてララからの仕事をこなす。
ララの依頼は、近隣の村や町での魔物退治でかなりの稼ぎになる。ボロ宿の常連にも声をかけて、にわかチームで討伐を行う。ララのおかげで、元賞金首と呼ばれるようになってきたがそれもこの領内だけの話、俺の首を持って領地の境を超えれば大金が手に入る、護衛は対人様に必須だ。それに見分けのつかないデク兄弟は、無口で腕もたつ、手槍と大楯を得意としており魔物相手でも心強い。
狩りの時もそうだが、人の数倍はいいカルの耳は特に役に立つ。ひっそりと近づいてくる魔物には、誰よりも早く気づいて教えてくれる、おかげでいまだに怪我人もだしていない。そのせいか、最近では連れて行けと声をかけられる事も増えて、ボロ宿も人が増えた。少しずつなおしているが、ボロ宿とみなが呼ぶからには、あまり小奇麗にするのもおかしいので加減がむずかしい。
そして問題も増える、村の傭兵達は基本的には個人で活動し、護衛のたびに酒場のおやじさんが声をかけるのが基本だが、腕利きの下に集まるチームがいくつかある。常連の商人や貴族様は、顔見知りのチームに依頼する事もあり、新入りなどはチームに入らないと仕事が回ってこない。護衛はめったにでないので、関係なかったのだが、いつのまにか黒弓と呼ばれるようになり、ボロ宿にいる人間はみなチーム黒弓メンバーと認識されるようになっていた。魔物退治で名をきいたのか、指名してくる商人や貴族も増え、俺無しで護衛の仕事を受けているのだが、のれん代といってメンバーが払ってくれる額が、かなり大きい。稼ぎが大きいとなれば、当然他のチームからも目をつけられてしまい、酒場で飲んでいると目線が刺さる。
それと、予想していたことだが王子様ことカルの人気がすさまじく、一晩だけでも貸してくれと、酒場のおねーさんから、貴族まで、性別問わず依頼が舞い込む。薄命なカルにそんな事させられるわけもなく、毎度断るが、正直なところめんどくさい。
愛しのボロ宿も、どこからかモモの話を聞いたのか、雇ってくれと人が来るようになり、スタッフが増えていく。モモのつたない指示では、回らなくなり、カルが指示をだす。さすが本物の王子様、スタッフにも大人気だが、誰にも手を出さない為、オーナーでいいかと、妥協したお誘いを断るのが、本当にめんどくさい!
最近の唯一の安息は、週一の狩りに行く事ぐらい、仕事のはずなのに心がはずむ。
「ご主人様、なにか嬉しそうですね。」
「あぁ、狩りが楽しいんだよ。」
「そうですか、なにか心労の原因で私がお手伝いできる事があれば、いつでもおっしゃってください。」
それは、君だよ。なんて言えるわけもなく、ご主人様と呼ばれるのに慣れた自分が恐ろしい。
カルがそんな事を言うのはめずらしいが、すこし目つきが厳しい、目が合うと、後ろを見ろと目くばせする。
目線をそらして、後ろを見ると、誰かいるようだ。カルを見ると、人差し指を立てている。そして、ナイフをとりだして、小さな半円を描く。敵は一人で、周りこむということだろう。少しだけ普通に歩き、木の影に入ってすぐに、二手に分かれ矢をつがえてもどると、木の影から男が現れる。カルに回り込まれて、観念したようだ、剣を置いて、手を上げる。盗賊にしては、服が綺麗すぎる、剣も細く装飾が付いている。
「なにか用ですか?」
「たまたま、通りかかっただけで、特に用はないです。」
尾行がバレたら、これがお約束なのだろうか。
「そうですか、俺もたまたま、盗賊と間違えて射ってしまったということで。」
「いやいや、ほんとうに私は怪しいものでは、ありませんから。」
「……そんな事どうだっていいんだよ! 俺は今、めんどくさい事が多くて、ストレス溜まってるんだ、盗賊っぽいところがあって、始末できりゃそれで十分なんだよ! 大丈夫だって、魔力押さえて射ってあげるから、ながーい時間苦しめるようにさぁ、俺の矢が当たるとどうなるか、知ってるんだろう?」
「すいませんでした、ある人に頼まれて、ヒロ殿を調べておりました。」
「あっさりと、依頼人裏切る奴は、許せないよね、殺すべきだよな?」
「そ、それは、わかりますが、私、色々と調べものとか、得意ですから、生かしておいて損はないかと思います。どうか、命だけは。」
「命以外は、いらないの?」
「それは、まずは命が無い事にはという意味で、できれば五体満足でお仕えさせていただければ。」
「調べものねぇ。こんああっさりと尾行がバレる奴に頼む事なんて、ないから。」
「待って! とりあえず、今回の依頼人の事とかは、興味ないですか?」
「とくに。」
「美人さんでしたよ、報告といって、人気のないところに呼び出せば。」
「ゲスだな、やっぱり。」
「ほらほら、もしかしたら、その貴族の裏にさらに大きな何かあったりするかもですよ、一通り情報は集めておいたほうが、よくないですか?」
「うーん、まぁ、そうだな。」
「では、一週間ほどしたら、連絡差し上げますので。」
「おい、どうやって連絡するんだ。」
「それは、あの、ボロ宿に伺います。」
「もしかして、ずっと尾行してたのか?」
「一週間ほどです。」
「街中なら、簡単には見つからないのか。」
「まぁ、これで食べてるので。街道からそれた森の中とかでなければ。」
「しかし、簡単にしゃべるな。呼び出す振りして、俺が捕まるんじゃないのか?」
「そんな事はしませんよ、黒弓殿に嘘などつきません。」
「最近はそんなに隠してないけど、ここまで弓使いって知られるのは落ち着かないな。」
しかし、どうするか、やっぱりここで始末したほうが楽な気がしてきた。それに、なんかこいつ、いわゆるお洒落な側の人間な気がする、服や髪形や剣だって、暑苦しい派手さがない、いわゆる努力型のモテるやつだ。
「ご主人様、どうか冷静に。」
「カル……俺が本気で殺そうとすると、わかるのか?」
「……一度、この身で体験してますので……。」
「そうだな。意外と根に持つタイプか……。」
そして、俺に殺されそうだった探偵さんは、カルに泣きついて感謝している。
一週間後、ボロ宿の俺の部屋に、美人な貴族の女性が椅子にしばられ、目を潤ませている。
「……おい、へぼ探偵これは、ちょと違うんじゃないか?」
「いえそんな、お話をされたいとのことなので、では、私は一階で待機しております。」
すこし鍛冶屋に行って戻って来ると、客が部屋で待っているとの事だった。これはまずいだろ。貴族様を部屋に監禁とか、面倒な事になるのは簡単に予想がつく、今は分からない所を聞き出して、アドリブでいくしかない。えらく怯えている女の猿ぐつわをはずす、思ったより若い、17ぐらいか、手足の縄は、後にしよう。
「それで、なにか用ですか、お嬢様。」
「話したら、生きて帰していただけますか?」
「……そんな約束は出来ません、この宿から出るまで、どんな約束も、俺は反故にできますから。」
「お、お金なら……。」
「この村では、口約束なんて意味は無い。金で解決するなら、前払いが基本ですよお嬢様。もし今、金がないなら、口にしないほうがいい。」
「……全て、私の責任です、家の者には手出ししないと約束を、お願いいたします!」
なんだか重いな、なんだこれ俺のほうが悪者っぽいかんじだな、正義のヒーローではなけど。
「それも、貴方の話しだいじゃないでしょうか?」
「……ヒロ殿、貴方に暗殺の依頼を……。」
「仕事の依頼前に、俺の腕前を調査していたと?」
「いえ、ご自身の命を狙う者と、盗賊以外は手にかけないとお聞きしていましたので、なにか弱みがあればと。」
「それはまた、お若いのにえぐい手段をお考えで。それで、聞くだけ聞きますが、標的は?」
「戦争で兄を殺めた相手です、今はその功績で領主となっています。奴は卑怯な手で兄を罠にかけました、どうか兄の仇をとってください。」
めんどくさいリストその、いくつだったかも忘れたが、この手の依頼はたまにある。こっそり会ってほしいと言われて、美女に頼まれるのはこの手の話がおおい、毎回のように期待してしまう自分が猛烈にはずかしい。罪なき人間なんていないとは思うのだが、俺が殺した場合、矢が現場に残り、追われる身となる。こんなボロ宿でも帰る家がある今、金の為に無茶は出来ない、いつのまに色々な物に縛られて、動きにくくなっているのかもしれない。
「……領主なんて、殺すわけないだろ。そもそも、簡単にやれるわけない。」
「数キロ先の魔物の目も撃ち抜くとお聞きしました、なにとぞお願いします。」
「そんな遠距離、どんな噂信じてんだよ。」
「私が持てる全て差し出します。」
「貴族のお嬢様だろ、親のお小遣いで新たな逃亡先でも見つけてくれるのか?」
「両親は、もういません。最後に残った兄も……、婚姻が決まり全て終わるまでは、私が自由にできます。我が家の資産も、任された町の管理権も全てお渡しします。」
「……いやいや規模がでかすぎる。よく考えたら、俺がそんな物持ってたら、真っ先に攻め込まれるだろ。俺が欲しい物をあんたは持ってない、これで、交渉はしまいだ。」
足の縄からほどいていく、綺麗な細い足だ。いやいや、流石に俺もそこまで馬鹿じゃない、片足をほどき、もう片方をほどいていると、誰か近づいてくる、足音の数からいって、それなりの人数。宿には数人のメンバーがいるはずなので、そんなにあっさり突破されるはずはないのだか、お嬢様奪還の為に軍でも来たか。無駄とわかっていても、剣を抜いて構える。
部屋に踏み込んできたのは、ララとその館で会った剣士二人、あっという間に剣を取り上げられ、お嬢様は紐を解かれて、剣士二人にかかえられて部屋をでていく。
「ヒロ!!」
「待て、話を聞いてただけだ。」
「上級貴族のしかも嫁入り前よ、手なんか出したらどうなるか、わかってるの?」
「面倒な事になるのは、わかるから。」
「引き受けてないでしょうね?」
「なにをかな?」
「あの色白の肌、物憂げな瞳。あれに、あなたが抗えるわけない。」
「確かに、ちょっと危なかったのは、認める。……いやなんで、色々知ってるんだよ。まだ監視ついてるのか?」
「あのね、貴方は自分がどれだけ危険か自覚してるの? 監視無しでほっとくわけないでしょ。」
「気づかんかった、調べても誰が監視してるかなんて見つからないだろうし、まぁいいけど。それで、なんであの子の事知ってるの。」
「先に私の所に来たから、監視はつけておいたのよ。傭兵村に向かったって知らせがあったから、追いかけて来たってわけ、ついででね。」
「なんのついでだよ。」
「そんなの、ヒロに会いに来たに決まってるじゃない。」
「なに、ちゃんと仕事はしてるだろう。」
「魔物退治はね、呼んでも来ないのは、どうして?」
「色々、忙しいんだよ、手配書が無くても、あんなでかい町は落ち着かないし。」
「そっか、じゃまずは、手配書の分だけでも、体で払ってもらおうかな。」
「なんでそうなる、まずいだろ、領主の娘って自覚はないのか?」
「大丈夫だって、もうこの建物には誰もいないから。」
「……そこまでするか。こんな、ボロ宿でいいのか?」
「盗賊の死体の横よりかは、綺麗でしょ?」
「力づくすぎるだろ、平和主義者だったよね?」
「生きてる人間だけね、引き返せない過去は、切り捨ててるのよ。」
その目は、逆らってはいけない力強い目だった。優しい振りして気が弱いだけでは、大事な物を守れない、切り捨てる勇気と決断が必要だ。ララは、ちゃんと決断できる、強い指導者側の人間だ。
「私の部屋も、確保しておいてもらおうかな。」
シャツ一枚で、剣のチェックをするララは、恐ろしくもあり色っぽい。
「それは、オーナーとしてはありがたいけど。」
「お金とる気?」
「いえ、そんな。」
「しかし、ほんとに剣が苦手なのね。私に剣取られるなんて、よっぽど。」
「自覚してます。」
「カルちゃんに、ちゃんと教わりなさい。」
「はい?」
「ん? カルちゃん家、ゴリゴリの武闘系だから、かなり鍛えられてるはずだよ。だから一緒に狩りとか討伐いってるんじゃないの?」
「いや、ちがうけど。首輪ついてたら、魔力押さえられるんじゃないのか?」
「手練れになるほど、剣では魔力ほとんど使わないからね。カルちゃんなら、問題ないんじゃない。普通は奴隷に剣なんて持たせないけど、ヒロは気にしてないでしょ。」
「そうだな、今度あいつ用の剣つくるよ。」
「自分で練習する気は無いわけ?」
「少しは、しますよ、少しぐらい。」
「いや、かなり真面目にね。討伐もかなり終わったし、私からの仕事は減るから、これからは時間できるでしょ。呼び出しに応じないなら、また来るから。」
「顔出すようにします。」
国境線の曖昧な村に、私兵を連れて領主の娘がやってくるのは、当然問題だ。数時間占拠されたボロ宿は、謎の美女が出口で俺にキスをして去っていき、何も聞くなと言えば、みな大人の事情で話は止まる。
何か仕事をと言うので、へぼ探偵に仕事を依頼した。元気にしていると、そんな決まりきった連絡があると思っての依頼だったが、カルが読み上げてくれた手紙には、サオリは病気で亡くなったと書かれていた。




