傭兵村4
領主様のお膝元ともなると教会も神父様もやたらとお金がかかってる、俺にはそこがすっと入ってこない所だが、必要なんだろうとは思う。ララもカルも服が変れば流石に高貴な空気がにじみ出る、俺だけ新入社員がスーツ着ているような場違いさを感じる、実際に参加者で庶民の賞金首は俺だけだろう。長い長い神父様の祈りの後、実際にどれが持ち主変更の操作なのか分からないほど、様々な儀式があって。最後に、この幼き命を守ると女神に誓うかと問われ、長い儀式は終了した。
向こうの世界と違うのは中心にあるのが女神像だってことぐらいだろう。両手を広げて全てを受け止めるその姿は、まさに神々しい、全部信じられたら良かったのにと思う気持ちもあるが、そんな事は俺には出来ないのだろうと思う気持ちもある、時間をかけても変われない事もある。
「ちょっとあせったよ、唯一のセリフなんだから、ささっと言ってほしかったですね。」
すこしいたずらっぽい口調でララが話しかけてくる。
「すこし間があったほうが、重みがますだろう?」
「途中寝てた人が良くそんなこと言うね。」
「ごめん、耐えれなかった。」
「素直に謝ったふりすれば、なんでも許してもらえると思ってると、大変な事になるよ。」
「ほんとごめんって! てか朝一からこんな行事あるのに、夜中に起して朝まで……、いやなんでもない。すいませんでした。」
「早朝から大事な用事が有る時は早く寝る、当たり前の事でしょ。」
「こいつ、魔力込めて殴ってやりたい。」
「まぁ、冗談はさておき、私が出来るのは今はここまで、今回の件でしばらくお父様と謝罪まわりしないとけないのでね、見送り出来なくてすまない。謝礼ほか諸々は荷馬車につんでおいたから、有効に使って。それじゃね、あんまり無茶しないでね。」
そう言って小さく手をふると、足早に教会を出ていく。俺もそろそろ帰ろうと、出口へ向かおうとするとまたメイドさんが俺を止め、後ろを見ろと目くばせする。振り返るとカルが膝をつき、胸に手をあて頭を深く下げている。そうだよね、っていうか王子様なんでしょう、そんな恰好を俺にするのはおかしいよね? とりあえず、彼の前にしゃがむ。
「カル、そんな事するな。本当に俺とくるのか?」
「ご主人様、お連れいただけるなら、どんな事でも、私にご命令ください。」
「そんな呼び方なのね……じゃ、とりあえずその固い言葉使いから、なんとかしてくれ。」
「……気を付けます。」
しかし、まじまじと見ても美少年! 少女漫画とかで、ニコっとしただけでバラの嵐が背景で吹き荒れ少女達が倒れそう、俺とは住む世界が次元で違う気がする。しかも絶対服従の姿勢とかする必要あるか? そんな事しても、俺は寿命を延ばしたり出来ないんだぞ。それにだ、本来なら絶対に声もかけられないような人に気を使われたりしたら、権力にしがみついたり、勘違いして悪行の走ったりするんだろうが。
俺は弱い人間……、それでも首輪が目に入れば、そんな気持ちも落ちていく。
怖いメイドさんたちに見送られて、屋敷を後にする。ボロと貴族用の服しかないカルの為に城下町で買い物をして、傭兵村を目指す。カルが手綱を操作してくれるので、ララの用意してくれた謝礼を確認する、小さな望遠鏡には、弓に付けてみて、などメモが挟んであるが、俺には読めないので、カルに読んでもらう。これは俺がカルと話をするようにと用意してくれたのか、気の利くやつだと思っていたのだが。小箱をあけると、かんざしのような髪留めが入っていて、メモを呼んでもらうと、モモさんへと書いてあるらしい。あの女、全て調べてあるのよ、と警告もきっちりと入れてあるようだ。
モモは、かなり辺境の村から先ほどまでいた、領主様の城下町を目指して旅する村娘だった。普通に考えればたどり着けるはずの路銀をもっていたのだろうが、傭兵村周辺は魔獣も盗賊の出現率が上がる為、移動にも滞在にも金がかかる。それを知らずに、距離優先で村を出た娘は傭兵村で路銀が尽きる。仕事を探しても、求人の張り紙なんか出ていない、酒場の店主に声をかけるが、客を取るつもりの無い女をホールには入れないし、並みの美人程度では客はつかないので、店主は追い返す。行く当ての無い村娘は酒場の外で立ち尽くし、ガラの悪い町で深夜なれば、当然危険度は増す。
酒場の親父が、俺にそんな説明をしたのは、傭兵村に来て一か月ほどたったころ。仕留めた猪を届けて、夕飯と酒にありついていた時だった、親父さんが指さす窓の外には、細い女の子が立っている。
「自分で追い返しておいて、俺に助けろと?」
「俺だって難しい立場なんだよ、店の女の子の質を下げるわけにもいかないし、町の治安が悪くなって評判が下がるのも困るわけだよ。そこで、一人ででかい家に住んでる奴が、メイドを雇うぐらいなら問題ないんじゃないかと、相談してるだけさ。」
「あのな、あんたが追い出したんだぞ。」
「しかたないだろう、闇の魔力持った弓使いだぞ、そんなのと同じ屋根の下で女と楽しめるかって苦情がでたんだから、広くていいだろう。」
「広すぎるんだよ。聞いたぞ、あそこ商売敵の宿屋だったそうじゃないか、強引に買い取って、倉庫がわりにしてたそうじゃないか。」
「ひどい言い方だな、商売だよ、いいやり方だろ、血も少ししか流れない。それに倉庫になんかしてないさ、さっぱり忘れてたしな。すこし掃除すれば、お前みたいに女や酒もほどほどでいいって奴に部屋も貸せる、お前も立派な商売人ってやつだ。それに、うちの女には今更手はだせないだろう、もうすっかり仕事仲間だしな。」
「それもあんたが、面倒な客の対応やら、雑用押し付けるからだろうが。すっぴんや、吐いた女の面倒みてたらそんな気にもならないって。」
「だよな、それでどうする。お前が手を出さなくても、どのみちあの子は今夜誰かに抱かれるんだ、うちの女に手を上げて出禁になった奴とかな。例えば今、声かけてる奴とか。」
見ると、傭兵が3人声をかけている、断っているようにも見えるが、頼る場所もないこの町では、付いて行くか連れていかれるのは、時間の問題だろう。
「根はいい子なんだけどな。」
「親父さん、ほんと良い性格してるよな、俺が商売敵になってもしらんからな。」
そう言って、店を出ると、傭兵達に譲ってくれと金を渡すと、あっさりと引き下がった。俺が酒場の雇われだと知っていたのだろう、この町で俺の顔はそこまで広くはない。女の手を引いて、忘れられた宿屋までひっぱっていく、名を聞くとモモと答えた。
ベッドに座らせたが、下を向いて腕を抱え、何も話さない。明日話そうと言って部屋をでる、よく考えてみればさっきの傭兵より俺のほうが怖いか、体も拭いていないからまだ血の匂いもするだろう。さっきの奴らが追ってくるとも思えないが、一階で剣と弓をテーブルに置いて警戒する。しばらくすると、酒場の用心棒が一人やって来て、しばらく酒に付き合って帰っていった。酒場からは歩いても5分ほど、騒ぎになれば誰かくるだろうに、親父さんが気を使ってくれたのだ。俺だったらここまで気が回るだろうかと少し落ち込む。
どれくらい経っただろうか、彼女は階段を下りてきて、俺の横に立つ。
「……なんで、助けてくれたんですか?」
震えて、今にも泣きだしそうな声で問いかける。これで可愛かったら、押し倒してしまうかもしれないのだが、親父さんが追い返すぐらいなので、見た目は普通なのだ。根はいいってのは、どうやって判断したんだろうか。
「特には無いな、俺の気が変る前に部屋にもどれ。」
「……村には戻れなくて、しばらく置いてもらえませんか? ……なんでもします……。」
「明日にしろって、子供のくせに、なんでもするとか軽く言うな。」
「もう……子供じゃないです。」
そう言って、悔しそうに唇を噛む。団にいた時もよく見た表情だ、恐怖がゆるみ、安心すると、怒りへと変わるのだろう、この怒りが立ち直る助けになるとランが言っていたが、詳細は聞いていない。もっと酷い子も見て来た、鎖が付いてないだけましだと思ってしまうが、その考えが間違っているとも思う。何にしても、簡単に自分を差し出してしまうその態度に腹が立つ、抵抗して大事な物を失うよりかはいいのかもしれない。俺みたいに自分の命を大事にしない人間には、ずっと理解できないのか、俺は何にはらをたてているのかわからない。
「俺は、女を保護して回ってる団体に所属してたんだ、今でもそうありたいと思ってる。だから、居たいだけここにいたらいい。」
「……義賊の、噂では女だけっって。」
「俺は正規の団員じゃなかったからな。予備も含めて俺以外は全滅した。」
「もう無いんですか……。」
「……あぁ、だから、ちゃんと保護したりはできない。ここでメイドとして雇うぐらいしか出来ない、どうする?」
「……お願いします。ご主人様の為に、なんでもします。」
「ご主人様って、まぁいいか、掃除と他は、思いついたら言う。それと、なんでもはやめろ。」
「……でも、私なんかでよければ、夜お呼びいただければ……。」
「呼ばないから! さっさと寝ろ。」
軽くうなずくと、部屋に戻っていく。朝になって、色々と説明したものの、かなり不器用で、かつ声が小さく、なにより暗く表情に変化が無い。狩りから戻って疲れた時など、自分でやるのがすこし面倒だと思う時には助かるが、それ以外は正直言えば気が滅入る。しかも、酔って帰って来た時に、結局手を出してしまった。女房づらすることも無く、メイドとセクハラ雇い主の関係が続いている。向こうの世界なら、真面目な子ぐらいなのだろうが、こっちの女性はとかく肉食系がおおい、いや俺が会った女達がおかしいのか? とにかく比べると、なんにしても反応が薄い、休みに体を鍛えるのも、半分は家にいたくないからだ。かといって追い出す事もできず、出来れば帰るまで忘れていたかった事の一つだったのに、これからずっとララにこき使われるのだろうか。




