傭兵村3
広く豪勢な飾りの部屋、ふかふかのベッドは嬉しいのだが、ドアの内側にメイドさんが3人控えている。用あったら呼びますのでと言っても、こちらで待たせて頂きますといって、出ていこうとしない。俺を見張っているのだろうか、とりあえず落ち着かない。そして、領主様から夕食へのお誘い、いやこれ断れないやつ、しかも着る服まで用意されて、汚したらどうしようと不安になる。自分の小心者っぷりがたっぷりと分かった所で、領主様と二人での食事。緊張して臨んだが、意外にも普通のおじさまで、平和主義者らしく長年戦争に参加しない日本の政治に興味があるようで、食事が終わってからも高い酒を手に夜遅くまで話は続いた、今更だがこの領主のような人間がいるおかげで、向こうでも戦争に参加しない人間が大勢いる事がよく分かる。
部屋に戻るとララが待っており手をふるだけでメイドが出ていく、この差はいったい。それにしても、全裸みたいな下着でベッドにころがっている。
「今まで、領主様とかなり真面目な話をしてたんだが。お嬢様は何してるの?」
「いや、真面目な話で疲れたかなと、それに後払い分の支払いもしないと。」
「かなり前から、前払いを受けた事を後悔してるんだが。」
「そうかそうか、大変だったねぇ。」
「他人事かよ、余裕だな。」
「そりゃ、諦めかけた事がうまくいって、もう帰ってこれないと思った家に帰ってこれたからね。本当に感謝しております。」
「運が良かっただけだ、またあそこを通りたいと言っても断るからな。」
「わかってます。それでぇ、報酬は受け取ります?」
「……もらえるものは、もらっときます。」
翌朝目覚めるともうララはベッドにはおらず、メイドさんが定位置に戻っている。運ばれてきた朝食を食べてドアに近づくとお部屋でお待ちくださいと笑顔メイドさんがさえぎる。どうやら、勝手に部屋からは出られないようだ、部屋には特に何もない、本が数冊置いてあるが、俺には読めない。窓から外を眺めても、広い庭が見えるだけで、誰もいない。たまに馬車が出入りするが、乗っている人も見えない。メイドに見られている為、ちゃんとしていたのだが、昼食後の眠気に勝てず、あきらめてベッドに吸い込まれる。
起きるともう夕方で、横にうつむいたララが座っている、よく見るとほほを涙が流れる。
「なんかあったのか?」
「あ、起きてたんだ、ごめん。」
矢を向けられてもタンカを切るお嬢様が、泣いたりしないと思い込んでいた、なぜ俺はいつも勝手に決めつけて間違うのだろう。
「どうした、戦争を止められなかったのか?」
「それは、大丈夫。あの子、カルちゃんの事。」
「引き取り手が、さらに美青年だとか?」
「今は冗談聞きたくない。」
「ごめん。」
「……カルちゃんの、本当の名前も、経緯も分かった。」
「早いな。」
「実は、お屋敷に一人で入った時に、調べとく様に手紙を依頼してたの。……何から話したらいいかな、とりあえず、あの子の寿命はあと3年しかない。」
「……いきなり本題から話すタイプか? なんか病気?」
「今は、健康なんだけど。あの首輪、外れないのよ。」
「なんか、カギとか呪文とか、ハンマーとか、領主様の力で、……無理なのか?」
「あれは無理なの。元々戦争で負けたほうの、王家の子供を殺さないよう、教会が大人になるまで生かす為に作られた物なの。週に一回は顔を合わせて魔力を注ぎ、慈悲の心を民にしめして、名声を高めるって、勝った王を説得したの。7カンと呼ばれるのは、一年に一つしか解除できない構造で外すには7つ全てを解除する必要があるの、だけどあの子のはひとつも解除されてないの。」
「それは、七つのカギは洞窟で怪物が守ってるとかか? いやごめん、続けて。」
「敵国の王の子供を生かしておくのは、危険だって事は誰だって知ってる。滅んで国が無くなっても、王の血が途絶えていなければ、復興出来ると考える者は必ず出てくる。けれど、その子供が配下となれば、その領地の管理は簡単だし、反乱を企てる兵も、自分の戦力となる。」
「それは危険な賭けだな。」
「そうよ、だから毎年忠誠を確認して、一つづつ解除していくの。実際には、7つ全てを解除される事はまれで、解除時の事故で命を落とす事もおおい。」
「本当は、殺されるって事か?」
「実際に危険なのよ、解除には本人の魔力を全て抜く必要があって、薬で深い眠りに落ちるから。もちろん少しでも忠誠を疑われれば、二度と起こされる事は無い。それに、7年と数日が経過すると、7カンは持ち主を殺すのよ。」
「……あの子は4年も、解除しない持ち主か盗賊に奴隷として使われて、あと3年で死ぬ、そういうことか?」
「そう。……酷い目にあったと思うけど、そこは聞いてない。」
「なにか抜け道みたいなのは、無いのか?」
「無いと思う、魔力を全て抜くなんて、年に一回でも危険だし、首輪は一つ解除することで次の封印を1年延ばす仕組みだって聞いてる。あの子に今更危険な解除をおこなっても、寿命は変わらないのよ。」
「それで、国に帰してやるのか?」
「……もうあの子の国は無いの、親である王はかなり好戦的な人で、遠征しっぱなし。あの子と宰相は民からギリギリまで税を取り立てた、どの国もそうだけど、特にひどかったらしくて故郷にも帰れない。それに、あの子以外で王家の人間も近い人も残ってない。」
「ここで匿ってやるのか?」
「もちろん、そうしようと思ったんだけど、あの子に断られちゃった。」
「理由は?」
「民から餓死者がるほど取り立て、農民は耐えられなくなり盗賊になりそんな村をいくつも焼いた、そんな自分が奴隷として生きるのは当然だと思ってたんだって。だけどね、盗賊を手伝ってなら同じだって言われて、さらに罪を重ねてた事に気が付いたんだって。」
「……俺のせいか?」
「そうだね。本気で殺そうとしてたしね、私も一緒に。」
「……知らなかったんだよ、それで、どうするんだ?」
「鉱山にでも送ってくれって。少しでも罪をつぐなって、寿命が尽きるまで働きたいって。」
「それは、ちょっとな。」
「だよね、良かった。」
「何か良かったんだ?」
「いやー、鉱山送りでいいんじゃない、とか言うかなって。」
「そこまでは、言わない……。ん? 俺に何かさせようとしてるのか?」
「あの子に、聞いてみたんだ。国中に盗賊狩りとして名をとどろかせる弓使いの従者として、残りの寿命を生きるのはどうかなと?」
「はい? 何を言ってるの? 盗賊狩りは半分趣味だぞ、今はただの狩人だ。次に森に入った時に魔物に食われたり、盗賊に返り討ちにあうかもしれないんだぞ。」
「そんな事言っても、本当はわかってるんでしょ? 危険でも世の中の為になる事をしたいんだよ、もう限られた命だから、なおさら。」
「……それで、本人はなんて?」
「ヒロが許してくれるなら、是非にって。」
「一度殺しかけたぞ。」
「だからいいんだって、気持ちが引き締まるってさ。逃げようとしたら、迷わず殺してくれそうだから、だって。」
「どれだけ自分に厳しいんだよ、そんなストイックな奴と一緒にいたら息が詰まる。」
「……似たもの同士なんじゃない? 休みの日は2時間も山走って、2時間筋トレして、日暮れまで弓の練習するなんて、兵学校でもそこまで追い込まない。」
「俺に監視付けてるのか? いつから?」
「傭兵村に入ってすぐぐらいから。しょうがないでしょ、超がつく危険人物なんだから。大丈夫、他には漏らしてない、傭兵村の監視はうちの管轄だからね。引き受けてくれるなら、領内からあなたの手配書は消すし、国境も越えられるようにしとく。あの山城を落としたいのは、あなあだけじゃないのよ、本当は領内の全兵力を預けたいぐらいだけど、そこまで派手には動けないのは知ってるでしょ。でも裏からなら手伝える、あの子は字も書けるから、連絡役にもってこいでしょ?」
「……ララ、もしかしてわざと自分を盗賊に襲わせたんじゃないよな?」
「そこまでは考えてないよ、いつか機会が会ったら話はしてみたいと思ってたけど。」
「なんか、怖くなってきた。」
「領主とその娘は味方にしといたほうが、何かといいと思うよ。」
「偉い女とは相性が悪くてね。」
「知ってる。とりあえず、一晩考えて。明日教会で持ち主変更するから。」
「ほとんど、断れないよね。」
「そんな事ないよ、傭兵村には手を出せないから……直接は。」
「前向きに、考えさせていただきます。」
「よろしく!」
そう言うと、肩を叩いて部屋を出ていく。あの子の残りの寿命、そんな大きな物を引き受けるほど、俺には色々と余裕は無いんだが、俺も気持ちが引き締まるかな。いくら体を鍛えても、目に見えて成果が感じられるわけじゃない、普通に山城が見えるまでは近づけていないのだから。




