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夢者  作者: 高島 良
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傭兵村1

 今日は久々にいい稼ぎになりそうだ、貴族の救出は金になる。店主の情報は相変わらず簡単な物だったが、目の前にある車軸の壊された馬車、装飾は地味だが高級そうだ。高そうな鎧を付けた二人の護衛は、道に転がり、剣が無い。

 傭兵村の仕組みは、こんな感じだ。酒場に護衛を雇いたい客が来る。なじみの傭兵に頼むものもいるが、大抵は店主に紹介を頼む。運ぶ荷物の価値を店主が見積もって、適当な人数を提示して声をかける。しかし、店主に急ぎで国境を越えたいと話をする客の場合、魔物の森をぬけるルートを指定するが誰も護衛を引き受けないし店主も紹介しない、いくら金があっても死んでしまっては使えない。盗賊にとってみれば、おいしいお客さんだ、護衛二人で国境越えのルートに入れば、熱心な盗賊はすぐに待ち伏せの準備に入り、護衛は死に、貴族は人質になる。

 馬車には、すこし香水の匂いがしていた、今日の客は女性のようだ。護衛二人とは余程その腕を信頼していたか、急ぎの用があったのか、どっちにしても護衛は最低でも6人は必要、それが店主の考えかただ。それを無視して国境を越えのルートに入れば、ほぼ盗賊に襲われる。そうなったら、山城に連れていかれる前に救出して、謝礼を頂くわけだが魔物のいる森へは腕利きの傭兵でも出来れば入りたくないそうだ、肉調達の為に地形を覚えた俺には、深く入らなければ楽な案件。肉の調達は週に二日も働けば十分で、残りの日が暇なのだ、盗賊が狩れるし稼ぎがいいので今ではこちらが本業になりつつある。

 足跡は4人以上で山城までは距離がある、そろそろ暗くなってくるから野営の準備でもするだろう、距離を詰めて襲う手はずを整えればいい。

 追いついた時は、日も落ちていたが襲撃するには月明かりが邪魔だ、明るいと手練れには矢を避けられる、倒す順番を間違えればこちらが狩られる。

 声が聞こえるまで近づき、人数を確かめる。いつもと様子が違う、まだ暗くなったばかりだというのに、酒盛りをせずにほとんどが寝ている。起きている二人は、なにやら順番でもめている。縛られた貴族の姫様を味見する順序でもめているらしい、通常なら身代金交渉するので手は出さないはずだが、下っ端には関係ない、夕食で仲間に薬でも盛って俺を手伝ってくれたようだ。

 盗賊に聞きたい事も今更ない、とどめを刺して矢を回収していると、物音がして弓を構える。見逃した、もう一人いたようだ、しかも素早い。矢を避けて木の裏に隠れる、油断した、この距離では飛びこんで来られたら、俺の剣の腕では勝ち目がない、応援を呼んで来るべきだった、仕方ないはったりで乗り切ろう。


「出てこい、逃げたって無駄なのは分かってるだろう。持ってる情報しだいで、金を払ってもいいぞ。」


 もちろん見逃す気も、まして金を払うつもりもない。反応なし、脅しに少し魔力を込めて矢を放つと派手な音をたてて、盗賊の後方で木が倒れる。ゆっくりと手を挙げて出て来たのは、ぼさぼさの髪で顔は見えない、背の低い大人にも見えなくもないが、たぶん子供だろう。細かい事はどうでもいい、しばり挙げて引き渡す衛兵も村にはいない、なにより盗賊は殺す、それ以外の選択肢は俺には無い。


「まって、この子は奴隷よ。」


 さっきまでショック状態だった貴族の姫様が立ち上がり、手を広げて子供の前に立つ。縄を解くのはもう少し後にするんだった。まだ10台後半と思われる姫様の割には、なかなか眼光がするどい、油断すると目をそらしてしまいそうだ。


「だからどうした、盗賊を手伝ってたなら、俺にとっては一緒だ。盗賊だって護衛を生かしたりしない、いつでも生き残るのはあんたら貴族様だけなんだよ、さっさとどけ。」


 我ながらゲスだな、これから助けたご褒美にあずかろうってのに、何を言ってるんだろうか。それに対してお姫様は、まるで俺が護衛を殺したみたいに睨みつける、盗賊達を殺してたのを見てたはずなのに、根性の座ったお姫様のようだ。


「……この子は、奴隷です。誰の味方に付くかなんて選べないの、私を助けに来たんでしょ、この子も一緒に助けなさい! 私が出来る限りの報酬を出すと約束します!」


 報酬ね、正直金に困ってるわけじゃない、酒場の店主の払いはいいし、盗賊は金やら宝石やら持ってるので貯金は増える一方だ。稼いでいるとアピールしていないと、金を持っているのをおかしいと思われそうで、そうふるまっているだけなのだ、本当は盗賊が狩れればそれでいい。


「……あなた、レッドテイルのヒロでしょう。女子供を守るのが役目でしょう!」

「……余計な事思い出させたな、逆効果だぞ。善人はすぐ死ぬんだよ、だから俺も悪人になって、将来盗賊になりそうな子供も殺す、どけよ、そいつは絶対に殺す!」

「私ごと射貫きなさい、あなたに子供は殺させない!」


 子供だけじゃなく、俺の心配か? なにを熱くなってるんだか、馬鹿らしくなって矢を戻す。


「どうぞ、お好きに。運が良ければ、村まで戻れるだろうよ。二人仲良く歩いて帰れ、護衛は苦手でな。」

「……国境を越えたいの、今すぐにでも、護衛をお願い。」

「いい加減にしろよ、話聞いてたのか、酒場の店主にも止められただろうが、護衛二人殺されても目が覚めないのか? こっから先のが危ないんだぞ、魔物どもの巣を通るようなもんだぞ。」

「どんな犠牲を出してでも、行かなきゃいけないのよ。」

「捨て駒の事も考えろよ、なにも犠牲にしない貴族のお嬢さんに言われてもな、傭兵が前金無しで動くわけないだろうが、村まで戻って傭兵雇って安全な道に変えろ。」


 少しはこたえたのか、しばらく下を向いていたが、突然服を脱ぎだす。


「なにして……。」

「犠牲と前金よ! 戦争で万の命が失われる、それを止める為ならなんだって犠牲にするわよ!」


 なぜこの世界はこんな強い女の人ばかりなんだ、ため息が止まらない。


「わかった、ちょっと考えるから、とりあえず服きろ。」

「うるさい! あの護衛は10年以上も、子供のころから私を守ってくれてたのよ、そんな大事な人を失ったのよ、すこしぐらい私の言うこと聞きなさいよ!」

「……聞けって?」

「脱げ。」

 

 貴族の女性はみんな肉食系の人ばかりなんだろうか、倒したての盗賊や、奴隷の子供がいる中でも、きちんと体が反応してしまうのが、情けない。


「ララ、本当に考え直さないのか、森をこえれる可能性は低いぞ。」

「他に人がいるところでは、絶対に呼び捨てにしないで。」

「はいはいお嬢様、なんにしたって、俺の荷馬車じゃ二日はかかるぞ。」

「それでも、遠回りするよりかは、かなり早い。」

「いくのね、前金もらっちゃったから付き合うけど、あの野郎も連れてくのか。」


 少し離れて、こちらを伺っている少年は、長い前髪で表情が見えない。


「お前素早いから、なんとか山城まで帰れるだろう。」

「なに言ってるの、一人で帰ったら、どうなるか分かるでしょう?」

「よく帰ってきた、さぁ晩御飯にしましょう、じゃないのか?」

「そんなわけないでしょう、殺されてしまうわ、連れて行くわよ。」

「まてよ、これから魔物の森を通っていくんだ、そんな危ない所行きたくないだろう?」


 賛同してもらえると思って聞いたのだが。連れてってほしいですと、しっかりとした口調で答えた。ため息をつくと、ララは勝ち誇ったような顔をして、すこし笑った。


 隠してあった荷馬車まで戻り、引き返すはずだった道を進む。この道を最後まで抜けた事はまだないが、大規模な私兵で抜けて来たという奴らには話を聞いた、ゆっくりと警戒して進んできたそうで、結局回り道しても変わらなかったと話していた。警戒していても、3人では狼の群れに対応できない、小型数匹程度が限界、女神様に祈るしかない。

 貴族のお嬢様と、奴隷の少年を護衛することになったわけだが、お嬢様より、奴隷のほうが気になる、こんな近くにいる事は無かったからだろう。

 この世界では、力仕事全般の奴隷が数多く存在する、大抵は鉱山などで働かされる為、人目につかない、奴隷を使っていると知れると評判が下がるのだそうだ。そうはいっても安価で便利な労働力は流通する、評価を気にしない傭兵や盗賊も荷物の運搬と、魔物から逃げるときの餌として荷馬車に一人置いておくのが当たり前となっている。傭兵村にも定期的に奴隷商がやってきては、新たな奴隷が増える、鉱山などでは売れない子供が流れてくるのだが、流石に人を売り買いするのには馴染めず、俺は今まで買っていない。

 買わない理由の一つに首輪がある、逃げ出さないよう細工された首輪は、定期的に持ち主の魔力を注いでもらう必要があり、持ち主が気まぐれや見せしめに魔力の供給を止めると、呼吸ができなくなり、死に至る。付いてきた少年にも首輪があり、死んでいた盗賊の血を首輪につけてみたが、ほとんど魔力はとれず持って二日ほど、急ぐ理由が増える。首輪を外すか持ち主を変更するには、教会か奴隷商が必要となる、教会がでてくるのは、戦争孤児を殺さない為とか色々あるらしいが、大事なのは金さえ払えば仕事してくれるって事だ。当然森を抜けなければ、教会は無い。

 水場について顔を洗い、ララに髪を束ねてもらうと、かなりの美少年であることが判明、右のほほに大きな傷がある。こっちの世界にきても、イケメンは当然モテル、つまり全て敵だ! ほほの傷がが無ければ射殺してしまったかもしれない。それ以外は、とても優秀な執事のよう、食事や野営の準備などテキパキとこなすし、小柄なのに重い荷物も持てる。傭兵達が買うのもすこしわかる気がした。

 森の主役である狼達だが、遠吠えで合図してから襲ってきてくれたので、接近される前に対応できた。何度か襲われたが、大きな群れに当たらなかったのは運が良かった。ほとんど眠れず、頭痛がするほど、なにより矢を置き去りにしたのがもったいない、村の職人にまた作ってもらえばいいし、村に戻れば予備もあるのだが、今は3本しかない。しかも、ララも少年もそれに気が付いている、今裏切られたら諦めるしかない。

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