盗賊狩り17
本拠地までの行程の半分ほどの町で、いつものように酒場のカウンターで食事をとり、他のテーブルの話に聞き耳をたてる。酒場の女性が頼んでいない酒を置く。地味な服の少し歳上の女性、俺の右手の人差し指を叩く、顔を見ると目線を彼女の右手に落とす、彼女の右手の人差し指には包帯が巻いてある、初めて目にするその合図に戸惑ったが、彼女は団の協力者だということだ。
彼女に手を引かれて、二階の部屋へ、酒場の常連だろうか、客取るなんてめずらしい、買ってもらえてよかった、などの声が聞こえるが、彼女は下を向き足早に俺の手をひく。部屋に入り包帯をほどくと、自分の指にあるのと同じ入れ墨が姿を現す。
「本題から言うけど、もうレッドテイルは無い。」
「……無いって、どういうこと?」
「戦闘部隊も、本拠地も、各町にいる協力者も、みんな殺された。」
「……そんないきなり全部無くなるなんて、どうやって?」
「戦闘部隊は、全部隊が合流して大規模な作戦前に襲われたみたい、なにか毒が使われたらしい。協力者と本拠地は、リストが漏れたんだと思う。方法はわからないけど、私達と同じように潜入させてたのかもしれない。」
「しかし、全員ってことはないだろう? 君だって。」
「私は運が良かっただけ、やつら残忍でかなり大胆なのよ、数週間前に、私の所にあいつらが来た時、右手を怪我して包帯してる子がいて、その子が間違って殺されて、彼女には悪いけどわたしは助かった、包帯を取って確認する前に町の衛兵がきたから。他にも同じころ、複数の町で突然普通の人が盗賊に殺される事件が起こってる。貴方も襲われたんでしょ?」
「ああ、そうだ。」
迎えがこない理由は、これか。ランもメイルも団長も、修道院へ送っていった二人も、団の先輩達も失ったのか。なぜだろう、ヒナは、大丈夫な気がする、もちろんそんな可能性はほとんどない、これは俺の願望だ、受け入れる事ができないだけなのかもしれない。
「場所わかるか? みんなが最後に戦った場所。」
「店の子から集めた情報だけど、今、地図持ってくる。」
そう言って、部屋を出ると小さな紙を持ってもどってくる。小さな星のマークのついた場所が、最後の戦場となった場所だと教えてくれた、ここから二週間ぐらいだろう。
「この丸は?」
「……それは。」
下を向いてため息をついている。
「敵のアジトか、ここに団を追い込ん奴等がいるんだな?」
「あなたでも、一人じゃ無理。」
「俺の事知ってるのか?」
「覚えてないと思うけど、メイル隊とこの町に来た時に見かけた。挨拶出来なかったけど。酔った団の人達が強力な新人が入ったと盛り上がってた、その後、レッドテイルに弓の悪魔が参加したと噂が流れてきて、あなたの事だなって。」
「本当に悪魔が味方なら、負けたりしないのに。」
「誰もあなたに、復讐で命を落としてほしいなんて思ってない! 逆だったら、命がけで仇を取ってほしい?」
「確かに、思わないかもな。でもこれは引継ぎだな。今まで通り盗賊を狩るだけだ、刀鍛冶が死んだら子供や弟子があとを引き継ぐだろう、それと一緒だ。」
「……私は、もう戦えない、あいつらが怖い。」
「それは、そうだろう、俺を匿ってた教会は燃やされて、神父もシスター達も犠牲になった。復讐したいと思ったし、そこまでするかと恐怖も感じた。でも俺は賞金首だし、明日にもこの首が金の入った袋と交換されるかもしれない、どこかに向かって逃げるしかない。逃げる先が選べるなら、盗賊達の砦を通って進むだけだ、なんとか辻褄はあうだろう?」
「わたしが匿うって言ったら、復讐を忘れる?」
「やめとくよ、もう誰かを犠牲にする勇気は無いからな。」
「……地図、見せるんじゃなかった。」
「君のせいじゃないよ、俺だって娼婦や情報屋に金を払って調べてた、そのうちたどり着いたよ。」
「そうですか、じゃ最後の団の仲間として、私の入れ墨焼いてください。」
布をかんで食いしばる彼女の指に、焼いたナイフを当てる。軟膏を塗って、包帯を巻く。団での最初の仕事は怪我人の世話だったよと言うと、彼女は笑った。
「やっと消せた、連絡員の入れ墨は浅く彫ってあるから、これで消える。自分でも消せたけど、一人じゃ決心がつかなかった。」
「そうか、俺は当分消せそうもないな。」
「その行動力が羨ましい、それで。娼婦から情報買ったら、何もしないのか?」
「もちろん、これでもレッドテイルのメンバーですから。」
「本当、男って嘘つきだな。」
早朝に町を出て、レッドテイル最後の戦場へと向かう。行って確認しなければ、いつかどこかで再会できる可能性を消さずにすむ、それでも、今の俺にはすることもないし、いつかわからない時まで、生きている保証はない、小さな入れ墨に祈っても、もう手遅れなのかもしれない。それでも、そこにヒナがいないことを祈る。




