盗賊狩り14
翌日、修道院のあるふもとの町に到着し、二人と別れる。ヒナのように立派な戦士になると言っていたが、ほどほどにとは言えないので、がんばれと送り出す。
町から見上げると、山の中腹に教会らしき建物が見える、随分高いところにあるが、あれが修道院なのだろう。本拠地と言うから全員で行くのかと思ったが、団員達の建物は別にあり、そんなに広くはないが一人一部屋割り当てられている。しかし、正規の団員ではない俺の部屋はないらしく、ヒナの部屋に案内される。部屋には、ベッドとサイドテーブルのみ、女の子の部屋と緊張していた自分がはずかしい。窓を開けると、町を挟んで反対側の山に修道院が見える、今朝別れたばかりだが、二人はどうしているか、すこし心配になる。
すこしすると、先輩達がベッドを持って来て組み上げていく、スペースがあるのに横並びに設置すると帰っていく。女しかいない団なのに、俺がいていいのかと今更ながら不安になるが、気にしているのは自分だけのような気がして、馬鹿らしくなる。
ベッドに寝転がると、ヒナも横にねて俺の頭をなでる、ほんとに不安や心配事があるとすぐに気がつく。次の遠征がまだ決まっていないから、明日からたっぷり訓練できるねーとゆったりとした口調で恐ろしい予定をつげる、期限なしで団の訓練はきびしい、正確にはヒナの訓練メニューだが恐ろしくて詳細を聞けない。
翌日は朝から走って筋トレの繰り返し、とても固形物を摂取する気力もなく午後の地獄が始まる。しばらくしてメイル副長の助け舟が入る、町の中心部からすこしはなれた団員専用のグランド? らしく、部外者こないから、弓の練習していいと! しかし、ヒナの許可がでたら。彼女からは、今日は基礎体力向上の日らしくひたすら走り筋トレ。まだ翌日はこれじゃないと思えるだけでも救われる。
ランの針治療で筋肉痛もなく、朝のランニングだけで解放される。久々の平地での射撃にとてもテンションが上がる。30mから初めて、10mずつ伸ばしていく、6本撃ってもブレない程度には回復してきた為、6本セットでひたすら撃つ。かなり時間が経過するとランがやってきて、止める。
「ヒロ、ちょっとストップ、死ぬ前はこんな距離撃ってたの?」
「……箱詰めね、計ったことなかったですけど、野犬狩ったときはもう少し遠かったかも。」
「400mは超えてるぞ、そもそも的見えてるのか? さっきから見てたけど、望遠鏡ないと見えないぞ。」
「目を望遠に出来るので、ちゃんと見えますよ。ピント合わせに時間かかるので、近くはぼんやりしか見えてないです。」
「おまえ、黒目がっていうか、白目がほとんどない、不気味すぎるぞ。」
「そんなふうになるんですね、望遠にしてる時は鏡みても自分では見えないので。」
「それは、どれぐらいで戻るんだ。」
「日によって違いますね、遠くに合わせると戻すのにかなり時間かかります、測ったことないですけど。」
「その目はまだいいとしても、色々とひっくり返るな。」
その意味も分からないまま数日が過ぎる、夕飯時の食堂にはだいぶ席に空きがある、400人の戦士が一斉に戻ってきても食事ができるのだそうだが、いまは100人ほどしかおらず、猛者の先輩達も距離をとる、弓の練習を始めてから、みんなよそよそしい、俺と食事をしてくれるのはヒナぐらいだ。
「いいのか、なんか俺のせいで少し浮いてないか?」
「少しではないかな、今だけだだよ、遠征に出れば、元にもどる。」
「そうか、ごめんな。」
「謝らなくていい、私はヒロを独占できるから、嬉しいよ。」
優しい口調だが、ヒナは少しニコっとするだけだ、声を出して笑ったところを見た事が無い、そばにいるのが俺でなければ、ちゃんと笑えるのではないかと思うが、手放したくは無いとも思う。
「また心配そうな顔してる、抱きしめてほしい?」
「食事中と、その後しばらくはいいかな。」
「そっか、部屋もどったらね。」
「少し散歩してから、もどるか。」
「そうだね。」
今はこの笑顔で満足するしかない、そう思っていると、食堂がざわつく。団長とメイルの姿が見える、こちらに気が付くと近づいてくる。団長に会うのは、さっぱり矢が飛ばなかったお披露目いらい、恥ずかしい記憶と共に緊張感が高まる。
団長は、団の方針に関わる事を決めねばならない、二晩ほどヒロを借りるぞとヒナに告げる。ヒナは了解したと言うが普通に考えれば護衛にヒナを連れていくはず、嫌な予感がする。団長についていくと、外には馬車が待っており、団長と乗り込む。メイルが敬礼している、一緒にいかないようだ、益々怪しい上に、団長から黒い布を渡され目隠しをする。
「ヒロ、これから頼む事は、断ってもいいと言ってあげたいのですが、そうもいかないのです。団の運営は、悪を討伐する表の仕事と、その対象を探す裏の面もあります。情報を得るため、救い出した団の女の子を潜入させ、取り戻せない事もあります。今日の様に、支援者の依頼を断れない事も、自分にとって都合のよい正義を振りかざす事の無いようにと、誓ってはいるのですが。なかなか、ままなりません。」
どれだけ走ったろう、団長は何も言わない。義賊ごっこやっているのではない、団の敵は女子供をさらい売りさばいて金を稼いでいる、向こうでもいまだにある商売が、この世界で無くなるわけがない。潤沢な資金を持った連中相手に無傷で戦えるわけもない、部下を切り捨ててでも前に進まなければいけない。俺にはできなかったが、その気持ちは分かる、団の為ならどうなろうと受け入れる。俺も変わったな、ヒナに挨拶ぐらいはしたかったかな、また腹をつぶされるほど怒られるだろうか。
馬車が止まると、団長が頼みましたよと言うと、ご案内させていただきますと、しぶい男性の声がする、手袋をしたその手に誘導されて歩く。静かで、他に誰かいる気配はない。何枚かドアを超え、こちらへと言われ、やわらかい椅子に座る、この世界でこんな椅子に座ったのは、アンと豪華な屋敷に行った時だけだ。どうなるのかは分からないが、かなり偉い人に会うのだろう。
ドアが開く音がして、だれか近づいてくる、ヒールの音からして、女性なのだろうか、正面に座ったようだ。
「まず詫びよう、この様な形で会うこととなりすまない。」
まったく謝罪する口調ではないが、自信を持ったその声は若い女性の様だ。
「昼に、そなたの弓の腕を見せてもらった、この世界の均衡を大きく壊すその力、何に使う?」
なんだこれ、せめて選択問題にしてくれ、間違ったら俺だけじゃなく団にも迷惑かかるやつだろう、そんな覚悟はできてない。……とりあえず団長も言ってたし。
「正義の為に。」
「正義か、団長ともその話は何度もしてきたが、そなたにとって正義とは、何を指す?」
そういう問いは、法学部でた人とかに聞いたほうがいいと思うんですよねー。哲学の問題なのだろうか?確か……。
「悪を倒す事です。」
なんか俺ってば、軍人ぽくないこれ。なぜかテンションが上がっている自分に気がつく、緊張でちょっとおかしくなっているのかもしれない。
「そうか、そなたの上に立つ者が、悪と断定したものが、そなたにとって悪ではない場合は、どうする? 止められるか?」
これは、団長やメイルを止めるってことか? いや殺せってことなのか? なんだこれ難易度が上がっていくやつか、勘弁してくれ。
「止めます!」
これしかない! 気がする、団に対して不満は……、ちょっと町で暴れすぎとか、捕虜とらないとか、少し引っかかるところもあるが、理解できないわけじゃない。もし、どうしても理解できない事がおきた時に、止められるかは、自信がない……。
「そうか。」
そう言うと俺の後ろに回って、目隠しを外す。立てと言われて、椅子を立つ、部屋は、やはり豪華な内装に家具、そしてでかいベッドが……寝室?
「今は名を名乗れん、ゆるせ。」
そう言って、俺の正面に回ってくる、二十歳ぐらいだろうか目鼻の整った赤毛の美人で身長は少し低い程度だが、これは浴衣かガウンと言うやつだろうか、一瞬見ただけだがそれ一枚しか着ていない事がわかる、目線を塞ぐため目をつぶる。貴族は家では、ほぼ全裸が常識か? 目をつぶっても、その画像が消えるわけではない、むしろしっかりと思い出してしまう。
「私が悪だ、まず私を壊せ。」
壊すとは? 疑問におもっていると、甘い香りがして唇が重なる。挨拶的なものと取れ無くもない、もういいぞと言われるのを待っていたが、手をひかれてゆっくりと移動する。目を閉じているが、これはドアの方向ではない気がする、二度目のキスは挨拶と言い訳出来るものじゃなかった、そのままベッドに倒れたが、その後予想外にも、苦痛に耐える彼女の顔をみることになる。
「もう少しリードしてくれてもよかったんじゃないか?」
「あの、詳しくは分かりませんが、貴族の方は結婚とかするときに、純潔でないと色々問題があるのでは?」
「そうだな。」
「……では、なぜ?」
「壊したかったのだ。私は正義を掲げて行動する者の近くにいて、自分もと思い団に協力している。しかし最近、少しづつ不安になるのだよ、そなたのようにな。」
「……心が読めたりするのですか?」
「そなた、顔に出すぎると言われんか? 私の近い者が掲げる正義も、その行動も善なるものだが、民が幸せには見えない。私はこのまま矛盾を受け入れ、やがて何も感じなくなり、何も考えなくなるのだと。どこかでそうは成りたくないと思っていたのだ、そんな時に、そなたの力を見て、見惚れたのだ。なんともタイミングの良い話だな。」
「……怖くは無いんですか、俺の力。」
「どんなに強力な力でも、方向さえ間違ってなければよい。そなたのように、すこし自信がないぐらいでちょうど良いのかもしれなんな。魔力の守りを一撃で壊すとは本当だな、私もいい方向に壊れてきたようだ。やはり私は、間違ったものが力を得るのを手伝ったやもしれん。確信が持てたら、その時は力を借りる事になる。」
「自分でよければ。」
「控え目だな、そなたは、領地が欲しいとは思わんのか?」
「いきなりですね、そこまで野望はないですよ。日々生きるので精一杯ですから。」
「もう少し見方を変えないと、あの女にまた捕まるぞ。」
「……ご存じなんですね、知り合いだったりするんですか?」
「知っている程度だな。あやつらとは、真っ向から争えん、今は団にいてどこにも属さない、それが一番であろう。そなたの力を知っている者からすれば、敵にまわったり、見失うよりかは、幾分ましなはずだ。」
「わかりました。」
「ヒロ、終わった後は、このように裸で語らうのか?」
「……そうですね、お酒を飲むより本音でお話できるかと。」
「なるほど、本音か。……二日、そなたを借りたのだ、私を鍛えろ。」
「……それは、どのあたりが目標なのでしょうか?」
「副長達のように、男を抱くと言えるまでだ。」
それは方向間違って気がする!




