盗賊狩り13
日も落ち暗くなり始めた頃、先輩が一人、走って戻ってくる、何かあったのかと不安になる。ランに、死亡重症無しと報告し残ったメンバーは安堵する。その後も詳細の報告が続いている、念のためもう一度包帯など確認する、ヒナの顔が浮かび少し手が震える、早くあの優しい声を聴きたい。
報告が終わったのか、ランが歩いてくる。
「ヒロ、かつらかぶっといて。」
「変装? 理由を聞いても?」
「二人救出したらしいから、しばらく一緒に移動する事になる。うちらで世話する事になるから、ヒロコで対応して。」
「声でばれるんじゃ?」
「すこし高めで、もしくはしゃべるな。」
「だまっときます。……なんか元気ないですね、重症も無しならいい戦果なんでは?」
「団のメンバーは無事だった。でも捕まってた女達37人が殺された。」
「そんなに……。」
「いつもなら、真っ先に抑えるんだが、頭領ふくめ数人で地下牢に立てこもって、ドアを破るのに時間かかったらしくてな。うちらは捕虜は取らない、降伏しても無駄だと知ってたんだろう、あいつら道連れにしやがった。」
「……救出した二人は運が良かったですね。」
「頭領のお気に入りだったんだろうな、たまにあるんだよ。最後だと悟って逃がすやつとかな、クズどもでも最後には大事な物がなにか気が付いたりするらしいわ。」
大事な物か、俺の大事な物はなんだろう、俺もクズかもしれない、一途なやつはこんなことで悩んだりはしないのだろうし。
それから数時間して、少しづつ団員がもどってくる、ヒナにおかえりと言うと、すこし笑って力強く抱きしめる、背骨から変な音がしたが、なんとかこらえる。ランに詳細を伝えると、おまえが一番の重傷者だなと笑って治療してくれた。
地面に転がり、背中に針を刺され痛みに耐えていると、手枷を付けられ鎖で引かれた女の子が連れられていく、二人とも俺より少し背は低い程度だろうが、顔が幼い為に年齢はよくわからない中学生ぐらいだろうか。場違いに綺麗なドレスを着て、すこし茶色い髪は綺麗に編み込まれ、高そうな髪飾りで止められている。化粧のせいか二人ともかなり似ている、盗賊の統領はタイプがブレない人だったようだ。
「ランさん、あれ手枷いるんですか?」
「本人達は、うちらに誘拐されたぐらいにしか思ってないからね。走って森に入ったら面倒なんだよ。」
「そこまでですか、あの格好って元々貴族の人だったとか?」
「そりゃないね、綺麗な服着せられてるだけだな。歩き方でわかるだろう。」
「すごいですね、動きで身分が分かるんですか。」
「貴族なら三流でも小さい時から仕込まれるからな、まれに救出したりするけど、精神的にも荒れてるし、政治的にも面倒な事になるから、いやでも覚える。」
貴族ではないのだが、統領は自分のことを領主だと勝手に宣言し、二人は正妻で、外は危険だと繰り返し言い聞かせて地下にある豪華な部屋で生活していたのだそうだ。正妻が二人はないだろう、などなどツッコミどころ満載だが、本人達はそれを疑わない。ランやメイルが説明してもまったく信じず、俺が食事をもっていってもはたきおとし、飲み物は顔にかけられる。それでも誘拐された子供なのだからと、甘く見るのは俺だけで、ランの容赦ないビンタが二人に飛ぶ。二日もした頃には、ランがくると俺の後ろに隠れるようになる。かつらはあっさりとバレたがまったく動じない、手枷がついているので馬車やテントからはでれないが、そのわがままっぷりにランの機嫌はさらに悪くなる。
「ヒロ! 魔力込めてビンタしてこい。」
「死んじゃうでしょうが。」
「いつもとは違うってことで、実験的な方向に情熱そそげないんですか?」
「無理!!」
「なんでそんなに?」
「腹立つ!」
「シンプルだなぁ、それで、どこに連れてくんですか?」
「本拠地だけど、あんな状態で連れてく訳にはいかないし、今回は救出ゼロってことに。」
「なに無かったことにしようとしてるんですか、そもそも本拠地って?」
「いわゆる修道院的なやつだな、精神的なダメージを回復させて、適正と意欲がある子は戦士に育てるんだよ。」
「なるほど。」
「だけど、手枷つけたまま放り込むのは流石にね、シスター達に負担かけすぎだなと。」
「女の人だけなんだ。」
「そう、だからおまえは入れないからな。」
「……分かってますよ。」
「また変な間があったよね?」
「毎度ですが、気のせいです。」
結局一人でも甘い奴がいると、ダメになる。との結論から、魔力無しでビンタすることに。力加減が分からないとヒナに相談すると、私で試していいよーと言われたが、比較にならないので却下。ランにこれぐらいと、数発ビンタされて自分自身で調整し、わがままを待つ。同じスープだと文句を言うので、二人にビンタをするとしばらく無言になる、ずっと俺が一緒にいられるわけじゃないと伝えると、ふたりとも泣き出してしまった。先輩達の泣かせてやんのーみたいな冷たい視線に潰されそうになるが、ヒナが来て二人を抱きしめる、細い二人は折れそうで不安だったが泣き止み、ヒナが二人の頭を押し下げると、小さな声でごめんなさいと謝った。それ以降は、雑用も手伝うようになり、派手なドレスを脱いで作業着ですごし、たまに笑顔も見せるようになった。
「やはり、ビンタが効果的ってことだな。」
ランは横に立って、腕を組んで大きくうなずく。
「ヒナの背骨が折れるほどのハグが効果あったと思いますけどね。」
「流石に毎日抱きしめられてる人が言うと、説得力あるねー。」
「……ちょっと癖になりますね、命の危険も感じますが。」
「それって、おまえの唾液の毒と同じ効果なんじゃないのか?」
「確かに! それぐらいのが生きてる感じがするんですかねぇ。」
「変態の発言だな。」
「貴方にだけは言われたくないんですが。」
「とりあえず、明後日にはお別れだから、気をつけてな。」
「なにをですか?」
「二人に気に入られてるみたいだし、誘惑に負けたら、ヒナに……こんどは背骨ぐらいじゃすまないかもな。」
「なんでそんなに嬉しそうなんですか、夜は抱き枕なんですから、なんかあるわけないじゃないですか?」
「夜とは限らないぞ、狙ってみていれば必ず隙は見えてくるものだ。」
「なぜ突然仙人みたいな事を。」
翌日、早めに野営したため、弓を組み立て森に入る。まだ全快とは言えないが、動物を狩るぐらいは問題ない。牡鹿を仕留めて近づく、毎度の事だがとても一人では運べるサイズではない。だれか呼んでこようと、戻ろうとすると、すっかり作業着も見慣れた二人が立っている。ランさんの予感的中か、いやたぶん面白がってけしかけた可能性が高い。
「ヒロさん、明日でお別れなんです、だから、お願い。」
何がお願いなんだろう、なんて思いながらも若い女の子二人に抱きつかれるのは、悪くない。だが、流石に若すぎる、なんとか引きはがすと、木の枝を派手に折りながら、先輩が斜面を滑ってきて足元で止まる。落ちて来た方向を見ると、ランと数人の先輩達が残念そうな顔でこちらを見ている。足元の先輩が起き上がり、今日は肉が食えるぞーと言うと、先輩達が鹿を担いで野営地へと駆け足でもどっていき、救出された二人もついていく。
「ヒロ……人妻は好きじゃないのか?」
「人妻って……ランさん、そういう問題じゃないです、なに言ったんですか二人に。」
「お別れの前に、したいことがあるなら、我慢しないほうがいいぞって言っただけだぞ。」
「責任逃れしやすいアドバイス! なんかあったら、ヒナが泣きますよ。」
「最近あんたら夫婦みたいだし、すこしは刺激があったほうが、進展あるかなって。団の中に新鮮な話題提供してもらわないと困るんだよ!」
「逆ギレじゃないですか、」
「彼女達にも大事なのよ、誘拐されたり売られたりしなくても、女の子がなにか大事な事を自分で決める事ってすくないのよ、これからは沢山の決断をしなきゃならない、今日みたいね。」
「……綺麗にまとめようとしてますけど、面白そうってだけですよね?」
「半分以上はな。」




