盗賊狩り9
朝になるって、筋トレ行くよと軽く肩を叩かれて、ヒナに起される。昨日の夜は、キス以上の事は無かった、彼女に後ろから抱きしめられて、久々にベッドで眠った。
街はずれの広場では、すでに準備運動やらジョギングやらで体を鍛える先輩達があふれている、学校の朝練に見えるが、本物の剣やら槍を振り回している人もいるので、そこまでのどかではない。
ヒナにストレッチを手伝ってもらうが、骨がきしむ音が今にも聞こえてきそう、俺以外はみんな体がやらかい、そしてこんなに朝から体鍛えるとか、いつもこんな真面目なのかとヒナに聞くと、遠征中はほとんど馬車の上だから、町ににいられる日は、がっつり鍛えるのだそうだ。
ヒナのおかしなスピードの腕立てを数えていると、昨日襲ってきた先輩達が普通におはようと挨拶していく、なにおかしいと感じていると、ヒロコ! と呼ばれて、一瞬誰の事か分からなかったが、皆の目線で気が付く。副長が手招きしており向かう、聞きたい事が沢山ある。
「昨日のは、どのあたりから演技だったんですか?」
「細かい事はいいだろうが、ヒナの背中押すにはあれぐらい必要だったんだよ。」
「事前に教えてくれても、よかったんじゃ?」
「お前演技下手そうだからな、それに、男の恐怖にゆがんだ顔が好物なんでな。それで、どこまでいったん?」
「ストレートすぎる。なにも無いですよ、ちゃんはやめろって言われたぐらい。」
「だめかぁ、いつになったら男を強引に抱く楽しみに気が付いてくれるんだろうねぇ。」
「他の楽しみに誘導して頂きたい。それで、どれくらい町にいるんですか?」
「一週間ってとこだな、後で口の固い大工が来るから、弓作ってもらえ。」
「おお、優しい!」
「そうだろう、一週間で使い物にならなかったら、野営地の真ん中に手枷付けて全裸で繋ぐからな。」
「それはまた、やる気のでる応援だなぁ。」
「分かったら、さっさと体動かせ! こっちは団長にはっぱかけられてるんや、死ぬ気でやれ。」
昨日の酔った演技並みの凄みのある眼光が突き刺さる、どの程度かまでは分からないが、期待の新人が戦力にならなければ、そりゃ怒る。匿ってもらうのだから、きっちりと仕事しなければ、しかし一週間で筋力がもどるのだろうか。
あんまり頼りたくはないが、頼れるのはアンしかしない。教会に行くと、すでにその一部屋が、怪しげな化学実験室のようになっており、部屋には見た事もない実験器具っぽいものがあふれている、荷馬車一つつぶして運んでたのはこれだったのか。
「アンさーん、おはようございます。」
「おー、おはよう!」
そういって、明らかに寝てなさそうなアンが返事をする。
「ヒロ、色々とおまえの血や魔力が異常だってことは理解できたが、分かったのはまだ一つだけだ。おまえの魔力は、相手の魔力を消すわけではなく、抵抗しなくなるということだ、おまえの一撃をくらうとまだ女をしらない純粋な少年のように全て受け入れてしまうのだよ。」
「もう少しましな例えはなかったんですか。鉄にはじかれるのは、受け入れないってことなんですか?」
「いや、金属自体は受け入れるけど、使用者の魔力とは別の属性になっているから、一回目ではどちらか強い方が従い、もう一方は反発する。二度目は、どちらも従うので貫けるのだよ。」
「金属に魔力を通すと、属性が変わるんですか。」
「それはそうだ、ほんの少しだが変化する。」
「よく分からないけど、2回当てれば仕留められるってことなんですね。」
「推論でしかないが、何枚も鉄を重ねれば、時間差で少しは魔力が回復するから君に撃ち抜かれない鎧は作成可能なのかもしれない。」
「なぜ対抗策のほうを検討してるんですか!」
「魔物ならまだしも、人間ならそのうち対応してくるだろう、その時に使える奥の手を用意しておかなくためにも、検討は必要なのだよ。どちらかって言うと、守りの方が専門だしな。」
「なるほど、その……ついでに、矢に込める魔力の量って、どうやって調整すればいいか分かります?」
「ごめん、理解できん。矢に魔力送って、放つだけじゃないのか?」
「そうなんですけど、普通に撃ってるだけなら、一日で250ぐらいは撃てるん……。」
「待って、それは魔力を送ってそれだけ撃てるのか?」
「はい、足に打ち込んでも、普通の人なら数分しか持たないので、魔力入ってると思います。」
「そんな矢を250も撃てるのか、それで呼吸が苦しくなったり、倒れたりしないのか?」
「普通に撃つ分には大丈夫です。指切って、すこし時間をかけて魔力を乗せたりすると、狙いがブレる強力な矢が放てますが、これは少し疲労感を感じます。」
「放つ矢に種類があるのもだがそんなに数撃てるのは驚きだな。確かこの国の近衛兵に弓兵がいるらしいが、日に2発程度と聞くしな。いくら夢者でも、なにか魔力を増やす薬でもあるのか?」
「何も飲んでないですけど、そもそも魔力って増やせるんですか?」
「日々の鍛錬で体に魔力を通せば、ほんの少しづつだが増えるそうだが、測定する装置があるわけじゃないから、どの程度かはわからん。後は、魔獣の肉を食うと上がるらしいが、そんなに手に入らないからな。限界まで魔力を抜くと増えるとか言われてるが、くたばる可能性がかなり高い。普通の奴は魔力を攻撃側にはそんな使わんからな、弓使い以外で魔力の量なんてそんなに気にはしないだろう。そういえばおまえ、一回死んでたな。」
「俺はゾンビですか?」
「正確には、死んでないけど、魔力が限界近くまで抜けてたのは事実だね。町で傭兵と戦った時、殴って倒したって聞いたけど、素手でも魔力使うのか?」
「あの時は、その方が気が付かれないかなと、剣弱いし。」
「常識通じないなおまえは、普通は魔力込めて殴ったりしないからな、自分の魔力も尽きてくたばる可能性たかいし。」
「前にどっかで聞きましたね拳は燃費悪いと、そんで剣だと一度に込められる量は極少量だと。」
「そうなのよ、おまえ以外は、出血させて魔力を削るか、重量物で殴るかしないと敵は倒せない。棍棒でなぐられたら、中で出血してるからね。」
「なるほど。それで……、あの唾液はやっぱり毒なんですかね?」
「そうだな、神経系の毒と似た感じかな、空気に触れると効果はほとんど消えるし、そんなに強いもんじゃないから、魔力の弱い人間でも死んだりしないから、やりまくっても大丈夫だ。」
「……魔力の弱い人だと、どんな症状が?」
「息苦しくなったり、鼓動が早くなったりかな。」
「治したりできないんですかね?」
「うーん、一時的に中和するぐらいなら、薬でなんとか出来るかもしれないけど、必要?」
「いや、確かにどうしても必要ではないのですが。……キスのあと、そんな症状がでると勘違いしてしまうのかなと。」
「……なるほど、確かにそうだが、毒がなくても同じ症状でるんじゃないか?」
「まぁ、そうですかね。」
「女ったらしスキルの一つが解明されたってことで。」
「嬉しくない。……本命を忘れてました、一週間で筋力もどしたいんですが、出来ればあの怪しい液体ではない薬ないですか?」
「おまえ、私の最高傑作にケチ付ける気かぁー。」
「いや、なんていうか、もっと高性能なものが必要かなと。」
「確かにな、針でも打つか。」
「意外と普通だ。」
「何と勘違いしてるか分からんが、限界まで酷使した筋肉に針から魔力注いで治すんだ、ちなみにかなり痛むから覚悟しておけ。」
「別のやつは?」
「あきらめて、ヒナと筋トレしてこい。」
「わかりました。」
素直に鍛えるしかない、努力しないでなんとかしたいタイプの人間には選びたくない選択肢だが、贅沢は言っていられない、見張ってくれる人はいるのでさぼったりしないだろう。




