魔獣ハンターとして35
馬車が止まって、懐かしいちび達の声が聞こえる。蓋が外され、サオリの涙が小雨の様にふってくる。
「おかえり、ヒロ。」
足が動かない俺は、サオリ兄に支えてもらい、なんとか食卓に腰を下ろす。サオリは横に座り、俺の腕を抱きしめて、良かった良かったと泣いている。みなが動けないでいる中、マシュマロだけが、軽く手を振り笑顔で出ていく。信用する人間を間違えた、しかしサオリに会わせてくれたのは、彼女なのだ感謝している。
サオリがだいぶ情緒不安定だが、状況を確認する。実家が軍人という義姉の話によると、通常野犬襲撃の連絡があれば、最寄りの中規模以上の町から100人規模の軍もしくは傭兵隊が出発、到着は早ければ明日。手配書の取り消しだが、弓使いを領地内に隠したとなれば、国内でも近隣領主と戦争となる恐れがあり、この地の領主は戦争を避け、手配書を発行した領主に借りを作る為に俺の首を差し出すとのこと。運よく100人の部隊を撃退出来たとしても、一桁増えて再度侵攻してくるとのこと。すでに町中に弓使いの噂が飛び交っている為、軍と同時かそれより早くに賞金稼ぎ達が到着する恐れもある、明日の朝では身動きがとれなくなる。
「今逃げても、逃げ切れる確率は低いってこと。」
「そう、逃亡中にもし正規の軍に怪我でもさせれば、賞金がさらに跳ね上がって、軍主導の捜索が開始される。大きな戦争や、赤目の侵攻でもないかぎり、達成されるまで終わることはない。」
義姉さんの口調は、言葉こそ事務的だがブレが無い、いよいよ断頭台が見えてきたってことらしい。みな視線を落とし、言葉もでない。
「じゃ、俺から提案だが、顔も知らない賞金稼ぎに金持ってかれるぐらいなら、今ここでスパッと……。」
「ダメー!!」
サオリが首に飛びついて叫ぶ。
「絶対にダメ、ヒロは地下に隠すの、そうしたら見つからないし、ちゃんと縛って外にださないようにするから!」
声をからして叫ぶ声にも、義姉さんはひるまない。サオリの腕をつかむみ地下まで連れて行くと、柱にしばりつける。
「ヒロさんサオリは任せて。今は逃げて、貴方が生きていると思えれば、この子は必ず立ち直れる。」
「そんなの無理だって、今日だって、もうダメかもって思ったら、おかしくなりそうだった。逃げるなら、私も連れてってよ! 無理なら、もう殺してよ!!」
「サオリちゃん、町から出た事もないでしょう。西の山も越えれないし、超えれたとしても足手まといになる、一人での野犬討伐の噂でヒロさんの場所も実力も知れ渡る、追手の数も質も今までより厳しくなる。貴方がいたら、ヒロさんは一か月ももたない。」
「うう……、ヒロお願い、待ってろって言って、戻ってくるって。……言って。」
柱に後ろ手で縛られ、そのまま泣きながら床に座り込む。そんな姿でも、たまらなく愛おしい、彼女と少しでも一緒にいられるなら、どんなことでもしよう。
「必ず迎えにくるよ、悪魔になってでも、戻ってくるよ」
「……嘘つき。」
そういうと、床に倒れる。急いで縄を切るが、息はある。サオリの兄さんに預けて、義姉さんと出発の準備をする。
「ヒロさん、西の山を越えたら、荒れた旧道に出るはず。その道を南に、50年前に赤目がその道沿いに南下して、今は見捨てられた村や町が続くはず、魔物がいるから大人数の追手は抜けるのに時間がかかるけお、貴方なら抜けられる。街灯の鎖を引きずって、橋は渡ったら燃やして。それと、必ず戻ってきてね、部屋はサオリに掃除させとく。」
たくましい義姉に見送られ、馬車はゆっくりと動き出す。今はもう、無理な約束にならなければいいと、祈るしかない。




