魔獣ハンターとして33
教会前の広場に、綺麗に遺体が並び布がかけられる、罪なき者の命が……そんな奴は居ないと思うが、この光景は残酷だ。
しばらくすると、女性が登ってきて、食事と飲み物と毛布をと息を切らせながら渡してくれた。
「ありがとう。」
「いえ、……そんな、……これくらい。」
荷物を置くと、少し下がる。怖がられるのはいいとして、彼女は俺より少し若いくらいだろうか、胸のボリュームがもうすごい事に、にもかかわらず赤い胸元の強調されたドレスに、さらに胸元へと目線誘導するネックレストラップ、お祭りに派遣された酒場のおねーさんなのだろう、温泉コンパニオンみたいのだろうか。目線が強烈な引力に引っ張られてしまう、普通の職場ならセクハラで即退場ものだ、不自然に眉をかいて目線を塞ぐ以外防御策がない。しかも、動かない。
「もしかして、君が見張り?」
「はい! 目はいいほうなので。」
「……あっちの山の頂上に野犬いるの見える。」
「……見えます。」
「いないよ……。相手してこいって言われたわけ?」
「アハハ、いや、そんな、自主的? ですかね?」
「この広場の光景で、なんでそんな流れになるか。」
「ハハハ、ですねよー。……でも、みんな不安がってて。となり座ってもいいですか?」
「いいけど。」
キャバクラか? そして巨大マシュマロがさらに接近して、もう目線が泳ぎまくる、これではまったく見張りの意味がない。
「みんな、ちゃんと感謝してます、助けに来てくれて。」
「これで、助けたと?」
「来てくれなかったら、たぶん朝までもたなかった。」
「通り道だっただけ。」
「それでも! 見過ごす事もできたのに、命がけで助けてくれた。」
やめて理性が吹き飛ぶようなこと言いながら接近してくるな、このマシュマロめー、それに命がけではない。一方的で的を撃つのと変わらない、試し打ちの延長のようなものだ、しかも逃がした。苦労したわけでもないので、達成感もない。それに、目線を遮ろうと手を少し上げると、驚いて上半身が動かせる目一杯の所まで逃げる。
「す、すいません。」
「そんなに、怖いなら、ここにいなくていいよ。」
「いや、あの手をつないでもいいですか?」
「ん? 子供か?」
「いや、先輩に怖いお客さん来たら、手をつないでもらって、それでもだめなら、ギュってしてもらうといいって。」
「怖い客、そっかサオリのテクニックか。」
「先輩に町で会ったんですか?」
「昨日までサオリの宿に泊まってた。」
「えぇ! 男は泊めないとかいってたのに、何日泊まってたんですか?」
「四日ぐらいかな。」
「ふーん、先輩と四日、いいないいなー。私もそれぐらい先輩を独占したいです。」
「女の子にも人気あるのね……。」
「そりゃもちろん、すごい気遣いできるし、ちゃんと優しく叱ってくれるし。サオリさんいるとホールも凄い賑やかで、すごい盛り上がるんですよ。……私が後を継いで盛り上げていくはずだったんですけどね、実力不足を思い知らされますよ。お客さんもどんどん減って、それで今回のお祭り遠征してみたんですけど、こんなことになっちゃって、私生き残ってしまって、どうしたらいいんだろう……。」
「大丈夫、大丈夫。サオリなら言うだろ。」
「そうですね、先輩よく言いますよね。」
「それに、俺が生きてるのは君が手配書を貼り忘れたおかげかもしれないしな。」
「えぇ! 賞金かかってたりするんですか?」
「そうだよ、俺の首を飛ばせば町一つ買えるらしいぞ、斧とってくるか。」
「そそそ、そんな事しませんよ。」
「そうか、残念。」
「なにが残念なんですか。」
そう言って可愛い声で笑いだす、すこしふっくらとしたその顔もかわいらしい。うん、いままで顔見ていなかったらしい、恐ろしい谷間の魔力。
「そうだ、明日町に戻ったら、先輩にまた会えますよ、しかも村を救った英雄として。あの先輩が、なんでもしてくれますよ!」
「それは、無いかな。喧嘩別れになったから、町までいったらすぐ引き返すよ。」
「先輩と喧嘩したんですか?」
「なに、実はサオリもすごい剣の使い手とか、拷問が得意とか?」
「それはないと思いますけど。先輩って、男の人を手の上で転がすタイプじゃないですか?」
「まぁ、たしかに転がされるのも楽しくなるぐらいかも。」
「そうなんですよ、先輩が誰かと喧嘩したところって、そもそも怒ったとこも見た事ないですからね。」
「そうなのか、かなり膨れたり怒ったりしてたような……。」
「それだけ、本気ってことじゃないですか? 先輩ってお客さんにタイプかもーみたいな態度とるけど、大好き! ってとこは見た事ないし、本人も言わないしなぁ。前に、先輩はとんでもなく危険な人を好きになるって占いで出て、みんなでそんな気がするって、当たりましたね。」
「危険の意味が違う気がするけどな。」
「貴方はどうなんですか、先輩の事どう思ってます? もう一度抱けるなら、どんな困難でも引き受けよう、ぐらいないですか。」
「突然、ポエムみたいになってるけど、時間が立てばなんとか忘れられるんじゃないかと……。」
「ほんとに? じゃ、今私と出来ます?」
「今は、無理かなぁ。」
「ほらー、明日素直に謝って仲直りしたほうがいいですよ。」
もうすっかり、俺に対する恐怖も、下の広場の事も忘れてしまったようだ。仲直りして、もう一度最後の別れをやり直すのか、そんなつらい思いをするなら、もう二度と会わないほうがいい。




