魔獣ハンターとして32
まさしくドナドナが聞こえてきそうな田舎道を、のんびりと進む。見晴らしがいいので、自動運転モードに入った荷馬車は眠気を誘う、せめてラジオ付けてもらえばよかった。そんな居眠り運転をしていると、荷馬車が止まる。前を見てもバンパーのへこんだ車がいるわけでもなく、不思議に思っていると、前方から馬を飛ばし誰か向かってくる、手をふりなにか叫んでいるようだ。追手が来るとしたら、後ろからだろうと思いながらも、すでに用意してあった弓を手にとる。
よく見ると、どうやら4匹ほどの野犬に追われているようだ。野犬といっても、馬よりすこし小さいほどで、狼と変わらない。何処かの酒場で、野犬の群れの話は聞いたことがある。大きい時は50頭を超える群れがかなりの速度で襲ってくる、討伐には人数が必要だが、数さえ揃えれば難易度は高くない。リーダーの一頭が倒されるまで、ひたすら襲ってくるので、最後に残すと全滅させるのが容易だと。
4匹で終わってくれることを祈るしかない、助ける義理はないが、次に襲われるのは間違いなくこちらだろう、一発外したが野犬を仕留める。
「助かった、ありがとう。」
息を切らせながら、さわやかな青年が礼をのべる。毎度の事だが、モテそうな男は嫌いだ、一緒に撃ってしまえばよかった。そんな事より、今は情報がほしい。
「4匹で全部なのか?」
「いや、もっといる。」
「どこに?」
「この先の村だ、祭りがあったんだが、昨日の夜群れが入ってきて、俺は朝まで馬小屋に隠れて、隙をみて逃げてきた。町にいって助けを呼んでくる、あんたも町にひきかえせ。それじゃ急ぐんで、本当にありがとう。」
引き返すって、それが出来れば苦労しないんだよと、八つ当たりしそうになるが好青年はさっそうと馬を走らせ町へと戻っていく。矢を回収し、野犬のいる西の村をめざす、助けを呼ぶと言うことは村にはまだ生き残りがいるのだろうか、祭りで酔っ払っていたとはいえ、一方的にやられはしないだろうから、のこりは2~30ぐらいだろうか、高台から狙えれば勝機はあるだろう。
馬には申し訳ないと思いながらも、なんとか明るいうちに村が見えるところまで到着する。峠を越えたその場所は、ふもとの村がよく見える。目をすこし望遠にすると、確かに犬たちとすでに助からないであろう人達が見える。野犬のほとんどは、村の中心にある小さな教会をかこみ、数匹は扉に体当たりしている、やはり魔物達は知能が高いようだ。数は30以上、それにどれがリーダーか分からない、この距離ならこちらには気が付かないだろう、矢は新品含め100本以上ある、半分外しても大丈夫、大丈夫。
キバをむき出しにしていた野犬達も、仲間が少しずつ倒されていき不安になったのか、足を止め周りを見渡す動作が多くなる、止まっていればさらに仕留めやすくなり、体の大きな数匹を残し数を削っていく。残り数匹となったところで、どうやらリーダーを仕留めたらしく、一斉に森へと逃げ込もうとする、全速で動く的に全弾当たるはずもなく、3匹逃がしてしまった。
村まで下りていく頃には日も落ちていて、教会に立てこもっていた人達だろうか、通りへ出て来て遺体の側に力なく座り込んだり、抱きしめたり、突然の別れを惜しんでいる。誰も俺の死を悲しまない場所で死にたい、俺が望めるのはそれぐらい、寂しい死に方だがそれが俺の希望だ、考えるとなぜか胸がむかつく。
教会の横に荷馬車を止めると、足早に数人が近づいて来るが、俺より少し若い青年を除き一定距離で止まる、さくらの村で槍を持った村人に囲まれたの思い出す、手に武器をもっていなくても、警戒する距離はだいたい変らないようだ。青年は手に矢束を持ち、緊張した顔で近づいてくる。
「……これを、ありがとうございました、村長代理です。」
「村長は?」
「昨晩、野犬達に……。」
「そうか、3匹逃した、通りにかがり火を、俺は教会の屋根に上る、後で目のいい奴を見張りによこしてくれ。」
「分かりました。」
自分の声が、とても乱暴に思えた。助けたくせに、今は誰かに近づいてほしくない、あの晩のサオリの矛盾した行動が少しわかるような気がする、彼女に会え無い寂しさでで心が締め付けられるが、その痛みが続く間は、彼女の事を身近に感じられる、忘れたくないが、痛みが続くのは本当につらい。
屋根に登るともう通りにかがり火が置かれていた、野犬達はもどってこないかもしれないが、暗闇であのサイズに襲われては反応のしようがない、警戒していてもそんはない。
少しして、村長代理が屋根に登ってくる。
「かがり火設置しました。」
「ありがとう。」
「いいえ、救援早かったですね、それに町に弓使いの方がおられるなんて知りませんでした。」
「俺は、ただの通りすがりだ。町とは関係ない。」
「えぇ! そうなんですか……。」
「心配すんな、村の有り金よこせなんて言わないし、朝には消える。」
「……助けていただいて、さらに頼みごとをするのは申し訳ないのですが。実は、村の神父も負傷し薬も底を付きかけておりまして、動かせる重症者と歩けるものを明日町まで護衛していただけないかと。」
「出来れば町へは近づきたくないんだが。」
「……昨晩の襲撃で村の馬は残っておらず、戦える者もわずかしかおりません、なんとかお願いできませんでしょうか?」
「……はぁ、分かったけど、町の人間に俺だとバレると困るから、俺はすぐに引き返すけどいいよね?」
「……わかりました。」
ぞろぞろと町までいったら、家族や知り合いが心配で迎えにくる、かなりの確率で見つかる。あんなに手を振って見送りしてもらったのに、一日で戻ってくるとか勘弁してほしい、ため息が止まらない。




