魔獣ハンターとして29
翌日は朝から、サオリの機嫌がいい。間三日とか言える状態ではない、まぁキスで気絶するぐらいなら、そこでやめればいいし、なんとかなるだろう。
何もすることが無いので、サオリに相談すると、真面目な顔で子孫繁栄の為などといいだし、母親に怒られている。ちび達といっしょに収穫を手伝う、サオリの母に慣れてるねぇやったことあるみたいと褒められ、少し前に村でやってましたと口を滑らせ、小さい時にと誤魔化す。サオリの疑いの目線をひしひしと感じるが、気のせいとだと思うことにする。
夜になり、控えめのノックに不安になりながらドアを開ける。薄いシャツを羽織っただけのサオリが立ったまま、目を合わせずに何も言わない。
「あのさ、三日空けてって意味だったんだけど……。」
「あ、そうなんだ! 大丈夫、大丈夫、アハハ、じゃ明日ね。」
そう言うと、小走りに部屋にもどっていく、その後ろ姿は理性が飛んでしまいそうなほど色っぽい、しかし命を奪う危険がチラつけば、なんとか止まれる。
反則だ、ちょっと大きめのシャツの下部分、細い足と布の境目が目に焼き付いてしまい、中々眠れない、さっきのちょっとしおらしい態度も男を誘うテクニックの一つなのだろう、演技だ演技そう言い聞かせて羊を数える。静かな部屋は時が止まったようで、なかなか眠れない。
朝になると、もう当たり前のようにちび達がごはんいくよーと可愛い声をかけ、小さな手を引き食卓へと誘導してくれる。今日は昼から市が立つから、午前は収穫してみんなで出かけることとなった。
午前の収穫が終わりかけたころ、鍛冶屋の親父さんが荷馬車でやってくる。畑仕事をしているみなに挨拶し、俺を手招きする。皮と薄いプレートの籠手を取り出し、これは言い訳用で、数本試作してみたので試し打ちしないかと、小声でつぶやく。うなずいて、籠手の内側を守るようにすこし改良してほしいというと、なるほどとうなずく。矢を放った後、まれに腕の内側近くを通り綺麗なみみずばれを作る、それを防ぐ為だがあからさまにそれだけ付けていると、弓使いとバレてしまう。籠手と一緒になっていれば、ちょっとは偽装できる。
籠手の調整に行くので、市へはいけないと説明し、荷物を担いで玄関を出ようとすると、サオリが腕をつかむ。
「なんで、それもっていくの?」
「そうだ、そうだ、なに入ってるんだー。」
ちび達も一斉に抗議に参加する。木箱は仕掛け細工となっており、簡単には開かない、中身はもちろん分解した弓と矢が入っているので、見られるわけにはいかない。
「お金と、自家製の惚れ薬がはいっているのです!」
「おー、ほれぐすり! ってなに?」
冗談のつもりだったが、ちびは思いのほか食いつく。
「異性をメロメロにする薬だよー、サオリも薬でおとした!」
ちびは、おーと歓声を上げ、サオリは目を細めあきれたと顔に書いてある。夕飯までには、帰るねーとちびをふりきり、親父さんの荷馬車にのる。ぱっと見、かわいい嫁と子供達だなと言われ、苦笑いを返す。そんな幸せは、俺には訪れないないし、それを望んでいるのかどうかもわからない。
街はずれまでいくと、すこし谷間になっており人もいない、矢を外しても斜面に刺さるので試し打ちにはもってこいの場所だ。親父さんがもってきてくれた板を立て、とりあえずいつもの矢を3本放つ、魔力を込めずに放った矢は、縦一直線に等間隔に刺さり、親父さんはすごいもんだと感心している。30mほどなので、数週間のブランクでもこれぐらいの精度はでる。矢を回収し、先がとがった鉄の棒を魔力を込めて撃ちだす。低い轟音と共に、板の右側に1メートルほどの穴が開く。
「親父さんこれって、なにかしたの?」
「あんなに金もらったから、すこし魔力を含んだオイルで叩いてみたんだが、調整が必要かな。」
「調整って、魔力で変わるもんなの?」
「矢は初めてだが、剣は特に差がでる、それぞれ個人に馴染む魔力の属性があって、何度も調整が必要だが、木の葉一枚ほどの軽さで振れるようになる。本人の技量にもよるけどな、あんたの居る宿のねーさんとかそれなりの使い手だぞ。」
「それって、さっき俺を見送ってた人?」
「いや、もう一人のほうだな。」
サオリの義姉さんのほうか、たしかに酒場に子供連れてきたとか言ってたし、よく考えればあの家の中でも色々と安定している人なのかもしれない。
その後、20本近く太さや魔力の属性の違う矢を試してみた。いままで使っていた矢よりも、かなり早く魔力が込められる、そしてブレが少ない属性もわかった。細めの属性の合う矢は、魔力を込めなくても木の板を軽く撃ちぬく、それはもうライフルの弾丸が撃ちぬいたように、すこし焦げていた。
羽が要らない分、箱には大量に入るが流石に重い。親父さんが言うには、魔力を込めた矢はかなり丈夫なので、簡単には曲がらないらしいので、細く作ってもらいまた明日試してみることにする。
定宿まで送ってもらうが、誰も帰っておらず鍵が開かない、さびれていても村とは違うのだ、誰でもいつでも入ってくる平和な村が懐かしい。
夕方近くになって、女性陣を乗せた荷馬車が帰ってくる、ちび達が真っ先におりて、ヒローと叫びながら飛びついてくる、本当にかわいい。娘かわいさに突然仕事しなくなった先輩を思い出す、可愛すぎて仕事が手につかんと呟いていたが、突然仕事を辞めてしまった先輩、今どうしているんだろうか、ちょとだけ気持ちが分かる気がします。
そして、今まで特に気にしていなかったが、義姉さんが剣を持って荷馬車を降りてくる。よく考えれば、家の中でもその剣は壁に飾ってあり、彼女はいつもその近くに座っていた。
「ヒロさん?」
「はい。」
珍しく義姉さんに声をかけれて振り向くと、腰から喉元まで体に沿って剣の刃が押し当てられている。
「今、私の剣見てたよね、鍛冶屋の親父さんに何か聞いた?」
「……いえ、義姉さんにも剣を作ったと……。」
「うちの人には内緒にしといてね、それと可愛い妹を泣かせないでね。」
「はい、もちろん。」
「うん、よかった。」
笑顔が怖い、女性はみんな演技が上手いのだろうか、今まで出会った女性達も実は酔った演技だったのかもしれない、そう思うとすこし寒気がする。その後、みなで夕食を囲むのだが、ちび達にいじくられ、義姉さんの一見おしとやかな風貌に気をとられて、サオリの変化にその時は気が付いていなかった。




