魔獣ハンターとして25
逃げ出すには今しかない、いやもうずっと逃亡生活なのだが、逃げよう。自分でも何をしてるのかわからないが、今までの高い宿代の倍程度をテーブルにおいて、荷物を背負いそっと玄関をあけようとすると。
「ひ~ろ~。」
「うわ、怖!」
「逃げるなー。」
そういってサオリが、ドア影から出てきて抱き着く。
「ごめん、ちょっと冷静になると、無理かなぁ~って。」
「そう……だよね、実はね酒場の部屋は若い女の子達が抑えててね、私達みたいに手伝いに行く人は、チップで稼ぐぐらいなんだ。お願い、お風呂と部屋だけでも!」
「わかり、ました。」
「やった!」
その明るい笑顔は普通にかわいい、なんだろうこの寸止めは。まぁいいさ、傭兵のおじさんに教わった秘伝はどうやら本物だ、次の手配書のない町までいけばいい、もちろんそんな町があるかどうかも、たどりつけるかどうかもわからないのだが。
余計な事を考えていたせいで、大事な事を忘れる。サオリがテーブルの上のコインの山を見付けて、驚いている。
「こんなにー! 義姉もつけようか?」
「ちょっと、離れて、風呂は?」
「アハハハハ、そうだった、行ってくる。」
そう行って再度奥へと消えていく。いま逃げ出したら、酒場で別の子を選んだと宣言するようなもので、気が弱い俺はそんなダメージにはたぶん耐えられない。だから、しかたない、たぶん、誰に言い訳してるんだろう。
しばらくして、サオリが準備できたよーと呼びにくる。案内された先には、広くは無いが露天風呂があるではありませんか。今までいろいろな町を点々としてきたけれど、宿に風呂があったことなどない、桶に湯を一杯渡され部屋に自分で持っていく、風呂は貴族やお金持ちの楽しみであって、川沿いに温泉があるなんて村はまれなのだ。
昔はこの家も宿屋だったそうだが、こんな辺境の町に来る人も減り、街はずれの宿は、住んでいる当人達ですら宿であることを忘れかけているらしい。
久々に足をのばして肩まで入れる風呂に感動する、村の近くの温泉は広いが浅かった。そして、あたりまえのように全裸でサオリが入ってくる、ウエストが、くびれがすばらしい、服の上からでも抱いてみたいが、服はきていない。
「ヒロ、あきらめろー、ここは混浴だ!」
「たしかに、分かれてなかったけれでも。」
「あぁー、お風呂いいよねー、手間かかるから滅多に入れないんだよねー。」
そういって、湯に入り手足を広げる、そんなに広くはないので、よけないと当たってしまう。なんなんだこれは、なんかの修行か、寸止めを楽しめるほどの余裕のある大人になりたい。
「ヒロー、服は洗濯しときましたからー。」
「そうなんだ、ありがとう……、まって、あれ一着しかないんだけど、なんか服貸してくれるの?」
「残念、そんなサービスは無いです。」
「だったら、洗う前に聞いてほしかった……、乾くまで全裸でいろと?」
「大丈夫、大丈夫。そして、部屋はいっぱいあるけど、ちゃんと掃除して泊まれる部屋は無いので、私と同じ部屋です。」
「おい!」
「いいじゃん、もう、ちび達もたぶん寝たし、しばらくしたら兄さん達も一回して寝るから。」
「知らん奴泊めてるのに、するのか。すごいな、俺もそれぐらいの根性がほしい。」
だめだ、俺にはそんな度胸がない、基本的にノーマルな男なのだ、こないだの姉妹相手は事故扱い。まったく希望がないわけではないが、今はこの星空を全裸のおねーさんと……、気のせいかなんか悩ましい声が、これは義姉さん? とりあえず、会話だ。
「さっき、なんで逃げるってわかったの?」
「うーん、私って実は、こないだまであの酒場に住んでたんですよねー。」
「それって、そういうこと?」
「そういうこと、だから沢山の男の人を見てるわけで、嘘ついてる男の人ってわかっちゃうんですよねー。ヒロみたいな反応の男の人が商人だっていいはってたけど、しばらくしたらその人の似顔絵が酒場に張られたりして。ヒロは大丈夫かなぁ?」
「な、何のことかな?」
「今日来た、商人の荷馬車隊は常連でまた来た町に戻っていくわけですが、ヒロはこっからどの方角にいかれるのですかねー?」
「なぜ俺が尋問されてるのか分からないけど、西の方かな。」
「なるほど、なるほど、西の村方向。西以外の荷馬車隊も次くるのは、たぶん一か月以上先ですが、歩いて?」
「そうかな。」
「ほう、ほう、魔物がでるかもしれないのに、歩いて田舎道を一人で行く? ふーん。そんなに一つの町にいられない、ふーん。」
やってしまった、もう誤魔化すとかそんなレベルの問題ではない、なにか言い訳を考えなければいけないが、明らかに気のせいではない音量のあえぎ声が聞こえる、もう全然頭が回らない。
「ヒロ、嘘ついたのは許してあげるし、手配書なんて何とかしてあげるから、しばらく私の部屋に泊まっていったら?」
「もう、言い訳できないか?」
「そうそう、大丈夫、大丈夫、あきらめていいんだよー。」
そういいながら、サオリがゆっくりと抱きついてキスをしてくる。あっさりと、あきらめてしまいました。たぶんこうなるんじゃないかとは思ってたというか期待してたけど、自分の意志の弱さに、ほんのちょとだけ後悔する。




