魔獣ハンターとして20
息を切らせて、ひたすら逃げろと言うさくらをなんとか落ち着かせる。
「ちゃんと説明して。」
「ごめん、ちょっとキレてしまって。」
「……まぁいつもの事? それがどうつながる?」
「……その、お店で指輪見てたんだ、そしたら兵学校の時一緒だった男の子と久しぶりに会って、婚約したって言ったら、全然信じてくれなくて、すごい馬鹿にされて。すごい仲良かったのに、あんなこと言うなんて、結局店の外で軽くボコボコにしてやったんだけど。」
「……すこしは手加減してやれよ。」
「ちょっと無理……だった、それで。私の婚約者は赤目も倒せる弓使いだって! その、馬乗りで殴りながら叫んじゃって。」
「……それはやばいけど。そんなの、信じないんじゃないのか?」
「それだけなら、信じないと思うんだけど、これ。」
そういってさくらが腕に巻いた赤い布をほどく、そこから取り出して見せたのは狼の牙、これは俺が仕留めた、しかも大型の方のやつ。
「小型の方じゃなかったかな?」
「ごめん、すり替えた……。戦ってる間に落としたみたいで、やたらでかい傭兵に婚約者はどこだって、旅に出たって言ったけど、たぶん信じてない、すぐに村に来ると思う。」
どうする、逃げるといっても行くところなんて無いし。壁に掛けた弓が目に入る、向こうは首を跳ねようとしているんだから、抵抗しても……。
「だめ! たぶん5人以上で来る、結構大きい傭兵団の入れ墨してたから、もっとかも。それにね、こないだは殺しちゃっても大丈夫って言ったけど、やっぱりヒロが殺す気で人を殺したら、やっぱり怖いの、私もいまのままではいられない。」
すでに殺してしまっているのだが、こっちに来てからは人は殺してない、そもそも騒音バイクもいないし。そんな事を、信じきっている小さな婚約者に言えるはずもない。
戦うにしても人相手の場合、剣が届く距離まで詰め寄られれば勝ち目はない、村の子供にも俺は剣では勝てない遠距離専門キャラなのだ。弓相手となれば盾を持ってくるだろうし、囲まれてしまえばそれまで。なによりここで傭兵団を一人でも殺せば村が戦場になるだろう、さくらが鍛えているとはいえ、プロ相手ではどうしようもない。
村長もやってきて、何度も謝る。そもそも追われるのは、俺の責任だし、しばらくベッドで安心して寝られたのは、貴方達のおかげだと。うまく伝えられただろうか、正確には覚えていない。
荷物をまとめる、といっても矢と矢筒をしまう箱とそれに収まる小物とお金だけだ、向こうで生活してた時のように荷物が日々増えたりしない、ずっとここにいられないと心のどこかで分かっていたのかもしれない。
村の男性が走ってきて、村長に傭兵が来たと伝える。呑気に別れを惜しんでいる時間は無さそうだ。
「お世話になりました、本当に迷惑をかけて申し訳ない。」
村長は必死に首を横に振る。
「そんなことはない、守ってもらったのに、何も出来ない。すまない……。」
「借りがこのってるのは、こっちの方です、お元気で。」
すこししゃがんで、今にも泣きそうなさくらの頭を撫でる、これが最後かと思うと胸が苦しい。
「ごめんなさい。」
「もう謝るな、最後の言葉がそれでいいのか?」
いつものように首に抱き着いてくると、
「絶対に、何をしてでも、死なないで。」
そうつぶやくと、手を緩めて唇に軽く口付けをする。
「さくら、なにする。……大丈夫か?」
「うん、大丈夫、ちょっとクラクラするけど、これぐらいのダメージなら、もっと前にしとけばよかった、アハハハハ。」
いまにも倒れそうにふらつき村長に支えられる、その顔はまるで眠気を必死にこらえているようだ。
そして少しだけ力無く手をふる。
荷物を背負い歩きだした俺はまだ迷っている。もう村には戻ってこれないとしても、傭兵達をどうするか、決めなければいけない。




