魔獣ハンターとして9
胸に強烈が痛みが走り、目が覚める。
「さくら、よせ、目が覚めるまで待て!」
「起きた、よ。」
村長の声に答える、ここは村の俺にあてがわれた小屋のようだ。村長がさくらを抱き上げ、目を大きく広げ嬉しそうな顔で見下ろしている。
「ヒロ!ヒロ!!」
嬉しそうな声を上げ、さくらが胸に飛び込んでくる。先ほど以上の激痛が胸に走る、そうかこうやって起こされたのか。
村長に再度抱き上げられ、体をよじらせて逃げようとするさくら、じゃれる大型犬のようだ。
「さくら、旦那様にお酒持って来てくれるか。」
大きくうなずくと、村長の腕からぬけだして、勢いよくドアから出ていく。村長に聞きたいことがたくさんある、さくらにはすこし席をはずしてもらおう。
「なんで……」
「なんで、生きてるのか? 生かされてるのか?」
「そうだな。」
村長は少し頭をかいて、ベッドわきの椅子に腰かける。
「確かに、普通の辺境の村なら、そうしていたかもな。」
「なぜしない?」
「すこしだけ、昔話を、いいかな……さくらが生まれる前に、一人の賞金稼ぎが村にやってきくる、魔物が襲ってきたら守ってやると、やさしい笑顔に村に溶け込んでいく。最初はよかったが、次第に態度が大きくなる、酔って人を殴り、女には手をだそうとする、みんなで相談して殺した。そこまでは、まぁ分かりきった話だったんだが、その後で村内で殺人が連続した。夫婦喧嘩や酒を飲んでの言い争いが、殺しにつながるようになったんだ。」
「殺しは癖になるか。」
「そうだ……」
分かるさ、死んでしまえいい、殺してしまえばいい、考えるだけならいい、だが実際に殺したあとは。こいつも死ねばいい、あいつも殺してしまえばしい。その考えた方の差は大きい、どうやって殺そうか、そればかり考える。話して分かってもらおうなんて、選択肢から消え、態度や顔に現れ、さらに殺意を呼ぶ。
「罪人は大抵村の中で処分、つまり……処刑してたんだが、このままでは、最後の一人になるまで魔力にのまれると、捕縛した罪人は領主様へ引き渡したんだ。それ以来、殺人は無い、連鎖の恐怖を知ったからな。」
「それで俺が生きてるのか。それで、魔力にのまれるってのは?」
「そうか、本当に最近めざめた夢者なんだな。」
「……まぁ、それでいい。」
「神父様の教えだよ、女神様の保護を離れ、闇に染まる。教会の教えに背くような行いをすれば、魔力を抑え込む事ができなくなり、怒りや憎しみを抑えきれなくなる。そんな状態を魔力にのまれるっていうんだよ。」
「良い事は、神様のおかげで、悪い事は、祈りが足りないから。神がかった説明は、あんまり好きじゃないんだがな。」
「きびしいな、夢者は無神論者がおおいと聞くが本当だな。」
「今まで会った宗教がらみの人間は怪しい奴がおおくてな、ちゃんと信じられる人が羨ましいと思うこともあるよ、なんであれ信じきると決めてる人は尊敬するよ。」
「それはよかった、威張れるほどの信徒でもないんだがな、布教活動は教会に任せるさ。」
「……でも、あのでかい狼を倒した後、なんか俺、殺されそうじゃなかった?」
「あれは、弓使いは遠距離から最初の一撃をくらわせるだけって聞いてたから、あまりにも違い過ぎてな。」
「俺以外は見た事ないの?」
「無いな、本物の弓使いなんて国に一人いるか居ないかって言われるぐらいだから、大抵は偽物だな。魔獣狩り専門って旗上げて各地を巡るグループとかが、飾りで一人弓を持ってたりするけど、子供以外は本物だなんて思わない。」
「それって、もしかして俺のことも、詐欺師か痛い奴だとおもってたの?」
「ごめん、なんていうか、あの時は、弓使いにあこがれてるいい歳したやばい奴? とりあえず縛り上げて衛兵に渡そうかって話になりそうだったんだよ。だけど、さくらが持って帰るとかいいだしてな。」
「ペットか!」
「魔物の報告もあったし、一人でも男手が欲しかったから、いやほんとすまん。」
「気まぐれでも、衛兵に渡されるとこ救ってもらったみたいだし、感謝します。」
衛兵に渡されてたら、今頃俺の頭は胴体と繋がっていないだろうし。
「やめてくれよ感謝するのはこっちのほうだよ、あのでかい狼と対峙してもひるむ事無く睨み付け、一歩も引かずに倒した。あまりの力に人間だとは思えなかったさ、とんでもない悪魔でも呼び出したのかと思ったよ。悪魔の言葉に耳を貸すなって言われてるけど、あんたが悪魔ならなんでも差し出せるとな。村のみんなも近い感じかな、村を救った悪魔か英雄が何を言うのか、期待して待っていたのさ。武器を置いて、歩き出すから煙のように消えてしまうのかと思ったら、小屋にもどって横になってるし、もうみんな混乱しっぱなしだよ。」
「俺は、報酬払うのがもったいないから、殺してしまおうって流れかと思ったよ。」
「あんただけじゃない、さくらもそう思ってたらしい、父親としてすこし嫉妬してしまうよ。あの晩というか夜明け前に、さくらに起された。俺の首に包丁を押し込んで、戻ってきた来た時にあんたを殺したら、村を焼き払うってな。」
「さくら……燃やすたぐいの脅し好きだな。」
「殺さないと言っても、まったく信じてくれなくてな、ほんと困ったよ。」
「完治するまで、檻にいれといてほしいぐらい。」
「それは無理かな……朝になってあんたがいないんで、村の男衆総出で後を追うことになったんだが、ついていくと聞かなくててな、家の柱にしばりつけて行ったんだ。一日してようやく静かになったって話さ、数日して村に血と獣の匂いが漂いだして、男衆の居ない村に魔物が戻って来たと、女達は数件の家に集まって祈っていたが、さくらはあんたが帰ってきたと言って走り出し、森に入っていったそうだ。」
「犬なみの嗅覚だな。」
「いや、俺も数日遅れでもどってきたが、あんたの服はすごい匂いだったぞ。」
「そうか、血の匂いだったと信じたい、もし俺が臭かったら、言ってくれる?」
「その話は置いておいて……。さくらと女達で村まで引っ張ってきて、傷口を縫って体をふいたそうだ。つまりこの村の女達すべてが、おまえの裸を見たということだ。」
「事実そうだったとしても、それは本人に言わないで上げた方が、気配りというかやさしというか、まぁいいや、それは置いおいて、どれぐらい寝てた?」
「一か月ぐらいかな、魔物の素材の心配をしてるなら、他の村の者だと偽って売り飛ばしに行かせたよ、今更だが良かったか?」
「いいけど、売れるのか。」
「運ぶの大変だが、全部売れるぞ。牙一つだけ、さくらが自分のだって持ってったけどな、いつもさくらがしてた赤い布にくるんで、ポケットに入ってたから、絶対にわたしの!ってな。」
「覚えてないな、小型2匹を倒したあと、村が見えるあたりまでの記憶がない、空間移動したのか。」
「いや空間移動とかおとぎ話でもないから、普通に歩いてもどって来たはず。狼2体の死体を見つけて、あんたの足跡をたどったけど、出血量からみて生きてる可能性はほぼ無いと思ってたよ。ほんとうに、予想があたらなくてよかった。」
すこし腕を持ち上げるだけでも、痛みがはしるし上手く動かない。わずかに見える左腕は包帯がまかれているが、どうやら傷はふさがっているようだ、かすかだが指に力は入る。ベッドで包帯でぐるぐる巻きの英雄、しかも大勢の女性に見られたって! つまり前回ボロボロになった時も……。




