モテキへ
それから数分がすぎ、今自分がどんな顔してるのか分からなくなるほど、ほほの筋肉がひきつった頃に二十歳ぐらいだろうかドレスの女性が声をかけてきた、耳元でアン様がお呼びですと。足がすでに自分の物ではないような感覚に見舞われているが、動けるだけましというもの、小柄な線の細い女性の後をついてく、ドレスを着ているということは招待客だろうか、飲み物を配っている多数いるメイドさんは決まった制服のようだし、消去法でそうなるのだが、招待客にしてはかなり若い。
しばらく歩き、奥まった部屋へと案内される、中に入るとテーブルにシャンパンとグラス、奥の部屋には大きなベッドが見える、豪勢なスイートルームに見えるがゲスト用ベッドルームだろうか、アンがこんなとこに呼ぶということは、なんだか読める展開だな、しかし男女が入れ替わっても冷えたシャンパンなんだろうか。
「お疲れ様でした、大変でしたよね、そちらへ。」
そういって、ソファーを指す。ありがたい、うずもれて横になりたいぐらいだが、うなずいてそっと腰かける、ほどよい硬さのソファーなんという幸せ。
「もうしゃべっても大丈夫ですよ。」
「あぁ、あれ、そうなのですか。」
緊張しているのか、声もうわずり言葉使いもおかしい。
「そんな緊張しなくても大丈夫ですよ、私はそんな身分高くないですから、靴ほどきましょうか?」
「いや大丈夫、自分でやります。」
そういって靴に手を伸ばしたものの、足が上手く曲がらない上に、シークレットシューズのおかげで遠い。
「すいません、お願いできますか?」
「はい。」
そういって笑顔を見せ、靴紐をほどいていく、貴族にお付きの人が必要な理由が分かった気がする、パーティーも戦場なのだ、この服や靴も鎧なのかもしれない。重たい靴が外れ、だいぶ軽くなったと油断していると彼女がベルトに手をかける。
「ま、まった、なに?」
彼女は不思議そうな顔をする。
「足のマッサージを。」
「いやいや、それは……。」
「そのままで、立ち上がれますか?」
彼女の言う通り、足に力が入らず立ち上がれない、俺のあきらめた顔を確認すると彼女はズボンをぬがしにかかる、シャツと下着だけでソファーに座り、足全体をマッサージしてもらう。やはり断ればよかった、若い女性に直接足に、特に太ももとか触られるのは、かなりやばい、いくら気をまぎらせようとしても、反応してしまう。彼女も気が付いているのか、見ないふりをしてくれているのか、どっちにしても気まずい。
「知ってますよ。」
「な! なにをかな?」
「赤目討伐の弓使い、女達があこがれる英雄。」
「英雄って、そんなにいいもんじゃないと思うんだけど。」
「やっぱりそうなんだ。」
しまった、ひっかかった。アンは俺を隠していたのか、山小屋でひっそりと暮らしているほうが安全だったのかもしれない、余計なお願いをして、アンも自分自身も危険にさらしてしまったのかもしれない。
「大丈夫ですよ、人に言ったりしませんから。」
「それは、助かります。」
「噂になってたんですよ、赤目討伐の話は伝わってきても、詳細がさっぱり。討伐場所で生き残った兵に聞いても、矢の刺さった魔物の死体を見たぐらいしか情報でないし。誰か優秀な傭兵でも雇ったのか、それとも貴族の中に弓を使える人がいるのか。とか?」
「は、は、傭兵ねぇ。」
「どちらも現実的ではないですよね、あのクラスの赤目討伐できる傭兵団なんて聞きませんし、この国に魔物討伐できるほどの黒の魔力もった貴族なんてあの時は国内にいなかったはずですし。誰かが優秀な弓使いを隠してるんじゃないかって話になって、あとはそんな力持った領主様といえば……。」
「えっと、なんて言えばいいのか。」
「回りくどくなっちゃいましたけど、いいですよって事です。」
「な、なにが、いいの? かな?」
「ずっと探してたんですよ、たまには私みたいな華奢で従順な相手は、いかがですか?」
デザートいかがですか? ぐらいの勢いで迫ってくる、これはモテキというやつだろうか、普段からモテまくるイケメンだったら丁寧に断ったりできるのだろうか、もちろん俺はそうじゃない。彼女の甘い香りに誘われて、細い腰に手をまわして抱き寄せた。




