戦場の記憶へ
アンの首から下が筋肉の塊と分かっても、動きがおんなっぽく感じれば、そう認識するらしい、そういえば女形とかいうもんね。変えられない、何も変わらないはずだったのだが、なんでもそうだが、永遠に変わらないことなんて、とくに人との付き合いでは、あり得ない、何度も痛感したはずなのに、いつのまにか忘れて、また後悔する。
ある晩ベッドが壊れた、どんなに丈夫なベッドだろうとあんな衝撃に耐えられるはずはない、魔力がなければ俺も死んでいたと思う。壊れた時は、二人して笑っていたが、替えのベッドを組み立てるのに人出が必要となり、アンが二人の女性を連れてきた、その態度から見て、アンの部下なのか指示を受けテキパキと動く、そして作業が終わり帰るのかと思った時、女性の一人が駆けよってきて話かける。
「あの、覚えておいででしょうか?」
ん! そんなにまじまじと見ていなかったが、ショートの二十歳ぐらい? だろうか、正直女性の年齢なんてわからない、服なんて、ほとんどジーンズにシャツというか、作業着みたいなんだし。なんにしても、記憶にない。そもそもこっち来てからの知り合いの女性なんて、あの花売りの子と、アンぐらいしか。これ以上間があくのは限界なので、すなおに謝って様子見とする。
「ごめん、ちょっと、わからない、かな?」
「そうですよね、前回の赤目討伐戦で救護班してまして、そのとき助けていただいて、そのお礼をお伝えしたくて、ありがとうございました。」
そう言って、深々と頭を下げる。救護ってことは、あの担架の女の子だろうか、遠かったし、あの時はみんな泥まみれで、人の判別なんて出来る状態じゃなかった。
「いやそんな、自分にもっと力があれば、被害を少なくできたのに、頭あげて。」
彼女が顔を上げると、頑張って見せてくれたであろう笑顔のほほを、涙が落ちていった。大勢の仲間を失ったのだろう、長い付き合いの人もいただろうに、命の軽い世界、自分なんかが生きてるのは、間違いじゃないかと、どこかで思ってしまう。
「貴方がいなかったら、家に帰れませんでした、両親や妹達にまた会うこともできませんでした。ほんとうにありがとうございました、私に出来ることがあれば、何でもおっしゃってくださいね。」
これは、なんだろう、とっても気分がいい、数秒前まで、凹んでいた気持ちが、みごとによみがえる。若い女性が、何でもって、これはもう、などと別の世界に思考がとんでいると。
「あ、奥様、すいません、では、もどります。」
と言って、名乗りもせずに去っていく、よくない、よくない展開だ。小説やアニメなどで、主人公がハーレム状態になる時、疑問に思う、死っとしないの、いや字が違う、嫉妬だ。いや、いまの自分には死が近い気がする。
「ヒロ~~~」
そういって、肩に置かれた手が、ゆっくりと肩を揉む。いや、肩の骨を砕こうとする。
「久々に、剣の稽古でもしようか。」
「いや、そんなことより今、奥様って……。」
「もう木刀は飽きたでしょう、真剣でやろうか。」
中途半端に話題をそらそうとして失敗、その後、剣に魔力を乗せる訓練として、ズタボロになるまで切り刻まれた。




