戦端へ
ケンの言う通り、馬ほどの狼が波のように押し寄せてくる。よほど矢で撃たれたのが気にいらないのか、荷馬車へむけ、綺麗な三角で突撃してくる。狼が陣形とか使わないはずなのだが、綺麗にくさびを打ち込まれる場面、のはずだったが、突撃までの数秒で柵を外し、勢いを右に流す陣形へ素早く変更。いきなりの前線崩壊は免れる、なかなか訓練が出来ている上に、優秀な指揮官がいるようだ。
その後は、左右に広がった陣を使って、囲んでいく。相手が人間なら、降参してくれる場面だが、獣は遠吠えで援軍を招集、その度に大小の波がやってくる。大きな3波目が到達したころには、乱戦となり、ほんの少しでも足を止めた前線の兵は、噛みつかれ投げ飛ばされる。緑の草原は、血に染まり、獣と人間が倒れ、墓場の上で戦っているようだった。
唯一であろう弓職も、先端を切ってしまった責任をとるべく、仕事をする。林の中を真っすぐ突撃してくる敵は、横移動に比べて狙いやすい。そして、魔力の込められた矢は、致命傷となる頭や、心臓などを外しても、どうやら動きが遅くなるようだ。先頭であれば、後続に踏まれるし、前線まで届いても味方の兵たちが素早く仕留める。乱戦になった後は、仲間に当てないようにするのに気をつかう。味方がこちらの射線を意識して戦ったりはしないし、どちらもすばやい。一瞬動きの止まる隙を狙い、近場の獣をしとめていく。
何匹仕留めただろうか、10匹を超えたあたりからは、よく覚えていない。何本撃ったかも、よくわからない、たぶん100本組だろう束を二つ使ったあたりまではよかったが、一度荷台に乗り込まれ、荷馬車の周りを逃げ回ったせいで、足元は矢が散乱し、何本かは踏んで折ってしまった。試合前の練習でさえ、こんなに撃ったことはないだろう、もうかなり前から右肩は上げるだけでも苦労するし、左腕も弓を離してしまうと、拾うことも出来なくなりそうなほど痛みが走る。
それでも、戦っている味方をすこしでも援護しようと、次の矢に手をのばす。自分でも驚いてしまう、話した事もない兵へこんな感情をいただくとは、今までにはない感覚にすこし戸惑う。彼らの話は理解できないが、声が聞こえないわけではないので、悲鳴はしっかりと耳に残る。
いっそ聞こえなけばいいと思うほど、罪悪感で押しつぶされそうになる。戦争のない魔物のいない世界で生きてきた俺を、彼らはどう見るのだろうか、思考を止め流されるだけで生きてきた自分は、何をすればいいのだうか? 今は彼らが一人でも生き残れるように、一本でもおおく矢を放つ。
どれでけ時間がたったのか、随分と違った場所に月が出ていると気が付く頃、ようやく残った狼が引き上げていった。勝利の雄たけびもなく、その場に座り込む。しばらくして、辛うじて生き残った人間が、深手を負った仲間を担いで下がっていく、ほとんどは肩を揺らしても返事がない。斧の大男の姿も見えない、何度か接近された時、彼が止めてくれた、どうやらその礼を伝えることはできそうもない。生き残ったからと言ってもこれはしんどい、長く過ごした仲間を無くしたりしたらと思うと、後遺症が残るのも分かる気がする。ケンは大丈夫なんだろうか、荷馬車に腰を下ろし、ちゃんと約束をしていない恩人を待つ。




