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夢者  作者: 高島 良
113/119

領主13

 翌日、反乱騒ぎで空き家となっていた館に今は存在しない傭兵村のメンバーが集まり、昔話をしながら浴びるほど酒を飲む、見知った顔ばかりだがいない奴もいる、結果が分かる事をあえて聞かなくてもいい。

 聞けた事は、カルは俺を処刑した町ごと灰にするところだった、ララがそれを止め今も東方の外交活動に駆け回っている事、それぐらいだ。

 持ち寄った料理や酒も底を付きかけた頃に知らせが届く。奴隷商の新頭目とアジトをフィール下町の酒場に特定と書かれていた。久々に出発の号令をかけると、待ってましたと野太い声がかえってくる。

 キヨやチャラ男よりも先に現場に到着し酒場を囲み降伏するよう号令をかける、手練れの傭兵達の罵声は……あまり上品な物じゃない、建物ごと燃やされると思ったのか10人ほどのごろつきが手を上げてでてくる、カルがきっちり尋問してやるから殺すなというので縛り上げているとキヨが到着する、その後ろにはフィールの全兵士を連れて来たのかと思うほどの大部隊、狭い通りでは後ろが見えない。いくらなんでも多すぎる。

 そしてキヨは弓を構えるとカルに向け武器を置くようにと馬上から叫ぶ、それを合図に兵達が一斉に武器をかまえる、元傭兵村のメンバーも武器を構える。


「キヨ、どうなってる、説明しろ!」

「主様、ご指示いただいた通りカル様の屋敷と出入りしていた奴隷商の館を全てしらべました、新頭目の指示を示すサインにはカル様の魔力の痕跡があり、私自身の尋問でもカル様が頭目との回答……間違いはありません。」

「カル……武器を捨てろ、距離は30mこの暗さじゃ避けれないし外さないぞ。」

「私を疑ってたんだ……。」カルは力なく視線を落とすが、剣は握ったまま。

「お前がいったんだろうが、久しぶりに会ったなじみは疑ってかかれと。説明しろ……。」

「……すぐに殺さないなら許してるようなもんじゃない、あまいんだから……。」


 そういって武器を投げると、傭兵達も武器を置く。キヨが兵を数人連れてやってきて、カルを後ろ手にしばり酒場に入る。


「……ヒロ、話を聞く気はあるんだよね?」


 カルは疑われたのがこたえたのか、肩を落とし声も小さい。ちらっと俺の後ろに立つキヨを見て、小細工はきかないとあきらめたのかため息をつく。


「怒りは無いと言えば嘘だが、それよりも混乱してる。素直なところ、説明してほしい。」

「……嘘はつけないし……失敗したなぁ、口止めの指示なんか出さなきゃよかった……昨日店を調べに行こうって着替えてる時から間違った手を打ってる気がしたんだよ。」

「将棋じゃないんだから……さっさと話せ。」

「……あせってまずい手を打って、さらにあせる感覚はアホなヒロにはわかんないよ。」

「天才の思考は俺にはわからん、カルいいかげんにしてさっさと話せ。」

「……最初は黒弓が出来た頃、盗賊達の動きを探る為に買収した内通者を送り込んだり、裏切らせたりして情報を集めた。ヒロに言わなかったのは……。」

「盗賊はすぐに殺すから……。」

「そう……集まってきた情報は、ヒロを殺す為なら金や私兵をいくらでも差し向ける、その数はとても黒弓だけで対応できる数じゃなかった。偽の情報や、傭兵を雇って襲わせたりして防いだ……でも、その元凶が山城落としてからは人身売買や盗賊にすこしでも関わったってそうならさっさと出かけていって貴族や商人を殺しまくるから、懸賞金もひたすら増える……。」

「……すまん。」

「あやまるぐらいなら、もうすこし相談するとか調べてからにしてほしかった……。結果としてヒロを恐れた奴隷商人から命乞いの手紙が届いて、鉱山での労働力や飢饉での口減らし等々必要悪だって。正直なところ王女だったときは散々奴隷使ってたし……、調べて嘘も無かったので売買とヒロへの暗殺者の情報なんかを送らせてた。そんな商人の数も増えていって、ヒロに刃が届く前に対応できる数も増えていった。ヒロが村を出て行ってからも、町で襲われないよう傭兵を雇って……守ってたんだ。」

「なんか……かんちがいしてる金持ちの子供のみたいだな……すまん続けて。」

「……全部防げたわけじゃない、何度か襲われたでしょ? 処刑された時だって、あの町にはヒロを守る為に何人かの傭兵がいた、それでも正規の兵から奪還するほどの力は無かった。ヒロがいなくなった後は、この国のすべての奴隷商人を調べて、その首を墓に備えてやろうって。」

「……生首積みあがった墓って……。」

「この世と別れる前の遊びみたいなものかな、調べ切る前にヒロが生きてるってわかって、フィールの領主になるって情報が入ってきたから、奴隷商の情報はここに集めて、ララとして王都でフィール候への援助が趣味の田舎娘を演じてた、これで全部かな。」

「……完全降伏みたいな態度だな……めんどくさいかなぁって聞いてこなかったけど、黒弓出来る前から結構金持ってなかった? 奴隷商人からのピンハネで手練れの傭兵を大量に集めたりできんやろ?」

「あぁ、それは……。」振り返ってキヨをみてから、視線を戻すとまたため息をついて話し出す。

「村の外れに偏屈なじいさん住んでたの覚えてる?」

「……いたな、家に近づいただけで杖振り回してつっこんでくるやつね……俺が村でるまえに亡くなったよな?」

「そう、あの人。あの家って村の一番森側、しかも魔物の多発する森の方にあったでしょ、そんなとこに一人で住めるくらいの手練れだったんだけどあやしいでしょ、暇さえあれば見張ってたんだ。そしたらある日、一人で森に入っていって、後を付けたらなにか実を集めてて、何かわからなかったんで力づくで聞き出した。」

「年寄り相手に容赦ないな……。」

「そしたら、カカオだって……。」

「南国の教会独占じゃなかったっけ?」

「その爺さんがいうには、まれに大地の魔力が合う所が会って自然に生えるんだって、魔物も好物なんて集まってくるらしいけど。」

「……確かに、土さえ合えば2週間で小麦が収穫できるとか聞いたけど……それで、爺さん殺してその稼ぎを乗っ取ったと?」

「そこまでじゃない……爺さん体力落ちてたから、森に入るのはいいかげんしんどいって言いうから、収穫やら輸送やら引き受けて儲けの一割を渡す約束にしたんだよ。」

「ノウハウ丸パクリでそんだけってひどいな。」

「危険な仕事だからって爺さんが決めたんだ。まぁ、私の耳なら魔物の森も危険ではないし、護衛で国境も越えるし……。」

「カカオってかなりの高値で取引されるんじゃなかったっけ? 俺が金欠の時とかあったよね? なんでだまってたの? てかどんだけ稼いでたの?」

「……他の物でなら言えたんだけど、ヒロにカカオを渡すのはねぇ……。やばい使い方して、さらに暗殺者増えそうだったし。」


 振り返らなくても、キヨがどんな顔してるかわかる……。


「なに?」

「いや、それで誰に売ってたわけ?」

「それは、もちろん教会。」

「いやいや、総本山から支給されるんでしょ?」

「それがね、かなり少ないらしいのよ。布教には必要なんで高値で買ってくれるわけ、もちろん大金積む貴族とかにも売るけどね。」

「その金で、奴隷商の組織をでかくしていったのか?」

「……わかるよヒロが怒るのも、でもね、若い女を堂々と嫁に迎えられる男はすくないし、それが町一番の美少女となればなおさら。力づくでものにしたり、さらったりする奴はどこにでもいる。……力を手に入れた元奴隷は奴隷を売り買いする側にまわって、守ろうとした……。」

「悪役の言い訳みたいだな……。」

「わかってる、全部がうまくいってるわけじゃない、トラブルもおおい。それでも、美少女が田舎やさびれた町にいるより、ヒロのとこに送り込んだほうが安全でしょ?」

「は? お前が館に?」

「偶然美少女が集まると思う? ヒロの所が一番安全だし手もださないと思ったから色々な手を使っておくりこんだわけ、敵対組織もヒロが潰してくれる流れにしたりして。」

「おまえなぁ……。」

「……わかってるよ、ヒロを説得できる材料が見つからなかったのも、姿を見せなかった理由だから。奴隷商を下につけたって言っても、商売敵の組織もいるし地場のマフィアや暗殺者も指の間をすり抜ける、キヨちゃんが手放しで喜べるほどヒロは安全じゃない。」

「……説得する気あるのか?」

「納得いくか分からないけど、組織の実力を証明するネタならある。」


 カルの拘束をといて、キヨと3人で二階に上がる部屋にはいると、一人の女性がベッドに横たわっている。服装からして高貴な貴族様、キヨが耳元で囁いた名前は反乱を起こした侯爵の妻で、各所に指示を飛ばした首謀者と疑われる人物。顔に疲れは見えるが目にはまだ力が残っている、あまり想像したくないがカルの拷問にも耐えたのだろう、今回の反乱は彼女が頂点なのかさらに別の人物がいるのか、そして今味方のふりをしている敵がいるのかどうか。


「弱ってそうだが、毒でもつかった?」

「私じゃないよ、追い詰められて、対自白剤とヒロやキヨちゃんに魔力を読まれないように魔法薬も自分で飲んだ、寿命が縮むのも承知でな。」

「あとどれくらいなんだ?」

「長くて一週間。」

「……カル、まかせる。」


 彼女にはもう親族はいない、誰が尋問しても結果はかわらないんだろう。カルにまかせるのは、最後の時がせまったとき女神に自殺と判定されないよう殺せるからだ、教会の信者達はそうする事で輪廻の海へもどれると信じているのだ。それを条件にして、真相を聞き出すのだからカルや俺のように教会を軽んじている人間にしか出来ない、残酷な仕事だ。

 カルが思いがけない行動にでるのは昔からだ、それでも殺したいと思うほどの怒りはおぼえない、素直に納得できない微妙な所にもっていく、人心操作が得意とはこんな感じなんだろうか。

 部屋をでたカルはまだ神妙な顔をくずさない、俺も余計な一言で判断を間違いそう……今日はもう何も言わないでくれと思っていたのだが、カルは奥の部屋を指さす。

 部屋に入ると、2段ベッドがずらりとならび子供達が寝ている、正確にはカルの合図でいそいで寝たふりをした子供もいる。カルが奥から一人の女の子を連れてくる、金髪にふっくらとしたほほに大きな目、姉妹なのだから当然なのだがそっくりだ。カルが合図するとベッドへともどっていき、俺達は部屋をでる。


「間違いないのか?」

「大丈夫、教会もそんなに遠くまで送れなかった、近くの町の孤児院にいたの。」

「ヒロ様、あの子は誰なんです?」


 キヨは意味がわからないのだろう、混乱した表情をみせる。


「あの子は、ミカンの妹だ。」

「妹がいるなんて一度も、それに魔力はまったく……。」

「あの子は、教会の善行、子供は殺さないって例のやつ。命が助かった代わりに記憶を消されて魔力の向きも変えられた、だから魔力の向きで人を判別できない俺みたいな夢者かそれに近い奴でないと姉妹だと気付かない。」

「いったいいつ気が付いたのですか?」

「ミカンは子供好きだが、孤児院まわりしてると金髪女の子を見る時だけ少し悲しそうな目をする気がしてね調べさせたんだ。妹がいたのは分かったけど、今いる場所は分からないから勉強だとかいって色んな場所の孤児院を回ってたんだ。あやしい奴隷商の親分にはバレてたみたいだけど……見つかる方が奇跡だって言われてたから、だまってたなだごめんな。」

「ですから、奴隷に簡単にあやまったりしないでください。それで……ミカンは、妹だとわからないのでは?」

「神父様が言うには、たぶん気付かない。……お互い気が付かなくても近くにいたほうがいいだろう。俺がミカンにしてやれる事はすくないしな、せめてもの罪滅ぼしって奴だな。」

「わかりました。」

「ねぇ、罪滅ぼしってなに?」


 先ほどまで、おとなしく肩をすぼめていたはずのカルが肩の骨をくだく勢いでつかみかかる。


「まさかとは思うけど、奴隷には手をださないって言ってたのに! 私には手をださなかったどころか、男扱いだったのに? キヨちゃん?」

「私も、あの事は納得したわけでは……。」


 キヨの追い打ちで有罪確定となり、さんざん殴られるはめに。兵がカルを引きはがすころには意識が飛びかけていた。


 翌日、朝食が終わった時間にチャラ男の屋敷に数人の女の子がやってくる。反乱騒ぎでかなりの子がまきぞになったが、残った子供達は一緒にチャラ男の屋敷に引っ越してきて細々とミカンの孤児院を継続しているのだ。

 二階からミカンが新たに来た子にそれぞれ挨拶していく、妹と向き合っても他の子と変わらない対応をしているように見える。気が付かなかったのかもしれない、キヨは私にも言わないでほしかったと軽いジャブをもらう。

 フィール運営の幹部達、カルも加わった初の会議を始めようと声をかけたところで、扉が乱暴に開いてミカンが入ってくる、俺を見つけると走ってきて抱き着く、そして椅子ごと床に押し倒される。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「ミカン! みなさんいる前で、はなれなさい!」キヨは、冷静に引き離そうとしているが目は涙目になっている。

「もう会う事は無いと、妹は最初から居なかったと、私の記憶からも消えたのだとあきらめていました……。ありがとうございます、ミカンはなんでもいたします、一生主様の奴隷として生きていきます。」

「俺の身を案じてくれるなら、離れてくれ。そして言葉を選んでくれ、キヨとカルに殺される……。」

「……も、もうしわけございません。」

「ミカン、あの子には……。」

「はい、姉妹である事は言いません。みなと同じよう主様の娘として対等に接します。」

「娘かぁ……。」


 キヨがミカンを連れ出すと、ミラは怪しげな笑顔。


「ミラ、変な事に使うなよ。」

「つかいませんよ、なんだかんだで結構善人だよね。」

「……そうでもないぞ、教会が子供の記憶消すってのは、魂を入れ替えてるって噂だからな。実際に本人かどうかは、教会関係者でも意見が分かれる。」

「見た目が同じ別人かぁ、確かに微妙だねぇ……。それでもさっきのミカンちゃんの反応みたら、色々吹っ飛ばしていい気もするけどね。……それで、やっぱり、男の夢、美人姉妹同時に……。」

「しねーよ!」


 そんな俺の声よりも大きく、カルが剣で机を叩く。


「ヒロ、後で剣の稽古でもしながらじっくりと話そうか。」


 剣の稽古が必要なのは俺自身わかってはいる、圧勝して相手がひれ伏すとかやってみたい……とか思うのだがそんな欲望は素振り数回で消えてしまう。カルとの稽古は、顧問がパワハラで訴えられる系のやつだな、ひれ伏しても終わらないやつだろう。なんとか今日の会議は深夜までひっぱって稽古を延期させねばならない。

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