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夢者  作者: 高島 良
111/119

領主11

 チャラ男の屋敷についたのはもう日付が変わる頃、俺にあてがわれた寝室の明かりはついていて、予想通りキヨが待っているのだろう。

 チャラ男と軽く食事をとって寝室へ向かおうとすると、呼び止められる。


「ヒロさん、風呂入ってからのがいんじゃないですか? キヨちゃん初めてでしょ?」

「いやしないからな! それに向こうで、寒い中水浴びさせただろうがお前が!」

「しかたないでしょう、救世主がさすがに泥まみれってわけにはいかないし。」

「お前は顔洗っただけだったじゃないか、とにかくだ、いかにもってのは避けたいんだよ。もう何も言うな、覚悟がブレる。」


 いつもなら、これぐらいでだまる奴ではないはずなのだが、止めてほしいときは引き止めない。気が利くのかきかないのか。


 無駄に広い寝室に入ると、中央にキヨが白い着物を着て正座しており無言で頭を下げる、その前には守り刀だろうか黒塗りの棒が置いてある。物騒な刃物を挟んで床に座る、長い髪を後ろに止めてあるのか、しかし正座でも今更だが動作が綺麗だ。


「キヨ……、まぁ大体わかるけど……話を聞こうかな。」

「私は主を裏切ったのです、この命で償わさせていただきたく存じます。もし、お情けをいただけるのであれば主様の手で罰を与えていただきたく……。」

「やめやめ……。べつに裏切ってないだろうが、むしろ騙してたのは俺のほうだし。いまさら主とか呼ばれるのは、俺にはかなり辛いんだけどな。」

「しかし、私は主様の奴隷なのです、どんな事でも主様の意向にそった……。」

「キヨ! ……とりあえず椅子に座ろう、床は冷たいだろ。」

「はい……。」


 と返事をしたのに、キヨは頭を上げはしたが正座のまま動かない。


「あの、私はこのままで……。」

「ん?」


 窓際の椅子に腰かけたがキヨは背中を向けたまま、いくらなんでもこれで話をするのはおかしい。しばらく待ったがキヨは動こうとしない。

 すこしうつむき床を見るキヨの隣にすわる。悲しげなその顔も絵になる美少女だが、説得するにはどうすればいいのか俺にはわからない、とりあえず俺も正座してみるが数分で足が痛くなってあぐらに変える……。


「キヨ、どれぐらいここに座ってる?」

「……それは、夕刻から……。」

「ほう……。」


 人差し指で軽くキヨの太ももを押すと、一瞬顔がゆがむがすぐに持ち直す、さすが本物の姫。


「いまので誤魔化したつもり?」

「……命を絶つだけでは足りないのであれば、どうぞお言いつけください。」


 流石にちょっとイラついたので、確認もせずにキヨを抱き上げる。一瞬かわいい悲鳴を小さく上げて、顔を赤くする。おいおい、死ぬ気だったんじゃ? とか思ってしまうが、顔を背ける仕草がかわいくてしょうがない。ベッドに座らせると、すこしはだけた裾を急いでなおす。こっちの世界の女の人は、大抵足を見せない、孤児院の制服も短めのスカートにしようとしたらいろんな人に猛反対されたほどだ。


「キヨ、その着物を膝上まで切って広場に立ってろって言ったらどうする?」


 一瞬驚き、涙をこらえるような顔をして、拳をにぎる。


「主様のご希望であれば、どのような殿方が相手でも勤めをはたします。」

「そんな事させるわけないだろう! もうなんか色々どうでもよくなってきた……、俺って結構残酷なんだよね、君が一番やりたくない事を罪にしようか。」


 キヨの顔が不安から恐怖に変わっていくのが分かる、守り刀を抜きキヨの前に両膝をついて立ち、刃先を握って心臓の前にもってくる。


「俺の奴隷で、どんな事もするんだろう? 俺は、君の言葉を聞いて生きる気力を失ったよ、元々そんなにないけどな……。どんな罪も受けるんだろ? だったら、俺のみじめな人生を今ここで、終わらせてくれ。」


 キヨは肩を振わせて動かない、彼女の手をとって守り刀を握らせると刃を握っている手にその震えが伝わってくる。


「もう……、お許しください、他のどんな罰もお受けいたします、ですから……。」


 すこしキヨに体を近づけると、彼女は慌てて手を離す。震える手でまた掴みなおそうとする、流石にやりすぎかな、刃を床においてそっと彼女を抱きしめる。


「ごめん、好きな子はいじめたくなるんだ。ほんと無事でよかった、……おかえり。」

「……はい、もどりました。」


 そういうとキヨは細い腕で俺を抱きしめてわんわん泣いた。


 ひとしきり泣いた後、疲れてベッドに横になる、俺も隣に寝て彼女のほほに手をあてると、目を閉じてその感触を確かめる、まるでじゃれる猫みたいだ。


「落ち着いた?」

「はい、申し訳ありませんでした。」

「……やったことないけど、夫婦や恋人との喧嘩ってこんな感じなのかな。」

「刃物はでないかと……。」

「誰が用意したんだ、誰が。」

「すいません……、寝室にお呼びになるのでそういう意味かと。」

「キヨ以外でそっちに考えててた奴はあの場にいなかったぞ。」


 そういってすこしはだけたキヨの着物の裾をなおす。ちょっと足に触れた為か、キヨは驚いたのかよくわからない表情を見せる。


「それは、驚いてるわけ? それとも期待を裏切られたって顔?」

「それは、含めて色々な感情です。」

「どっちにしてもその首輪が付いてるうちは、なにもしないよ。」


 正直言えば、もしミカンだったら抑えが効かない気がする。ミカンはもう解除の見通しが見えているから。キヨは、どんな形にせよ解除後に俺達が会う事は無いだろう、解除よりも手放せかるかどうかの方が不安だ。


「キヨ、あの刀って高価な物なの?」

「母の嫁入り道具です。……ヒロさんの元に来る前に、国王陛下から新たな主を守ってほしいと渡された……。」

「ほう、俺が引き受けるとみんな分かってたのね。それで、その話をずっと黙ってたと……。」

「とくに聞かれませんでしたので……。」

「俺のいつもの言い訳と変わらなくない?」

「……すいません。……これからどうされるおつもりですか?」

「解除まで変わらないよ、日々生きのこるため出来る事をやっていくだけだ。」

「歯向かった奴隷にフィールの全権を預けるなんて、また混乱を招く事にもなりかねません。処刑は無理でも、せめて牢か追放に。」

「キヨ、君がいなかったら俺はひと月も領地の管理なんて出来ないさ。そうして、俺を恨んでる奴につかまって、もう殺してくれと声に出す事も出来ないくらいまで毎日拷問される。……君の仕事はそうならないよう、俺を守る事と、もしどうしようもないほど追い詰められたら、捕まる前に君が終わらせる事だ。」

「……そんな事、させません。」

「最後に見るのが地下牢の壁なんて流石にさみしいだろ、君を目に焼き付けてから死にたい。」

「ぜったいに、ぜったいに! そんな事させません。」

「約束してくれ、最後の時期は俺の願いをかなえると。」

「……わかりました、それが私への罰だと言うのなら。」

「……いや、罰はまた別だな。」

「他にですか、……ちなみにどんな?」

「これから寒くなってくるから、朝練で凍るほど手が冷たくなったら、キヨの内股で温めさせてもらう。」

「……屋内の射的場をつくられては?」

「ミカンの胸にするかな。」

「……わかりました! ……本当にそんな事で今回の事を許してしまうおつもりですか?」

「もっとエロいやつのがいい?」

「そういう意味じゃないです!」

「これからも含めて全部……許すもなにも明日俺が姿を見せなくなって、君が俺の指示だと言えば誰も反論なんてしないだろう。今でも俺は君に逆らえない、だろ? この部屋に暗殺者を招き入れたり、誰かに命令して俺に猿ぐつわしてベッドに縛り付けたり……今一瞬悪い目になったな。」

「ちょっとだけ想像してしまっただけです。」

「なぁ、キヨ……もし俺のキズナが現れたら……どうする?」

「……私は、物語にでてくる優しい女の子じゃない……ですからなんていうか、ヒロさんがその人を一番に想う事はわかってます、それでも私はヒロさんの側にいたいです。でも、素直に歓迎は出来ないかもしれません、それでも許してくれますか?」

「許すけど、考えは言ってほしいかな。」

「わかりました。……それと、ミラさんが英雄化路線に切り替えてますから、引退は出来ませんよ?」

「隠居ぐらしかぁ、ちょっとは考えたけどやっぱりだめか。」

「当たり前です……、フィールの金庫は現在空ですから走り回っていただかないといけません。」

「そうだよなぁ、そもそも春先に出兵ってどれぐらいいける?」

「……反乱の復興でもギリギリでしたが、今回の討伐戦で越冬用の油をほぼ使ってしまいましたので買い集める為にかなりの額を借りねばなりませんが……。」

「貸してくれても後が大変と……。」

「はい、そもそも資金が無いと知れ渡れば兵や傭兵が町を離れ、盗賊や敵対する領主に狙われますから……。」

「なんかすでにつんでそうだけど、なにか解決策はある?」

「……色々と危険ではありますが、お茶会など……。」

「それがお金になるのか?」

「その……、今迄は数件のお見合いでしたが……。」

「けっこうやらされた感じだけど……。」

「……すいません、あれもさまざまな政治としてのカードとして有効でして。」

「それはまかせてるから……ん? お茶会って貴族の娘達とって事?」

「はい……国外からもかなりの依頼がありまして、領主多忙の為と王都で待機している方も……。」

「……待たせて値を釣り上げるのかやり手だなぁ、実際には俺が怖くて逃げだすような娘だけ調整してたってこと?」

「はい……、その、間違いが起こってしまってはもみ消しにお金がかかりますし。」

「信用ないなぁ、そこまで下半身の欲望に素直じゃないぞ。」

「いえ、それはヒロ様ではなく、そのお相手の方がですね……。」

「俺を押し倒して力づくって、そんなアンみたいなマッチョな貴族の娘はいないだろ。……俺もホスト役に徹して少しは頑張るから、必要なとこで使ってくれ。」

「……だ、だめです!」

「なに? もしかして嫉妬してるのか?」

「します、します! 本当は夜会での奥様方への挨拶だってさせたくないです!」

「おいおい、そこまで……。それにしたって、俺がそんなにモテるわけないだろ。」

「……傭兵村から救援に駆け付けた先では、魔物の討伐後に宿の前に女性達の行列が出来たとお聞きしております。」

「まてまて、今と一緒だよ山城攻める為とか色々金が必要でしかたなく、しかたなくだ……確かに誘惑に弱いのは認めるけど。それにだ、あれは数日だけだ、一週間もすれば平均以下の扱いになる、問題が起きるからさっさと帰ってくれって空気に変わるんだ。」

「そんなわけありません、ヒロ様は戦果や功績がなくても魅力的……です。……その瞳に、他の女性を映したくないです、子供であっても。」

「地下牢にでもつないでおくか?」

「……少しだけ考えてしまいます。」

「その首輪が外れたら好きにしたらいい、いままでの恨みとして俺を鎖につないでもいい。全て好きにしたらいいよ。」


 ゆっくりと綺麗な黒髪をなでると、静かに目を閉じる。こんな平和な時間も後どれだけ続くのか、昔は権力者の地位は安定していて、機嫌一つで平民は殺されるんだとなんとなく思っていた。実際には一手間違えば吊るされる、外見を着飾り実際には無い力を誇示していかなければすぐにも終わりがやってくる、そんな気がする。

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